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031・ダブルブッキング?


「ええ~みなさん、お待たせ致しました。元々の昇級試験を担当する
冒険者の相良が試験官を放棄した事により、昇級試験が一時中断となって
おりましたが、急遽の嘆願の結果『戦乙女』のリーダー、風菜さんが
代わりに昇級試験の試験官をやっていただける事になりました!」

「どうも~望月っちのご紹介を受けた『戦乙女』リーダーの倉井風菜(くらいふうな)です!」

望月の紹介で、ステージに上がった風菜が、試験を受ける新人冒険者と
会場にいるみんなに、ニコリとした笑顔で会釈をペコッとする。

「おおぉぉお!?マ、マ、マジかっ!あ、あの『戦乙女』の風菜さんと
戦えるのか!?」

「昇級試験なんて受ける訳ないじゃんと思っていたけどさ、これは是非
とも受けなければいけないようだなっ!」

「わ、私も受ける!あのA級冒険者...しかもあの風菜さんと戦える機会
なんて滅多にないだろうしさっ!」

「だ、だよね!そ、それだったら!わ、わたしも受けちゃおうっと!」

風菜が試験官を担当すると知った新人冒険者達は、興奮した表情で
望月の所に試験を受けるべく、次々と移動して行く。

そんな中、

「あ、あれ?風菜さんがいる!?」

「ん?小鳥、今戻ってきたんですか?」

望月がもう一人の試験担当のお姉さんこと、小鳥が戻ってきた事に気づく。

「もう風菜さん~今まで一体どこにいっていたんですかぁ~!『戦乙女』の
パーティがグラウンドにいると聞いて行ったのに、誰もいないんだもの!」

「はは、ちょっと野暮用でちょいとね!で、そっちにいるのは『黄昏の果て』の
佐々木さんだよね?」

「おうよ!小鳥ちゃんが今夜、デートしてくれるって言うもんだから、
試験官の代理人ってやつを受けちゃった♪」

小鳥の連れてきた『黄昏の果て』のパーティメンバー、佐々木が満面の
笑みで小鳥の肩をポンポンと軽く叩きながら、そう答える。

「デ、デートじゃありません!一緒にご飯を食べに行く『だけ』ですっ!」

そんな佐々木の言葉に、小鳥が目をカッと見開いて間違いを正す。

「しかしまさか佐々木くん、あなたも来てくれるだなんてね...でもこれは
どうしましょうか?試験官は正直二人もいらないし......という訳なんで
佐々木くん。悪いんだけどキミの出番はなしという事で良いかな?」

「おいおい、そりゃないぜ、望月さんよ!出番なしだと小鳥ちゃんとの
楽しいデートがオジャンのパーになっちゃうじゃんかよ!」

「何度も言いますけど、デートじゃありません!単なるお食事をする
だけです!『食』のみですっ!!」

佐々木の抗議に、再度小鳥が食事をするだけと強調口調で正す。

「もう、小鳥ちゃんは相変わらず細かいな~♪そういうとこも好きだぜ♪」

「うげぇ!やめろ、ウインクすんなしぃっ!」

佐々木の苛立つチャラ言動に対し、小鳥が露骨に嫌な顔をして嗚咽を吐く。

「...とまぁ。そういう事で、小鳥ちゃんとの楽しいデー...コホン、お食事会
のチケットをゲットしたんだ。それがおじゃんになっちまうのはマジで
勘弁だぜ!せっかく大事な特訓を後回しにしてまでここの来てやったんだ。
だというのに、何も果たせずに帰れだなんて、流石にその言葉は不義理が
過ぎるんじゃないのかい、望月さんよ~?」

「うぐ、確かに...今の発言は軽率な言葉でしたね。すいませんでした、
佐々木さん」

佐々木の正論を認めた望月が、頭を下げて謝罪する。

「いいさ、謝まるんだったら許す。あ、そうだ。こういうのはどうだろか、
望月さん?俺が男性を、そして風菜ちゃんが女性を別の場所で同時に担当を
するってのはさ?時間を取られてあんま余裕がないんだろう?」

「......はい。あの馬鹿の...コホン、相良さんのせいで随分時間が押して
いますね......」

時計をチラッと見て、相良(さがら)のせいで時間がない事を改めて再確認する。

「なら、これでいこうぜ!効率よくちゃちゃっと終わらせる為にもさ♪」

「そうですね。分かりました......それでいきますか!」

時間がないのは間違いないので、望月は佐々木の案を採用する事にした。

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