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第4話 2人の時間

あの後、料理を始める汐崎さんをぼーっと見ていたのだが、いつの間にか睡魔に襲われてソファの上で眠ってしまったのだった。



 眠い目を擦りながら、キッチンに向かうと「うわっ!ビックリした!起こしちゃった?」と、エプロン姿の汐崎さんが立っていた。



「いや...大丈夫」



「ね、どう?私のエプロン姿!可愛い?」



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093074631735888



「...うん。可愛い」



「えへへへへへへへ//碧くんもかっこいいよ?//」と、顔を真っ赤にする。



 寝起きのせいで普段かかるストッパーが壊れて思ってる言葉がそのまま飛び出してしまった。



「あっ...ありがとう...」と、少し照れてしまう。



「碧くんはソファに座ってて良いよ?」



「え?でも...」



「いいからいいから!ね!」と、無理やりソファに座らされる。



 そうして、流れているテレビを見ながら考える。あの汐崎さんが俺のことを好きで、結構ヤンデレ化しちゃってて、夫婦になって、一緒に暮らすことになるとか...改めて考えても中々理解できない話だよな。



 手に届くはずもない高嶺の花どころか、エベレストの大輪ぐらいの存在だと思ってたのに...今、俺のためにご飯を作ってくれてるとか...。

ファンクラブの人間にバレたら殺されそうだな。



 そうして、30分後に「出来たよ!」という声がして、2人で食卓につく。



「いただきます!」



「...いただきます」



 美味しそうにご飯を食べる汐崎さん。

俺の知ってるいつも見ていた汐崎さんがそこに居た。



「...汐崎さんはさ「汐崎って呼ばないでよ!碧くんだって汐崎なんだよ?」



「...あっ...そうだったんだ...」



 当たり前だが結婚すれば苗字が変わる。

彼女が『山口』になるのではなく、俺が『汐崎』になるようにしたこともきっと彼女なりの配慮なのだろう。歪んだ愛の形であってもそれは間違いなく愛なのだ。



「じゃあ、俺は...汐崎碧なんだ」



「うん!けど、外では今まで通り山口でいいと思うよ?山口から汐崎に変わったなんて言ったらバレちゃうし!まぁ、公的書類は汐崎になっちゃってるからいつかは学校にバレるかもだけどwてことで、2人きりの時は真凜って呼んで?真凜ちゃんでもいいけど!」



 なんだかあの汐崎さんを呼び捨てにするのは烏滸がましかったので、ちゃんづけにすることにした。



「...真凜ちゃん」



「そっち呼びなの!?//っ!!!//死ねる...//今すぐにでも死ねる!//」



「...じゃあ呼ばないよ」



「ダメ!ちゃんと呼んでくれないとー..,うーん...襲っちゃうぞ?」



「...それは...困る」



「でしょ?...って、なんで困るのさ!!」



「それはまぁ色々」



「むー」と、頬を膨らませる汐崎さん。



「一応確認しておくけど、碧くんは好きな子とがいないんだよね?」



「居ないよ。恋愛とかしてる時間ないし」



「ふーん...。じゃあ、ちなみにうちのクラスで1番可愛いと思うのは誰?」



「そりゃしお...真凜ちゃんだけど」



「私はラーメンじゃないから。塩マリンとか、醤油マリンとか居ないよ?けど...そう...ふーん?そっかー」と、明らかに機嫌が良くなる。



「だって、誰がどう見ても学校1可愛いと思うし」



「...!!//...ち、ちなみに!...じゃあ2番目は?」



「2番目?...うーん...七谷しちやさん...かな」



【挿絵】

 
挿絵




「...海うみちゃんかぁ...ふーん」と、普段見せることのない明らかに敵意を持った顔つきに変わる。



「いや、べ、別に好きとかそんなんじゃないから...」



「どうせ私を1番って言ったのは建前で、本当は海ちゃんが1番なんでしょ。可愛いもんねー。女の子らしくて、小動物みたいで。守ってあげたくなるもんねー」と、拗ね始めてしまう。



「...」



 今のは誰の名前をあげても同じ結果になっていただろうし、名前をあげなきゃあげないで怒ってたんだろうな...。



「...ごめん」



「謝った!なんで謝ったの!?やましいことでもあるの!?」



「いや、ないよ...。別に七谷さんと話したこともほとんどないし...」



「そ、そう...。それなら良かった...。わ、私はもう現在進行形でいっぱい碧くんと話してるもんね!」と、ここに居ない七谷さんにドヤ顔をする。



 そもそも、俺なんかに可愛いって言われて喜ぶのは真凜ちゃんだけだと思う。



「あっ、学校では今まで通りでいいよ?この関係がバレちゃうと色々嫌な思いしちゃうかもだし。だから、碧くんは指輪とかしなくていいから!私は一応魔除けというか男避けというかそれのためにつけておくけど」



「...うん。わかった。ご馳走様。すごくおいしかった」



「うふふ//それは良かったです//あっ、お皿は置いといていいよ!」



「いやいや、これぐらいはさせてよ」



「ダーメ!碧くんには私が居ないと生きていけないダメ人間になってもらわないといけないの!」



 それ、普通本人に言うか?



「...ダメ人間になったら捨てられちゃうかもだし」



「捨てないよ!私の方こそ...嫌われるんじゃないかって...心配だよ。だから...私と同じくらい好きになってもらわないとダメなの!」



「お、おう...」



 この人と一緒にいたら本当にダメ人間になりそうではある。



 なんでも持ってる人と、何も持ってない人。

誰がどう見ても釣り合いが取れていないのは明白だ。

きっと、その劣等感みたいなのは一生消えない。俺が妹たちに抱いている気持ちと変わらない。



 だって俺は本当のダメ人間だから。



「ね...//その...お、お風呂は...//」



「1人で入るよ」



「即答!?もー!!」と、弱パンで背中を殴打される。



 そうして、俺と彼女の−1日婚がスタートした。

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