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第27話 神話級

フレイムを煽るだけ煽って相手の失言を引き出し、断れない状況に追い込んでこっちの要求を伝える。
交渉の常套手段だがこんなに上手くいくとは思わなかったぜ。

俺たちは今、演習会場を後にして冒険者ギルドのギルドマスターの私室に通されている。
部屋の主人は忙しいのか、まだ来ないので出されたお茶を飲みつつ待っている状態だ。

今回のフレイムとの接触は、俺としては自分の想像し得る満点の結果だったのに、アルスとセニアの表情が冴えないのはなんでだろう。
……ごめんて。

「お二人に(ただ忘れていただけだけど)説明してなかった事は謝ります。でもお二人なら大丈夫ですってば。俺も協力しますから。」

「魔王様の期待は大変嬉しく思いますが、どうにもこうにも、今の私たちでhはフレイムに勝つ姿が全く想像できません。」

「我らが負けることはいいんだが、それによって将来の魔王様の伝記に敗北の二文字が記載されてしまうかもしれないと思うと…」

なんだよ伝記って馬鹿なの?いやこれに関しては馬鹿だったわ。

俺が負けること自体は全然問題じゃないからそれはいいんだけど、そもそも元々鍛えまくっていた下地と、神童とまで謳われた2人の才能があれば全然勝負になると思うんだけどなー。

「はちべえも何とか言ってやってくれよ。この2人悲観的に考えすぎなんだよー。」

「アルスとセニアよ、安心するが良い。魔王様の言う通りお主らがフレイムに勝てる可能性は0.5%もあるぞ。」

伏せて自分の前足に顎を乗せながらダルそうに話す豆柴。
可愛ければ空気読まなくてもいいなんてことはないぞこの野郎。

「「………」」

相変わらず寝そべっている豆柴を睨みつつ黙らす。

「アルスさん…セニアさん…想像してみて下さい。将来、俺が魔王城の玉座に座っているところを…」

凹みながらも涎垂らしてニヤついてるの知ってるからな。

「その時、アルスさんとセニアさんが横に控えて俺を支えて欲しい…」

あ、鼻血垂れてきた。お前ら絶対自分で拭けよ。

まぁギルドマスターの私室だからどうでも良いけどね。

「そんな2人が、四天王のリーダーごときに負けるとは思えないんですが…」

目に見えて明るい表情になる2人、単純というのも一つの才能だよね。
自分自身を信じられるかどうか、というのも成果に大きな影響を及ぼすのは常識だしね。

「た、確かに魔王様の側近である我らがフレイムに負けることなどあってはならぬこと…」

「セニア、勝てるか不安になっていた私が恥ずかしいわ…」

「ええ、俺は2人のことを誰よりも信頼しています。」

おいそこの犬、茶番見るような表情で欠伸するのはやめれ。
この茶番も長い目で見れば魔族の為に繋がるんだからな、多分。

ガチャリ

と、そこでこの部屋の主人が帰ってきた。

たった数日で痩せこけたようけど何かあったのか、体調だけは崩さないようにして欲しい。心配だ。
まるで無理矢理脅され、何の実績もないの冒険者にランクだけ要求され応じてしまい、その説明に追われ東奔西走したようではないか。

「では我々の用件は済みましたのでギルドカードとランクはお返しします。ではくれぐれもお身体は大切にして下さい。」

スタスタスタ ペコリ

バンッ
「魔王様、少しゆっくりしていって下さいな~」

挨拶して帰ろうとする我々に対し、ゾラスが凄い勢いでドアの前に立ち塞がり部屋の中に押し戻す。
笑っているけど血走った目が非常に怖い。


---


「では、フレイムに会うという魔王様の目的は済んだので、もう冒険者登録もランクも必要ないと。逆に持っていたらどんな弊害があるかもわからないから早く返したいと、そういうことでしょうか~?」

「はい、そもそも本来であれば長い期間を掛け、魔族やギルドの為に貢献し周囲から認められて昇級すべきもの。今回のようにズルいやり方は誇り高き魔族として良くないのではないか、と反省した次第です。」

ゾラスにもう一度座らされてこちらの要求をさっさと伝える。
はよ帰りたい。

「……ここ数日、何度も王都にあるギルド総本部に呼び出され、今回の件、事情説明をしつつ実務を何もわからない連中に小言を言われ続けました……」

ゾラスの恨みつらみを右から左に聞き流しつつ、1年後の四天王との面談までに何をするか頭の中で整理する。

アクアスは俺に対し自分たちを従わせられるのか、と俺の覚悟を確認してきたので、恐らくアクアス以外の四天王たちを納得させることができれば問題ないだろう。

「……下げたくもない頭を何度も下げ、頭が固い連中に『魔王物語』と『予言の子』、先代魔王様からの言伝を辛抱強く説明して……」

ガイアはもっと簡単だ。
あれはホエイプロテインさえ用意できれば一発だろう。
あんなヨーグルトの上澄みみたいな存在、魔族の食糧事情の改革の過程でなんとかなると見込んでいる。

