024・いざ、能力測定へ
「きっとその年寄り連中って、挫折もなく肯定ばかりの勝ち組の人生を
おくっている奴らばっかりだったんでしょうね。だから否定をされたり、
逆らわれた事が理解出来なかったのかな?」
「だろうな。そいつら、自分達の事を上級市民のエリート様とでも思って
いそうだしな。だから「何で上級市民のエリート様の命令が聞けないんだ
よ、この愚民共がぁぁあっ!」とかいって、理不尽な怒りを露にして
いたんだろうね」
「うん。説明係のお姉さんの話を聞くに、多分そうだと思う」
「ほいほい、お姉さん!そんな事より私ひとつ気になったんですけど、
そこまで国に謀反を起こした冒険者の発信源である冒険ギルドだって
のに、よく普通に今も活動出来てますよね?」
新人冒険者のひとりが手を大きく上げ、説明係りのお姉さんに質問する。
「俺もちょっと気になるな。なんやかんや言っても冒険ギルドって国が
バックにあった組織だったんだ。その冒険ギルドから泥をタップリと
塗られんだ。だというのに、よく国は腹いせで何かしらの嫌がらせとか
邪魔をして、冒険ギルドの運営の妨害をしてこなかったよな?」
「ああ、確かにその辺はスッゴく気になるね?」
「フムフム。何故国に逆らった冒険ギルドが、何故今も普通に機能して
いるのか...ですか?それはですね、実は先程話した愚かな年寄り連中の
他に全く真逆の派閥がありましてね」
「真逆の派閥...ですか?」
「はい。冒険者達に喧嘩を売った先程の話に出来てきた年寄り連中とは、
また違った立場に身を置く派閥なのですが。その連中は冒険者達から
無理やり税をせしめるよりも、冒険者達が持ってくるドロップアイテムや
素材や魔石を売ったり、それらを元に新アイテムを開発した方が十二分に
利益が出るという判断をいち早くしていたらしく......」
説明係りのお姉さんが一呼吸置くと、話を続ける。
「......そしてあのストライキの後、あの消えていった愚かな年寄り達の
いった場所にその派閥が腰を置き、そして莫大な投資を元手にこの騒動で
傾きかけていた冒険ギルドを修復......再構築したいきました。更にこの
ストライキにてやる気の無くなった冒険者達のやる気を上昇させるべく、
もういっそのこと冒険者達の税は無し...免除にしてはと、国に働き掛けた
らしいんです」
説明係りのお姉さんが、何故冒険ギルドが潰れずにいるのか、何故冒険者に
税が発動しないのか、それを新人冒険者達に説明していく。
「へぇ~。どこの世代にも、空気を読める連中と読めない連中って
いるんだな.....」
「だけど、強引な税のせしめから税無しの提案とは、これまた極端だね?」
「でもその極端の結果、冒険ギルドも冒険者も物凄く活気に溢れている
訳だし、それが正解だったんだろうな?」
「だな。これが目先の金に目が眩んで滅んだ連中と、ずっと先の稼ぎを
見据えて生き残った連中との差か......」
「そうですね。皆様の言う様に、冒険者達の持ってくるドロップアイテムや
素材、そして魔石を利益とし、優先的にした方がいいという改革の流れは
見事に成功し、冒険者の持ち込むドロップアイテムや素材、魔石の量が
数十倍にアップしました。そして今現在。子供達のなりたい職業ナンバー
ワンの大企業...冒険ギルドへと育った。以上がそんな感じの流れですね♪」
説明係のお姉さんが満円のニッコリした笑顔で、新人冒険者の質問に
対しての話をしめた。
「うふふ。ホント冒険者達を無罪にって動いたのも、この派閥の年寄り
連中ですし、喧嘩を売る事なく、静観を決め込む事で危ない橋を上手く
回避し、旨い汁だけを頂く事に成功するなんて...あの年寄りさん達め。
目敏くも小賢しい連中ですよねぇ♪」
説明係のお姉さんが、今のギルドを仕切っている年寄り達に不満でも
あるのか、先程までのニッコリ笑顔が黒いニッコリへと変わっていく。
「はう!?お、お姉さんの表情と言い方が黒い!?」
「よほど今の年寄り達に対しても、何かのいちもつがあるんだろうな...」
「おっと、すいません!取り乱してしまいました!ケフン......で、では
皆様、以上を持ちまして簡素ではございますが、冒険者の心得とルール
の説明。そして税とそれにまつわるお話を終わらせてもらいますね。
皆さん、お疲れ様でした!」
冒険者の心得とルールの説明を終えたお姉さんが、新人冒険者達に軽く
頭を下げると、説明に使用した電子機器の電源を消し、カバンの中へと
仕舞い込んだ。
「それでは皆様。先程の説明にもございました、能力値を計測する作業を
隣の部屋にて行いますので、お荷物を持って移動して下さいね!」
説明係のお姉さんが、説明会を受け終えた新人冒険者達に次のするべき
行動を伝える。
そして、
「この測定いかんであなた方の能力値が大方分かります。ですが、もしも
能力値が低かったとしても、巻き返しのチャンスは大いにございますます
ので、あまりショックと落ち込まない様にして下さいね。それでは皆様の
ご武運、祈っております♪」
説明係のお姉さんが微笑みを浮かべて、集まっている新人冒険者達に
そう言った後、部屋から静かに出て行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふう、やっと終わったな!」
しかしこっちの冒険者ギルドも、あのクソ貴族みたいな連中はいるんだな。
ホントあいつら何様だったからなぁ。
ああ、思い出したら腹が立ってきたっ!!
俺はあっちの世界のクソ貴族どものせいで巻き込まれた案件を
思い出し、表情をイラッとさせる。
「ど、どうしたのお兄ちゃん?怖い顔をしちゃって?お姉さんのお話に
疲れちゃった?」
「い、いやそうじゃないんだが、ちょっと嫌な事を思い出してな!」
「嫌な事?もしかしてあの浮気女の事?」
「はは、まあそんな所かな。そんじゃ成美、お姉さんの言っていた隣部屋と
やらに移動するとしようか!」
俺は成美の問いを軽くごまかすと、長い間座っていた事で疲れを取るべく
背伸びを大きくした後、テーブルの上に乗せていたリュックを手に持ち、
そして成美と共に隣の部屋へと移動して行く。