第三十三話 現状把握
「殿下への提案の前に、気になっていらっしゃることをお伝えします」
全てが気になるが、相手の・・・。神殿がどんな情報を持っているのか気になってしまう。
「姉たちのことか?」
視線から、アーティファクトに隔離されている者たちのことだろう。
正直にいえば、神殿が始末してくれるのなら、全面的にお任せしてしまいたい。害悪しかない存在だ。特に、皇国の連中を率いてなど愚かすぎて・・・。どんな条件だったのかききたくもない。皇国に何を吹き込まれたのかわからないが・・・。死んでくれた方が嬉しい。
「彼女たちは、エルフの里に危害を加えようとしたために捕らえました。皇国の兵も混じっています。彼らは、”帝国に請われて加わっただけで、エルフの里が攻撃対象だと知らなかった”と言っています」
言い訳にしてもお粗末だ。
皇国が、エルフやドワーフを亜人と呼んでさげすんでいるのは周知の事実だ。そして、エルフが神殿を得たことで、力を持つのを恐れたのだろう。
「それで?」
「攻め込んできた1148名の全員を捕縛しました。けが人はいますが死者は出していません」
全員を捕縛?
それに、1000名をこえる者たちを?
数名のけが人だけで?死者が居ない?
どれだけの戦力差があったのか・・・。
しかし、エルフの里にけが人が出てしまうと、落としどころが難しくなる。
姉たちの命だけで済めばいいが・・・。
「え?エルフにけが人?大丈夫ですか?治療は?」
「失礼しました。エルフの里の関係者および神殿の者たちにけが人はいません。かすり傷を負った者はいますが、それだけです。けが人は、帝国と皇国の兵士です。帝国兵と皇国兵のけが人は、スキルで動ける程度には回復させました」
「は?」
「彼らの対処ですが、引き取ってくれますか?」
捕虜にしないのか?
そもそも、渡されても処理に困ってしまう。
「いや・・・。無理です」
正直に”無理”と伝えると、苦笑いを返してくれる。
カスパル殿は予測していたのだろう。私からの返答を聞いてから咳払いをした。
「殿下。帝国の状況を教えてください」
話を変えてきた所を見ると、本題に入るのだろう。
質問の形を取ってくるようだが、尋問に近いと考えた方がいい。
「かまいません。なんでも聞いてください」
カスパル殿が質問をしてくるのだが、時折アラニス・・・。ディアス殿が助言を行っている。
最初から質問が決められていたのではなさそうだ。
質問には、知っている内容なら正直に答える。知らない内容なら、”知らない”と正直に答える。
内容は、本当に帝国国内のことで、調べれば知られてしまうような内容だ。
もしかしたら、私が質問にしっかりと答えているのか確認するための質問なのか?
質問が止まった。
カスパル殿とディス殿が何やら話をしてから、カスパル殿が私の前に来て、咳払いをする。質問は終わったのか?
「殿下。先ほどお伝えした通り、殿下や配下の者たちを神殿にお迎えはできません」
「・・・。無理なのか?」
やはり・・・。
「無理です。王国に打診しましたが、王国も火種が残った状態では、難しいという返事をもらっています。もちろん、エルフの里も同じです」
王国にも問い合わせをしてくれている?