「……現場での実戦経験もないただただ事務所で筋トレだけしてたような連中に何がわかるというのか……」

ゼファはもう理解してくれてはいるが、それだと逆にこっちが申し訳ないので手土産を用意するつもりだ。
見た目が若い女の子のゼファはきっと甘味を用意すれば喜んでくれるだろう。

「……ただやっとその苦労も報われました。先代魔王様の言伝が効いたようでして……」

フレイムについては、予定通りアルスとセニアに任せるつもりだ。
ここが一番の山場ではあるが、俺は十分な勝算を持っている。

「…ようやく本部のお偉いさん達も魔王様の偉大さを理解したようで、魔王様に新しい冒険者ランク『神話』級が用意されることが決定しました~」

なので色々やることが目白押しの俺は、さっさとこんなところ脱出して準備に取りかかりたい………んだよ……?

今何て言った?

「ゾラスさんすみません、ちょっと考え事をしていて内容を聞き逃してしまいました。もう一度宜しいですか?」

「はい、魔王様の為に、新しい冒険者のランク『神話』級が用意されることが決定しました~。といってももうこれは魔王様専用で、今後昇級する冒険者は絶対に出ないでしょうね~」

満面の笑みを浮かべ話すゾラスに殺意を抱く。
元々目立ちたくない俺の真意を組んでくれていたはずなのに少し虐めすぎてしまったかもしれん。

元々『魔王物語』のファンだったようだから、『予言の子』であろう俺が評価されるのを喜んでいる節さえあるわ。

おいそこのアルスとセニア、キラキラした目で俺を見るんじゃない。
俺は何も成し遂げていないし、そもそも何かを成し遂げるつもりもない。

「あのー、その神話級とやらになることによって、俺に何か影響ってありますか……?」

「………………」

ゾラスよ、ジーっと俺を無言で見つめるのをやめてくれ。
早くもったいぶらずに言ってくれ。場合によっては無かったことにするから。

「すみません少し仕返しさせていただきました~。条件は何もありません。」

表情を崩しゾラスが続ける。

「ギルドとしては魔王様の冒険者ランクを公表はしませ~ん。ただ、この先魔王様の覇道を邪魔する輩や団体が現れた際は、ギルドは全面的に、かつ無条件に魔王様の味方をさせていただきます。」

ほほぉ、ギルドの後ろ盾を得たということか。俺の覇道とかはよくわからないけど。

「ですので、これからも魔王様はご自身の信じる道をお進みください。それだけが我々の願いです。」

「……ありがとうございます。」

ズルいぞ。
普段の間の抜けた口調は鳴りを潜め、真剣な表情でそんなことを言われたらふざけられないじゃないか。

「全身全霊を持って、魔族の平穏の為精進します。ご協力感謝します。」

俺は前代魔王の相談役、現レジェンド級冒険者兼冒険者ギルドマスターであるゾラスに対し深々と頭を下げた。
両脇でアルスとセニアも頭を下げていたが、何となく堂に入っているのが普段とのギャップで少しムカついた。

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「なんで冒険者ギルドは急に俺の支持者になってくれたんでしょうか?」

冒険者ギルドからの帰り道、真面目なゾラスの前では聞けなかった疑問をアルスとセニアにぶつける。

「冒険者ギルドの創設者は先代の魔王様なんです。ですので、ギルドの重鎮達も先代様自ら専任されております。」

アルスが俺の質問に答える。
ふむふむ、魔族の冒険者ギルドなんて聞いたことないけどさ、もしかして先代の魔王も本当は転生者なんてことないよな…

「先代様は圧倒的なカリスマを持ち皆から大変慕われておりました。そんな先代様がご自身の予知夢として『魔族に真の平和をもたらす者』として魔王様のことをよく話して下さいました。」

俺はそんな大層なにn、魔族ではない。

「真偽の確認に少し時間は掛かったようですが、『神話』級は魔王様の為のランクとして先代様がご用意されていたはずです。」

先代め…余計なことをしやがって。

「ただ、新たな魔王様は騒がれるのが好きではない、との言伝もありましたので、老害爺どもも本当は一目会いたい気持ちを抑え、全てゾラスに一任したらしいですわ。」

仕方ない…最低限の気遣いはしてくれているから呼びつけて文句言うのはやめておいてやろう。


真の平和をもたらす者かどうかはわからないけど、四天王たちに啖呵を切ってしまったことだし、取りあえず一年、やれるだけのことはやってみよう。

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