第3話:日常と忍び寄る異世界 ※残酷描写有り
放課後になり耀と共に学校を出る、今日の夕飯を耀と一緒に食べる事を伝えると、喜んでいた、そのついでにあれこれと足りない買い物も頼まれた。
『耀ちゃん来るんだし、もう一品欲しいのよ。せっかくだし二人で買ってきてちょうだい、内容は任せるわ。それと今日はお魚だから、それを耀ちゃんへ伝えてくれれば大丈夫よ』
「わかった、じゃあいつものスーパー寄って帰るよ」
『デートしてきても良いけど、遅くならないようにね♪』
「余計な事は言わんでええわ、じゃあ切るね」
通話を切って、ポケットに放り込む。
「ねえねえ優希、
「魚料理らしいよ、中身はわからん」
「お魚かぁ、難しいなぁ…」
顎に手を当て「むむむ」と悩む耀
「お肉はから揚げがあるし……」
「ねえねえ優希、優希は何食べたい?」
「うーん、さっぱりとしたものがいいかな?」
「じゃあ……おろしポン酢で食べる、茄子の揚げ浸しにしようかなぁ。から揚げで油も使うし肉の出汁出るから丁度良くなるからね」
「なにそれうまそう」
聞いてるだけでお腹が鳴る、今日は弁当が足りなかったし今から楽しみだ。
「おっけー、優希のお腹も喜んでるみたいだし。茄子を買っていこう、大根とポン酢はあったよね?」
「聞いてみる……ちょっと待ってて」
母さんに確認すると、大根は焼き魚に使うからあるとの事、ポン酢はまだあるけど使ったら無くなりそうなので買ってきてと頼まれた。
「だそうだ」
「オッケー、優希のお腹と背中がくっつかない様に急がないと!」
腕を取って、というより引っ張って歩き出す耀、いつもと違いぐいぐい引っ張られる。
それから夕食で使う食材と母さんからの頼まれ物、それと少しのお菓子を買い、スーパーを出ると空の色は茜色に変わっていた。
「いやー夕方も長くなったねぇ~」
「そうだな、もう少しで夏至だっけ?」
「そうだよー、もう夏になるねぇ~」
縁石の上を器用に歩きながら、耀はご機嫌に鼻歌を歌う。
「あぶないぞー」
「大丈夫だ大丈夫! っとと」
危うく耀がバランスを崩しかけた所を支える、いつもは身長差で俺のが小さ……〝若干〟小さいから一緒に倒れたりするのだが、今日は不思議と踏ん張れた。
「あ、ありがと……」
「ほら、危ないって言ったじゃん」
「うん……ごめん……」
何か耀の雰囲気がすっかり落ち着いてしまった。
それからはいつもの通学路に戻ると、歩き慣れた道を行く、少ししおらしくなった耀と他愛ない話をしていると、
「今の……」
「帰り道にある公園だよね」
「耀はここで待ってて!」
「私も行くって! 事故とかだったら手は多い方が良いじゃん!」
耀と声のした方へ走り出し、悲鳴の発生源であった公園へ辿り着く。
「うっ……!?」
「ひっ……!?」
公園内を見た瞬間吐き気がした、血だまりの中に横たわる女性は高校生だろうか?
その女性の脚をその手に持ったマチェットで切り落とし、新鮮な肉を愉快そうな声を上げ味わっているゴブリンの姿が居た。
(何でこの世界に!?)
「優希、あれって!?」
「わからないけど……っつ!?」
ゴブリンはこちらに気づいたのか、新たな獲物が来たと言わんばかりの醜悪な顔をこちら向けニタァと笑った。
「ひっ…」
その醜悪な顔をと、起きている惨状を見た耀は腰を抜かしてしまっている。
慌てて腰に手を伸ばすがその手は空を切る……。
(そうだ、この世界に戻る際。神器は神様へ、普段使いしていた
「あれ? でも何で俺は剣なんか持ってると?」
「ギャウッ!!」
その声と共に、ゴブリンは何かを投げて来る、それはグチャっと音を立て目の前に落ちて来た。
ソレを認識した瞬間腸が煮えくり返る程の怒りが湧いてきた。
その怒りと共に体の奥より、まるで何年も共にした力を感じた。
「これは魔力? しかも使い方がわかる? いや体が識ってる……」
体から出る魔力と、こちらの世界の魔力とを混ぜ合わせ、向こうの世界で仲間が使っていた技を思い描き呪文を紡ぐ。
「ギャギャギャ!!」
「——クソッ!!」
女性の脚を囮として、マチェットを構えこちらの頭を割ろうと飛び掛かってくるゴブリン。
それに対して聖騎士が使っていた盾に魔力を込め弾き返す技。
「『――シールドバッシュ!』」
「ギャギャウッ!?」
ゴブリンは反撃が来ることが予想外だったのか、盾の代わりに魔力を込めた鞄で吹き飛ばされる。
そこに追い打ちとして魔法を発現させる。
「行くぞ!『氷の槍よ我が敵を穿ち凍て――アイスランス!』」
70cm程の氷の槍を生み出し相手へ飛ばす、瞬きする間も無くゴブリンは氷にの槍に貫かれ血も凍り付き絶命する。
(上手く魔石も破壊出来たな……)
(魔石? 核? 何で俺はこんな事知ってるんだ?)
