王宮に急ぎます!
私は今にも殺る気満々のベルをまたも宥めつつ急いで王宮に向かった。王宮門番の兵士は令嬢らしくなく必死に走って来るアンジェリーナを見つけると、こちらに向かって来る。
「ウィーンズトン家のアンジェリーナ令嬢でございますね!?早く中にお入り下さい!」
「ありがとうございます!あの…陛下は生きて⋯無事ですか!?」
私の問いにあからさまに目を泳がせる兵士達。
王宮存続の危機を感じた私は急いで謁見の間に向かう。ベルはというともう戦闘態勢になっている。王宮の衛兵やメイド達に「頑張って止めて下さい!」と激励され、勢いよく走っているのを誰にも止められないまま謁見の間に着くと、兵士はすぐに開けてくれた。そしてその先には恐ろしい光景が広がっていた。
「お父様ーー!お止め下さい!」
「おー!アンジェリーナ!」
お父様と呼ばれたウィーンズトン家当主のアービン・ウィーンズトンは燃えるような紅い髪を後ろに束ねた若々しく精悍な美丈夫だ。愛娘に気付いたアービンは今まさに国王陛下であるシリウスを締め上げていた。側近達は巻き込まれたくなくて離れて見てるだけだ。
「アンジェリ…ナ…助け…て」
苦しみながらも器用に助けを求めるシリウス国王陛下。
「あー?娘を気安く呼ぶな!」
何故か理不尽に切れるアービン。
こんな大事なのに周りは異様な光景だった。
アンジェリーナの母親であるアメリア・ウィーンズトンは社交界の女帝であり絶世の美女として有名で、美しいブロンドヘアーに淡いグリーンの瞳が特徴だ。そして最も特徴的なその豊満な胸は残念なことに私には受け継がれなかった。そのアメリアは親友で王妃であるユリアと仲良く談笑している。長男であるジェフリーは父親に似た紅い髪を短く切り揃え、瞳は母親のを受け継いだ淡いグリーンの瞳の美青年だがいわゆる脳筋で頭より先に体が動く。次男のコリンは母親に似た綺麗なブロンドヘアーで瞳は父親を受け継いだ紅い燃えるような瞳の美青年だが、腹黒の策士だ。
その兄2人は1人の青年と話をしている。そして誰もアービンを止めようともしないのだ。王妃ですらこの緊迫した状況下で優雅に話をしている。
その兄達も私に気付いた。
「アンジェリーナ!大丈夫か!?あんのくそったれは俺が始末してやるからな!」
「ジェフリー兄さん、証拠を残さずお願いしますよ?後が面倒です」
拳を握りながら宣言するジェフリーと爽やかな笑顔でとんでもない事を言うコリン。
「もう!私の事はいいから!お父様を止めて!」
「「…?何でだ?」」
本気で分かっていない兄二人を無視して私はお父様に近づき大声で叫ぶ!
「お父様!これ以上陛下に迷惑かけたら一生口を効きませんからね!!」
自分でも子供じみたセリフだとわかっている。だがお父様はあっさりとシリウス陛下を放した。陛下は涙目で私に礼を言い、側近達も私を拝んでいる。何でだ!
「あら、もう終わり~?ユリアちゃん終わったみたいよ」
「アンジェリーナちゃんが来るの早かったからね~」
お母様とユリア王妃が優雅にこちらに歩いて来る。この人達が一番恐ろしい!
『あー!アンジェリーナー!だいじょうぶ?』
その時、可愛らしい声と共に何かがアンジェリーナに抱きついてきた。
「クロ~私は大丈夫だから落ち着いて?」
クロと呼ばれた黒い毛玉のような生き物。昔怪我をしていたクロを幼い私が助けて看病したら懐かれてしまった。このクロの正体を知っているのはウィーンズトン家一族のみだ。周りはアンジェリーナと同じく黒い姿で得体の知れないクロを不気味がっていた。
「アンジェリーナ、こいつがあのクズを俺に紹介したんだ!出来がいいってな!」
そう言いながらまた怒りが湧いて来たのかシリウス国王陛下を締め上げようとするお父様。
『アービン!やっちゃえー!』
クロはノリノリで応援していた。
私がこのカオスな状態に頭を抱えていると、兄2人の後ろからさらに私の天敵が現れる。
「ようっ!アンジェリーナ、大変だったな⋯ぷっ」
兄達の親友であるユリウス王太子殿下は昔から何かにつけて私に絡んでくる。煌めく金髪碧眼のまさに王子様だ。
「これはこれはユリウス殿下!⋯今笑いました?」
「傷心のお前を笑うわけ無いだろ!」
「顔が笑ってんだよ!…ですよ。」
いつかクロの餌にすると心に誓うアンジェリーナだった。