018・妹の疑惑の目
「ねぇ、お兄ちゃん。あのナンパチャラ野郎に何をしたの？」
未だ俺の腕に抱きついている成美がか細き声でそう言うと、上目遣いで
こっちをジッと見てくる。
「え？」
「だってあのナンパチャラ野郎、お兄ちゃんに睨まれた途端、咆哮を
雄叫ぶし、腰は抜かすし、あまつお漏らしはするしさっ！こんな不可解
な事が目の前で起きたらめっちゃ気になるじゃんかっ！で、あいつに
何をやったのよ、お兄ちゃん？」
「え、えっとだな......それはその......な、何と言いましょうか......」
うぐ、弱ったな。
一体どう説明したら納得してくれるだろうか？
『無者の威圧』であいつが怖じ気ついた隙を狙って、あの場を去ろうと
したのに、まさかの恐怖の雄叫びとお漏らしをするとは予想外だったよ。
レベルを思いっきり下げた『無者の威圧』だというのに。
おのれチャラ野郎めぇぇぇえっ！
なぁ～にが俺様はC級冒険者だぞぉ～......だぁあっ！
どうみても嘘じゃんかっ！
あいつ絶っ対、一番最低のランクだぞっ！！
......おっといかんいかん、怒っている場合じゃないっ！
と、取り敢えず、成美に納得しそうな言い訳をしなきゃっ！
......コホン。
「......え、えっとほら、お、俺ってさ、まぁまぁ目付き悪いじゃん？
だからさ、あのチャラ男の奴、俺の事を
じゃねぇのかな？」
「ああ、なるほ。初見でお兄ちゃんから睨まれたらマジ怖いか、うん♪」
俺の言い訳に、成美はそっかと納得する。
「しっかしお兄ちゃん、あいつに良くあれだけの啖呵を切れたよねぇ？
昔のお兄ちゃんだったら「あう～あう～」とか「そ、その～」とか
「あ、あの～」とか言って、言葉を思いっきり詰まらせていたのさ？」
「はは、そうだったな。俺ってば、動揺するといっつもテンパって言葉を
引っ掻けまくりだったもんな。いや～懐かしい思い出だよ～♪」
「いや、懐かしい思い出って...その思い出、昨日までのお兄ちゃんの
事なんですけど！？ああでも、もしかしたらあのクソ浮気女の恵美の奴を
吹っ切った事が、お兄ちゃんを男として進化させちゃったのかもねぇ♪」
成美がそう自己完結すると、ニコニコ顔で俺の腕に自分の腕をギュッと
絡めてくる。
「進化......か」
まぁ、確かにあいつが動力原となって進化をした事はした。
だってあいつの浮気を忘れるべく、ひたすら無我夢中になって魔物討伐を
繰り返して強くなっていったからな。
俺が進化した理由に浸っていると、
「あ！あそこを見てよ、お兄ちゃん！人がいっぱいいるよ！」
成美がちょんちょんと俺の裾を引っ張って、人だかりの出来ている
場所に目を移させる。
「どうやら冒険者の説明会はあの部屋で行われるみたいだな？」
人だかりの出来ている場所に成美と一緒に歩いて行くと、俺はそこに
集まっていたみんなの後ろを付いて行き、説明会のある部屋の中へと
入って行く。
「さて。俺が冒険者のルール説明を聞いている時間中、成美をどうするか
だが。さっきのナンパの件もあるので、あんま成美をひとりにはしたく
ないんだよな.....」.
でもここには登録した奴以外はいちゃ駄目だろうし。
「うふふ、それなら安心してよ、お兄ちゃん！わたしもお兄ちゃんと
一緒に冒険者ルールの説明を聞いてくからさ♪」
「俺も出来るならそうしてもらいたいんだけどさ。でも関係者以外は
この部屋にいちゃ駄目なんじゃないのか？」
「その辺のルールは調べてあるから安心して。ルールによると説明を
受ける人と知り合いなら、一緒にいて説明を聞いて良いらしいよ♪」
「へぇ、知り合いだったら問題ないんだ？」
「うん。ってな訳で、どっこいしょっと♪」
成美が俺心配を振り払うと、俺の座っている横の椅子にちょこんと
腰をおろして座った。
それからしばらくの時間が経った後、
「本日新規登録をなさった新人冒険者のみなさま、お待たせしました」
部屋のドアがガラッと大きく開き、俺達のいる部屋の中に三十代くらいの
女性が静かな足取りで入ってきた。
「それでは早速でありますが、冒険者が覚えておくべき基本的なルールと、
冒険者になった時の心得のご説明を始めますね！」
部屋に入ってきた女性は、手に持っていた電子パットらしきものを取り
出すと、冒険者の心得とルールの説明をしていく。