呆けていると耀の悲痛な声が聞こえた。
「優希! 優希!」
「ごめん、耀。大丈夫だった?」
「私は大丈夫だけど、あの人が!」
「そうだった!」
耀を立たせ、ゴブリンが投げつけてきた脚を持って女性の元へ行くと、まだ女性には息があった。
「酷い……」
(指は折れて、目は抉られてる、脚の肉もぐちゃぐちゃだ、俺が出来る回復魔法なんて傷を塞ぐ程度にしか使った事しかないけど、彼女の魔法なら!)
「出来てくれ……『私の前で傷付きし者、私の力をもって癒やせ!その力はすべての傷を直し給え!――パーフェクトヒール!』」
呪文を唱えた瞬間、まるで傷など無かった様に女性の脚はくっつき、失った肉や目折れた指は戻っていった。
「凄い……」
「あはは……出来た……良かった……」
回復したあと女性は眠ってしまった為ベンチに寝かせ、救急車と警察を呼んだ後に耀と話して待つ。
「優希……あの化け物は何だったの? 漫画やゲームに出てきそうなゴブリンみたいな姿だったし。それに優希は魔法みたいなの使えてたよね?」
「わからないけど。今日、夢で見た敵とそっくりなんだよね、使った魔法は夢で見た仲間が使ってたんだ……」
「へぇ……そうだったんだ、どんな夢?」
「うーん……大まかでしか覚えてないんだけどね……」
夢の中で旅した5年間をかいつまんで語る、お姫様と最初は険悪だったり、エルフの少女と森を助けるために邪神の幹部を倒したり、獣人の女の子の集落が襲われて壊滅した戦いで死にかけながらも助けた事を。
「なんか、すごい夢だったんだね……」
「妙に感覚がリアルだったんだよね」
「本当に異世界を旅してたのかもよ?」
「あはは、それだったら、身長を異世界で過ごした位にしてもらいたいよ」
その後警察が来てゴブリンの死体を回収していった、その時に『この化け物を殺したのは君か?』と聞かれたが、悲鳴がしてここに来たときには死んでいて、女性は血だまりの中で倒れてたし、自分は知らないと言っておいた。
次に救急車が来たので救急隊員に同じ様な事情を伝え、女性は寝たまま救急車へ乗せられ病院へ連れて行かれた。
そうして、やっと警察と救急車から開放され耀と二人で家に到着した。
「それじゃあ、荷物を置いたら行くわね」
「了解、それじゃあ先に風呂入っちゃうか」
「そうしなさいな、私は揚げ物するからご飯の前にするけど」
「助かります!」
「はいはい、じゃあまた後でね」
それから風呂に入り耀と母さんの作ってくれた夕食を食べる、ちょくちょくニュースをチェックするが夕方の件はニュースにもなっていなかった。
寝る前となった深夜、部屋でくつろぎながらラノベを読んでいると、耀が部屋に来た。
「あれ? どうしたの?」
「いやーあはは……、今日のあれ思い出したら怖くて眠れなくなっちゃって……」
恐らく夕方の件を思い返してしまったのだろう、耀の家族は現在、海外出張で居ないので家には耀一人だけだ。
「そっか、明日は土曜日だし、何かゲームでもするか?」
「じゃあ○鉄やろう99年で!」
「いやそれはやめてくれ、朝になる。せめて、ひげおじのレースゲームとか、大乱も混ぜない?」
「しかたないな~、手加減はしないよ~」
ケラケラと笑いながら耀はコントローラーを握る。
その日明け方まで、二人でゲームを楽しんだのであった。