第10話 こちとら言い分がある。
「ルナ、いたのか?」
「そんな姿で何してるんだい?」
「見ればわかるでしょ、護衛よ!」
私の発言に、返事をするでもなく沈黙を保つ2人。
まぁ、さっきの会話を聞くに、私に引いているのだろう。
そんなこと、私には関係ないけど。
「リイナには内緒にしてね、喧嘩してるから!」
「だろうな……じゃなきゃこんな格好でここにいないもんな。」
「その服どうしたの?」
「知り合いから借りてきたの!」
エッヘンと胸を張ってドヤ顔をする私。
そんな私を見てフィリックは自分の頭に手を当てて、栗色の髪をかきむしる。
「ほんと、今日のルナはやりすぎだろ……」
「あんたのせいだからねフィリック!使用人通してリイナの護衛しろって頼んだのに、勝手に連れ出して!」
「今の俺らの話に聞き耳立ててらならわかるだろ……リイナ結構まいってたんだ」
「ふーん……婚約者贔屓するのね」
「あのな、リイナもだけど、俺らだって同じように一週間、リイナの屋敷に寝泊まりさせられてたんだぞ?リイナの気持ちに共感できるってもんだ。」
まぁ、それを言われるとちょっと刺さるものがある。
ここまで説明しなかったけれど、確かに噂があった直後、実は私は即二人に声をかけた。
そしてリイナの母親……私からみて叔母に事情を話し、護衛目的で一週間泊まるよう命令……いえ、お願いをした。
だから今日、すぐにリイナの部屋にフィリックを護衛として呼ぶこともできたし、すぐにクロウの馬で神殿に来ることもできたんだけど。
「まぁ……それをやりすぎだと言うのは、甘んじて受けるわ。でも、あなたたち3人、私の忠告に誰も耳を傾けなかったじゃない。クロウはリイナの屋敷の警備強化協力してくれないし!」
「さっきも言ったでしょ?ピンクの魔女のことといい、リイナが狙われている可能性のことといい、根拠も信憑性もない。」
「それに、聖女がまだ正式に決まってない時期ならわかるが、正式に聖女はリイナに決まった後、今更聖女目的で候補者を狙う理由がない。聖女の地位を狙うならリイナを直接狙うだろうし、髪の色から何から何まで違うのに間違える可能性は低い。」
「この段階で聖女と《《聖女候補》》ってだけの繋がりでは何も言えないんだよ。」
私の言い分に対して、そう言い返してくる2人。
まぁ、言い分はわかるわ。
立場も証拠も少ないと言うのは、さっきもクロウに言われたしね。
でも、だからってありえないの一言で終わらせられるのも気に食わない。
「まぁ、私のやり方に問題があったことは素直に認めるわ、ごめんなさい。でも、だとしてももう少し真剣に話聞いてくれてもいいんじゃないのかしら?聖女に関する話なのよ!」
私はいいたいことが我慢できるタチではない。なので、遠慮なくフィリックにビシッと指を刺して思いの丈を全部ぶちまけた。
「フィリック、もし外に出してリイナが怪我してたらどうするつもり?一生後悔するんじゃないの?公爵家の息子でありながら、あんたには危機感が足りない!」
そう、これは自分で執筆した時も思った。
もちろんそれを悲恋ポイントとして悶えながら描いてたわけだけど……今は現実なのでキツく注意する。
彼女の悲恋なんか見たくない!
そして今度はその勢いのまま、クロウに指をビシッと刺してこう続ける。
「それからクロウは達観しすぎ!百歩譲ってリイナの危険について信じてもらえないのはいいわよ!でもね、私は元聖女候補のうちの一人を襲った犯人を捕まえたら、昇進して地位得られるかもしれないのよ!なんでそのポイントにおいても必死にならないのよ!」
それが彼の萌えポイントではあるんだけど。
彼は物語上、フィリックの当て馬……リイナのことをいいなと思ってるけど、間に割り込めないと悟り、距離を取る。
この悲恋は正直美味しいが、今は邪魔!!リイナを守ると言う目的では邪魔すぎる要素!!
大事なリイナのためなのだ、そのくらい気を遣ってもらわなければ困る。
が、このような場合、不満があるのは大抵私の方だけではない。
相手方にも同様、もしくはそれ以上の鬱憤が溜まっていることは多い。
今回なんか特にそうだろう。
しかし、言い返してきたのは、きつめの性格のフィリックではなく、普段はおとなしいクロウの方だった。
「わかったよ、僕らが君の意見に耳を傾けなかったのは謝るよ。だけどそこまで言うなら、君が直接騎士団に赴いて偉い人と掛け合って警備の強化とか、手配書を回すとか、相談しに行ってもいいんじゃないの?」
「だって、伯爵令嬢の意見なんて、聞いてもらえないじゃない。」
「僕だって立場がある、簡単には動かせない。でも君から聞いた話から、必要だと思う行動は全部やった。君からの情報でできることはこれが限界、それでも文句あるの?」
「……」
私は静かな叱責により黙って俯いてしまう。
不満はあるが、返せる素材が何もなかった。
だからクロウは言葉を続ける。
フィリックの方にポンと手を置いてこう言ってきた。
「それに、僕たちの間柄こう言うことは言うべきじゃないと思ってたけど、フィリックは公爵令息だ。なのに顎で使うようにあれこれ頼むべきじゃないんじゃないかな。」
これは、なかなかに刺さる言葉だ。
……昔から知ってる間柄で、関係性もすごく複雑だがら、立場関係なくこの4人の間で敬語はなしにしよう……まぁ前世でいうタメ口でいいよという取り決めを子供の頃にしたのだ。
それは、リイナ婚約者のいとこだから……というフィリックの温情でしかない。
それでも必死に頼めば、クロウもフィリックもリイナがらみのことであれば話を聞いてくれたから、それに慣れてしまったのかもしれない。
しかも原作者は自分だ……だからどこかで爵位とか、友達とか……対等な見方ではなく、どこか上からものを見ていたかもしれない。
だから、私はため息を吐いてこういった。
「わかった。そこまで言うなら、儀式以降はこれ以上暴挙に走らないわ。あなたたちにはこれ以上何も頼まない。」
そして、私は詫びを意味するお辞儀をする。
通常であればドレスの裾を持ち上げるのだが、今は男性の神官の服を着ているので、男性側のお辞儀をするのだった。
そしてさらに言葉を繋げた。
「お引き止めして申し訳ございませんでした。余計なことはしないので、お二人とも行ってくださいな。フィリック様、クロウ様。」
その言動に2人は一瞬だけ言いすぎたかなと反省した表情を浮かべたが、すぐに異変に気づきなんとも言えない表情に変わった。
そう、一見反省したように見えるだろう。
しかしこの場面にはおかしなところが一つある。
普通、このような場合、反省していようとその場しのぎだろうと、気まずいと思った方……今回は私の方がこの場を立ち去るのが普通である。
でも、私は意地でもここから動かずお辞儀をして、二人にこの場をさるように訴えた。
うん。
私は反省はした、でもね。
この場を動くつもりは一ミリもない。
だって、リイナを守るという目的を取りやめるつもりはないのだから。