272 道草②/箱船の甲板にて
サーシャ達が箱船にあがるのを見届けた後、ラクトもはしごを上って、箱船の甲板に降り立った。
甲板は広く、船首に向かうに従って階段になっていて、先に行けば行くほどに高くなっている。
「わ~い!」
「ここに隠れよ~っと!」
甲板へと向かって左側には、下へ繋がる階段があり、子供達が楽しそうに降りてゆく。
中央部分には高く太い木の帆柱がそびえ立っていて、そのすぐ後ろに、大きな木でできたプロペラがついていた。
その下には、乗り組み員達が中に入って休んだり飲食したりする屋形が設置されていた。
サーシャ達は船首方面へと歩いていき、階段を上っていた。
「さっきの迷路みたいなとこだ!見える見える~!」
ニナが、そこいらではしゃぐ子供と同じように、はしゃいでいる。
……アイツが子供らと一緒に遊んでいても、違和感まったくねえな。
ラクトは思った。
すると、サーシャは船首から降りてきて、屋形のほうへと歩いていった。
ラクトはサーシャの後に続いた。
サーシャは屋形には入らず、船尾のほうへと向かってゆく。
外から屋形の中を見ると、子供達が楽しそうに走り回ったり、絵本を読んだりしている。
屋形を過ぎると、中央よりは少し低めの帆柱が2柱立っていて、こちらにも木でできたプロペラがつけられていた。
その2つの帆柱も通りすぎ、船尾へとたどり着いた。
船尾の先に見えるの、その先は、砂漠。
――ヒュゥゥ。
砂漠から、暖かい乾いた風が吹いた。
「……」
「なっ?いい景色だろ?」
風で金色の長い髪の毛を揺らしながら、砂漠を見つめるサーシャに、ラクトは言った。
「……うん。でも、」
「んっ?」
「この景色じゃ、ないみたい」
サーシャはつぶやいた。
「この景色じゃないって?」
「私の記憶の中にある、景色……」
「あっ、そう……」
「似てる、けど、違う……」
「……」
……なにを、言ってるんだ?
「ねえ、ラクト」
「おう!?」
初めてだろう、いきなりサーシャがラクトの名前を呼んだことに対して、なんだかラクトはビクッとしてしまった。
「ど、どうした?」
「私、罪人《つみびと》かしら?」
「罪人……?」
「私は初めて、私の意志でここまで来た。でもそれは、犠牲を伴ってまで、貫くべき意思だったのか、今は、分からなくて……」
「お姉さま……」
「サーシャさま……」
いつの間にか、ニナと召し使いがラクトのすぐ後ろにいた。
「私は、ずっと、考えていた。私は、誰のものなのか。だから、抑えていた。そのほうが、よかったのかもしれない」
サーシャがラクトへと振り向いた。琥珀色に輝く大きな瞳が、ラクトを映していた。
「ラクトは、私のこと、罪人と思う?」
「いやごめん、ちょっと、なに言ってるか、分からない」
ラクトは真顔で、サーシャに言った。
「別に罪人でもなんでもないんじゃね?なんで?」
逆にラクトから、サーシャに問いかけた。
サーシャは目を丸くして、ラクトを見つめ返していた。