第24話 ギルドマスターとの絆
レイラの母親、エレナさんの問題は取りあえず解決したといっていいだろう。
次狂龍病が発症する前、約3年後までにアルスとセニアが鍛錬をし直す必要はあるが、魔王軍の組織体制の意識改革を実行できれば、今まで鍛錬する時間を取れなったアルスとセニアも十分自分たちの時間を作る事は可能だろう。
アクアスさんと話しをしている時は『取りあえず』という感じで協力を依頼してみたが、やっぱりそうなると四天王の協力は必要不可欠だな。
「か、母様…もう大丈夫なん…だよね?」
今まで蚊帳の外にいたレイラが恐る恐る訪ねて来る。
いかんいかん、大人たちの話ばかりで一番母親を心配していたレイラを忘れていた。
エレナさんはすぐにレイラに暖かい視線を送り優しく答える。
「レイア心配掛けてごめんなさいね。母はもう元気です。この先も、この魔族さん達が協力してくれるから何も心配いらないわ。あら、そういえば…」
エレナは狂龍病の症状が落ち着いて目を覚ますとすぐ、娘と無事を喜び合うより前に、俺のアルスとセニアと話し込んでしまった為、そもそもなぜアルスとセニアがここにいるのかを考えていなかった。
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その後、レイラから今に至るまでの状況を伝えられ再びアルスとセニアとお礼と謝罪をし合うというのを繰り返し、ようやく皆落ち着きを取り戻していた。
「やっぱり魔王ちゃんの言っていた『魔族の未来』というのは正しかったと確信しました。」
微笑みを浮かべながら嬉しそうにレイラは語る。
「魔王ちゃんは魔族でありながら、さらには圧倒的な強さを持ちながらも、民を虐げるような真似は決して許さず、他の魔族を思いやり、自分以外の幸せを常に考えていました。」
アルスとセニアも懐かしそうに聞きながらしみじみと頷いている。
「確かに今のアルスさんとセニアさんは武力的な意味では強くないのかもしれませんが、きっと魔王ちゃんはお二人の優しい心を見抜いていたんだと思います。」
「「エレナさん……」」
アルスとセニアの過去の話が始まってから俺の存在感が非常に薄い。
目立ちたくないので本望ではあるんだが、アルスとセニアの人生が濃すぎるわ。
「魔王ちゃんの大切にしていたこの国を大切にしてくれて本当にありがとう。誰がなんと言おうと貴方たちの強さを私は理解しました。」
おぉ、俺に関する以外のことでアルスとセニアが泣いている。
まぁ100年に渡って、守り続けていた魔族たちから馬鹿にされながらもその魔族の為に行動し、それが初めて報われたんだろう。
………やはりフレイムだけは許せない。
一度面と向かって、、、
やばい、本題を忘れていた。
「アルスさん、セニアさん、ギルドマスターからの依頼どうしましょう…」
「「あ」」
だよねー。
今更エレナさんの討伐とかどう考えたって不可能、というか人として絶対ダメだろ。
つーか龍は魔族じゃないのかな?その辺の整備も必要だけど今はそれどころじゃない。
不思議そうな顔でこちらを見るエレナさんとレイラ。
そもそも人型とか聞いてないし、仮に龍の姿だけだったとしてもこんな知性的な生き物を、ただフレイムと接触するだけのこっちの都合で倒す気になどとてもなれん。
困った………。
よし、ゾラスさんに事情を伝えた上で建設的な相談をしてみよう。
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ということで冒険者ギルドのゾラスの部屋に戻ってきた。
今回はエレナさんとレイラも一緒に。
説明するよりもこの2人を見てもらった方が早いだろうと考え着いてきてもらった。
2人に事情を説明すると、それが必要な事であれば、と快諾してくれた。
「……で、このお二人が魔炎龍で、お母様の方が例の討伐対象、ということですか?」
顔が引きつったゾラスからはいつもの軽そうな雰囲気が失われている。
「はい、依頼をお受けした際はそんな説明一切なかったと記憶していますが、それは冒険者の安全を守るギルドとして、通常のことなのでしょうか?」
笑顔で確認する俺の表情とは対照的に、ゾラスは驚愕の表情を浮かべている。
聡明な彼のことだから、この後俺が何を言い出すか既に理解しているのだろう。
「い、いやそれは、、、」
「現に最初娘のレイラと接触した際は、まさか正体が龍、ましてや討伐対象の実の娘の龍とは気付かず、人型のレイラと接触していました。」
レイラに視線を送る。
「いきなり龍になったとき3人とも凄い驚いてたよねー」
少しわざとらしすぎるが別に嘘をついている訳でもないので構わないだろう。
「幸いレイラに悪意はありませんでしたので問題はありませんでしたが、これがもし悪意を持った敵であった場合、我々3人は既に亡き者となっていても不思議ではありません。何か異論はありますか?」
よくよく考えて見るとレイラの変身を見た後で、アルスとセニアがエレナのこと思い出してくれればもっと簡単だったかもしれんな。
レイラは母親であるエレナと顔立ちはよく似ている、勿論大人と子供での違いはあるが、パーツはほぼ一緒で瓜二つなのでむしろアルスとセニアは気付くべきだった気がする。
あとで2人のに口内炎でも作ってすっきりしよう。
アルスとセニアの件は当然伏せた上で、黙っているゾラスに再度問う。
「異論は、ありますか?」
「……いえ…、全くありません~。もう勘弁して下さい…」
そこからも淡々とギルドの不手際をつつき続けること30分、ゾラスは燃えカスとなった。
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「魔王様、もうわかりましたから……」
「はて、何がでしょうか?
「もうわかりましたから、び、Bランクへの昇級の手続きを始めましょう。」
「はい、ありがとうございます。」
俺は満面の笑顔でゾラスに礼を伝えた。
どこの世界でも人と人との繋がりは大切である。