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第4話:神様なんていない 、居るなら……※残酷描写有り

 ※今回は別視点です。
 ◇鳳 里菜side◇

「やばいなぁ、門限過ぎちゃう……」

 塾の帰り、親と決めた門限の22時に間に合うよう電動自転車を漕ぎながら、私はぼやく。

 今日は塾の講習が終わった後、自習室で勉強をしていた。学校の授業で躓いた所があり、丁度手が空いた講師の先生に教えてもらっていたのだ。
 そこまでは良かったのだが、すらすら解けるのが面白くなってしまい、予習と復習に力が入ってしまった。

 気付いた時には、もう塾を出ないといけない時間だった。

 そこから急ぎ自転車に乗ると交通ルールは守りつつ急いで帰っている。尊敬する両親の警視総監の娘である私がルールを破るわけにはいかない。

「——ふぅ、あの角を曲がれはもう家だ……」

 軽い上り坂に息を切らしつつ曲がる、そうすると家の前に、お父様の秘書が使う車があった。

(お父様、これから仕事なのかな? 珍しい……)

 そう思いつつ車に近づく、ハザードランプがついているので中に人が居るかと思えば見当たらない。
 準備が遅れてるのかなと思いながら門扉の前に立つ、警察官さんが在中してるボックス内にも人は居なかった。

(あれ? いつもなら誰かいるんだけど……誰も居ない?)

 そう思いつつ、駐輪スペースに自転車を停めると、感じている違和感が強くなった。

(何……この鉄臭さ……)

 普段ならしない臭いに違和感を覚えつつ、玄関に向かいドアを開けた瞬間、自分の身体から血の気が引いてく気がした。

 秘書の佐藤さんと、今日在任したばかりの警察官さんが〝血塗れ〟で床に伏せていた。
 嫌でもわかる、これは死んでいると。

(何、何? なにこれ?)

 目を疑う様な光景に一瞬で胃から酸っぱいものが上がってきた。

 直ぐに扉を閉じ玄関横の花壇に吐瀉物を出す、鼻に抜ける刺激臭が一瞬血の臭いをかき消してくれる。

(あ、お母さんが大事にしてる花壇……汚しちゃった……、あとで謝らないと……)

 力の入らない足でふらつきながら立ち上がる、頭の中身が訳の分からない事でぐるぐると巡るが、辛うじて110番タップする。

 震える声で名前を伝えると向こうで警察官の方が驚いていたが、秘書の佐藤さんが死んでいる旨を伝えると大急ぎで警察が来るとの事だった。

 そして、通話を切りその場で(うずくま)る。

 父が警視総監になってから、仕事の調整や送り迎え等顔を合わせる機会が多かった、優しい人で受験勉強を頑張ってとも言ってくれた。
 そんな近しい人の死を見てしまい、涙が込み上げで来る。

 こんな時お父様ならどうするだろう………

「わからない…………」

 立ち上がりふらふらと玄関に向う、もし犯人が居るなら絶対にやってはいけない悪手……だけど姿の見えない両親が心配になり扉に手を掛ける。

 ◇22時05分◇

 再び扉を開けると、むせ返るような血の臭いが身体を包む。

 佐藤さんに心の中ので謝りつつ、動かない彼を跨ぎ靴のまま廊下に入る。
 灯りの付いているリビングに向うと凄惨な光景が広がっていた。

 血溜まりの中で倒れる父、その頭を踏みつけ、服を破られ裸となった母に包丁を突き立てながら腰を振る肌が緑色の怪物が二体、それが高笑いをしながら居た。

 その光景を見た私は、眼の前が真っ赤になった、えも言われぬ憎悪と怒りの感情が体の中から沸き上がってくる。

「殺してやる……コロしてやる……コロシテヤル!!」

 そこからはよく覚えていなかったが、気付いた時には右手に持った包丁で怪物の喉元を引き裂さき、首を落としていて。
 もう一体の怪物は脳を撒き散らし壁のオブジェと化していた所だった。