神殿も王国もダメだとすると、当然エルフの里もダメなのは納得ができる。そもそも、亡命先にエルフの里は考えていなかった。
「火種が消えれば、亡命を受け入れてくれるのか?」
「殿下。お考え違いをされています。火種が消えたら、殿下が亡命する必要がないのでは?」
アラニスの伴侶だ。
まてよ・・・。
「火種が無くなるのか?」
「殿下が考える火種は?」
そういわれれば・・・。
二人の兄は自滅するだろう。
兄のどちらかが神殿の攻略が・・・。無理だ。アーティファクトを見ただけでわかる。戦おうと思うのが間違っている。有利な状況を作り出したとしても、最終局面では、神殿のテリトリーだ。神殿が有利になるのは間違いない。
優秀な妹は既に神殿に亡命している。
愚かな姉は掴まって、生殺与奪は神殿に・・・。こちらが握っている。
野心家の弟は、野心だけは大きいが、能力が伴わない。夢想家と言ってもいいだろう。
「あっ。神殿が得ている情報では、殿下の弟君は、第一皇子に命令された者たちによって幽閉されました。その後、脱出を試みて成功しましたが、”幽玄の塔”に逃げ込んで、幽玄の塔の住人と一緒に殺されてしまいました」
「え?幽玄の塔?父は、陛下は?」
「現在は、第一皇子が実権を握っています。しかし、アラニスの儀式が受けられないために、皇帝は名乗っていません。ちなみに、試練の間も第一皇子の命令で破壊されているので、儀式は難しいと考えてください」
実権を握っている?
陛下を弑いたのか?弟が殺したことにしたのか?
「それでは、皇国から来ている者たちは?」
「私たち神殿勢力には関係ないことです」
ディアス嬢を見ると首を振っている。
「・・・」
よくわからないが、これで兄が消えれば確かに火種が消える。
私だけが残る結果になる。
そのうえ、皇国から来ている邪魔な連中も始末されている。
姉の身柄を抑えている。
姉に従ってきている中には、皇国の神官でかなりの身分の者も居たように見える。名前までは知らないが、服装で判断ができる。
「第二皇子は、まもなく捕縛されるでしょう」
「は?」
「ユーラットに上陸はできたようですが、すでに神殿の手の者たちに包囲されています。半日程度前の情報ですが、捕縛されるのは時間の問題です。上陸の時に使われた船は、焼き払われています。ユーラットには、食料はありません。第二皇子が上陸を目指した時点で、ユーラットは放棄しています。ユーラット近くにある魔の森で、狩りをすれば食料は得られるでしょうが、第二皇子たちに可能でしょうか?奴隷兵たちはすでに解放されています。下級兵士も神殿が保護しています」
「・・・。神殿の掌の上ですか・・・」
怖くなってきた。
どこまで考えていたのか?
「違います。帝国が攻めてこなければ、神殿は動きません」
「・・・。そうですね」
正論だが・・・。
神殿の勢力が増大して、帝国国内が抑えられなくなるのは時間の問題だった。それさえも調整されていたのか?
エルフの里から収益を得ていた、第二皇子の配下の者たちが暴発する。それに、皇国から来ていた第一皇子を支援する形で支配下に置こうとしている者たちが乗る形になった。
アデレードの亡命から・・・。
この絵が描かれていたのだとしたら・・・。
「それから、帝国がどのような呼び方をしているのかわかりませんが、帝国と王国をつなぐ街道に作ったトーアヴァルデから、帝国に逆侵攻をおこないます。包囲している者たちには、殲滅命令が出ています。そして、
「師団?5,000人規模であたる魔物?」
「そうです。あえて、魔物の種別は言いませんが、全て亜種や変異種です。一番弱いと思われる魔物は、ストーンゴーレムですが、ミスリルゴーレムが率いていてミスリルゴーレムが倒されない限り復活します」
「・・・。無理だ」
「魔物を攻撃してこないかぎり、魔物から攻撃は行いません」
「・・・」
「建物への攻撃も最小限に抑えるように命令されています。目的地は帝都です。正確には、帝国が保持している神殿です」
「え?」
「アラニスが居るのですよ?知っていて当然だと思いませんか?」
「・・・」
「そして、ディアスから提案です」
「?」
「アラニスの呪いを解放してください」
「それは・・・」
「簡単です。アラニスの鍵を、譲渡します」
「そんなことが?」
「可能です。神殿の・・・。神殿の主様が・・・」
「それは・・・。誰でも可能なのか?」
「無理です。女性であること、そして・・・」
アンネラに視線が集中する。