028・試験官の代理を探せ
「な、なんだ！？今の不愉快全開の声は？」
俺はこの癪に障る大きな声のしてきた方に顔を向ける。
すると、
「そこを何とかお願いします、相良様！今日このギルドにC級以上の
冒険者はあなたしかいないんですよ！」
「うるせぇぇえ、知るか、ボケッ！いいから離せやぁぁぁああっ！！」
チャラそうな男を必死に引き止めようとしている、ギルド員らしき
お姉さんが見えた。
「あ、あのチャラ男！さっきグラウンドで成美の事をナンパしようと
していた、自称C級冒険者じゃないか！？」
イライラした口調のチャラ野郎の服の袖をギルド員のお姉さんが掴んで、
懸命に何かを頼み込んでいるな？
「だから嫌だって言っているだろうが！あれを見てみろや、あれをっ！
さっきから俺の事をニヤニヤした目線で笑っている連中をぉぉぉおおっ！
こんな視線の中で冷静な判断で試験官なんてやってられるかぁぁああっ！」
チャラ野郎のいう、笑っている連中とやらに目線を向けると、
「くくく。おい、見てみなよ！あいつ、さっきグラウンドの近くで
お漏らしをしていた奴じゃねぇか？」
「ああ、俺も見たから知っている。あれでC級冒険者らしいぜ、あいつ！」
「あんなみっともない奴がC級冒険者なんてよ、上級冒険者の地位を
狙っている者の立場からして、ガッカリしちゃうよな！」
「しかも、ナンパした相手の彼氏にやられたらしいぞ！」
「あいつその彼氏に逆ギレかまして排除しようとして、その結果
返り討ちにあったらしいぜ！」
「じゃあ何か？彼氏付きの彼女をナンパしようとした挙げ句、彼氏くんの
怒りに逆上したけど返り討ち。で、あのお漏らしって訳なのか？うわぁ～
それはかなりクッッソダサいなぁあっ！？」
「「あはは、だろぉ～♪」」
ニヤニヤした表情で成美をナンパした、あのチャラ野郎を非難したり、
小馬鹿にしていた。
「おい、そこでおれさまの悪口言っていやがるてめえらぁぁぁあっ！
てめらの面、しっかり記憶したからなぁぁぁあっ！後で覚えていやがれ
よぉぉぉおっ！！」
「......相良さん、もしあの人達に大した理由もなく何か問題を起こし
たら、即D級に格下げですからね？いいですね？」
会場で自分の悪口を飛び交わせる連中に、乱暴な言葉で怒りを露にして
いるナンパ野郎の肩をパンッと叩くと、ギルド員のお姉さんが圧の込った
ニコニコ表情でそう注意してくる。
「うぐぅ。ち、ちょっと不満が過剰しただけだ！勿論何もしねぇって！」
ギルド員のお姉さんの圧ある表情に怖じ気ついたの、ナンパ野郎が
たじろぎながら先程の暴言に対して謝罪する。
「ともかく！こんなクソ状況下で試験官なんぞやっていられるかぁあっ！！
そういう訳だから俺は帰らせてもらうぞっ！！」
そしてチャラ野郎が改めてギルド員のお姉さんに顔にこう告げた後、
「くそがぁぁあっ！ええい、邪魔だぁぁあっ！どけどけぇぇぇええっ！！」
ニヤニヤ笑う冒険者達やギルドを見学しにきた人達を強引に掻き分け、
脱兎の如き早足で会場から離れて行った。
「ち、ちょっとぉ～～待って下さいよ～～相良さぁぁぁ～～～んっ！
ああ...行ってしまいました......」
それをギルド員のお姉さんが必死に追い掛けて止めようとするが、
しかしナンパ野郎の足は意外に素早く、結局ナンパ野郎を掴まえる事は
叶わなかった。
「ハァ、参ったなぁ......どうしましょうか、望月先輩？担当だった相良さん
がいないんじゃ、昇級試験の準備も開始もできませんけど？」
「やれやれ。ホント相良さんにも困った者ですね。でもあなたの言うよう
に、このままじゃ昇級試験を開始出来ませんし、さてはて一体どうしたら
良いものかしら？」
チャラ野郎の我儘勝手な行動に、望月先輩と呼ばれたもうひとりの昇級
試験係のギルド員のお姉さんが深い嘆息を吐くと、腕組みをしながら頭を
悩ませる。
そして数秒考えたあと、
「......仕方ない。他に代理人を探しますか」
「だ、代理人...ですか？で、でもいますかね？急募で試験官をやってくれ
そうな、奇特なC級以上の冒険者さんが？」
「そうねぇ...今日このギルドにいる事が確認出来ているC級以上の冒険者
は、A級パーティの『戦乙女』と『黄昏の果て』の二組いるけれども......」
「A級パーティですか...でもそのクラスともなると、ダンジョンでどう
行動をするかの打ち合わせや、それまでの体力の温存。武器や防具の
メンテナンスや、持っていくべき道具の確認や補給。はたまた戦闘
パターンの特訓、等々で色々と忙しいでしょうから試験官なんてきっと
やってくれないと思いますよ？」
「でも緊急だと嘆願したらやってくれるかもしれない。なので、ダメ元
かもしれませんが、その二組のパーティに頼み込んでみましょう！」
望月が後輩の試験担当の女性にそう言うと、