「うぅ……うぁぁぁぁぁ!!」

 それから、警察官の方が来るまで母の亡骸を抱き、父の亡骸の隣で泣いていた。


 ◇23時20分◇
 通報からどのくらい経ったか、飛んで来た警察官の方々来たが、この部屋の惨状に何人かトイレに駆け込んだ。

 放心していた私は婦警さんに怪物の返り血がついた身体を洗われた後、着替えさせられた後、車に乗せられ警視庁まで連れて来られた。
 そしていつも父が使っていた部屋へ通された。

「ここ……お父様の……」

 首を振り、目に入った時計を確認すると23時20分、何時もなら温かいベッドで寝てる時間だった。

「いったい……なんでよぉ………私が悪い事したっていうの………」

 段々と冷たくなる両親の感触を思い出し涙が溢れてくる。

 それからどのくらいの時間かわからないがノックの音がした、答える前に失礼しますと声がかかり、何人もの男女が入ってきた。

「お待たせしまい申し訳ありません、私達は警視庁に新しく新設された超常現象対策委員会の者です、此の度のご両親のご不幸私達も悲しく思っています」

 代表した男性の言葉で後の皆が頭を下げる。

「超常現象ですか?」
「はい、それも含めこの度の事件について。説明させて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

 男性はそう言うと手にしてきたファイルを渡してきた、ファイルの中には両親を辱めた怪物を含め数種類の怪物の説明書きがあった。

「名前はゴブリン、ここ4〜5日で世界各地で現れた謎の怪物です」
「それってファンタジー作品に出てくるモンスターですよね、それに世界中ですか?」
「ええ、これは未発表の事実ですが。今、世界中にはこういったモンスターとソレが生まれ住まうダンジョンと云うものが突如出現しています」
「でも、そんなニュースは、見聞きもしなかったですよ?」
「えぇ、この4~5日で突如起きた事象で。各国の政府、無論我が国もですが、まだ情報を秘匿していますので」
「そのような事を私に良いのでしょうか?」
「ええ、私達にも利があります、これからそれを説明させていただきます」

 それからこの世界に産まれたダンジョンについて、他国では手が付けられないモンスターで軍が動いた事。
 それと同時に、一部の若者に強力な力を持つ者が現れたという事。
 そして、恐らくここで私に情報を開示すると言う事と、この人達が求める事が見えてきた。

「なんとなくわかりました、良いですよ。」
「まだ詳しく話をしてないですよ?」
「こいつらを倒す人たちを、〝集める為〟の広告塔になれと言いたいんですよね」
「仰る通りです……」
「私には何の力も無いですよ? 唯の女子高校生です、それでもいいんですか?」
「はい、ですが勘違いされています。鳳さん貴方には力があります、その力を生かす為の武器や設備、その為の地位はこちらで手配しましょう」

 そうして入室してきた男性に資料を渡されると、そこには検査結果と大きく書かれた紙に私の事が書かれていた。
 目を惹くのは【ジョブ】と書かれた所だ、そこには【狂戦士】と太字で書かれていた、狂うって失礼ではないだろうか?

「つまり、只のお飾りじゃなく。あいつらをいくらでも殺せるんですよね」
「はい、あまりに危険な行為などはお停めするかもしれませんが、基本は自由に動いて頂いて結構です」
「わかりました」

 まあいい、狂戦士だろうがなんだろうが、尊敬する父と母の恨みである、あの憎々しいゴブリン共をいくらでも殺す……。
 この沸き上がる衝動はそれは【狂戦士】だからなのか……。
 それとも常々、父の正義感に憧れていた私の心なのか、だがそれは私にとっては都合がいい。

「わかりました、その脅威から人々を守る為に。なりましょう!」
「ありがとうございます。では今から、貴女は日本第一号の探索者です」

 固く交わされた握手の裏で、私はこの身を焦がす衝動を内に収めるのだった。

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