263 夜、キャラバンの村にて
夜。
キャラバンの村の中央広場で、マナ石の入ったランプが灯っている。
ランプは広場の石で舗装された道やら、立ち並ぶ木造と石造りの建物を照らしていた。
先まで騒然としていた広場は、いまは落ち着いて、いつもの村人達が行き交い、酒場からは賑やかな談笑が聞こえてくるようになっていた。
「……ふぅ。終わったかな」
周りを見渡したマナトは、軽くため息をついた。
「マナト、お疲れさま」
「あっ、ミト」
医者とともに、治療や手当てにあたっていたミトが、広場に戻ってきた。
「護衛のみんなの容態は?」
「うん、なんとか、ね。……よっこいしょ」
ミトが、広場に設置されている石の長椅子に腰かけた。マナトもその隣に座った。
長椅子の前に置かれたマナのランプが、2人の顔を照らし出した。
「深手を負った人たちも、なんとか大事には至らなかったみたい」
「無事だったんだ。よかった……」
「でも、傷が酷いのは、間違いないよ。しばらくは、動けないと思う」
「そっか……」
岩石の村のメンバーと合流し、鉱山の村からの帰り道。
ロアスパインリザードの襲撃に遭い、多くの岩石の村の護衛達が負傷してしまった。
中には深手を負い、馬車で担ぎ込まれたときには、予断を許さない状態の者もいた。
その者達を、キャラバンの村の医者達を中心にして、村人やキャラバンも混じって、先まで救護にあたっていたのだ。
もちろん、交易中に負傷し、深い傷を負って帰還してくるキャラバンもいないではなく、キャラバンの村では、そういった者達を受け入れる体制というのが整っていた。
「マナトのほうは?」
ミトが聞いた。
マナトはさっきまで、主に傷の浅い者達へ、塗り傷薬や水、食料を配っていた。
「ああ。手当てを受けて、みんな、宿舎のほうで休んでいるよ」
マナトは広場にある、他の建物よりもひとまわり大きな木造の建物を指差した。
キャラバンの村の、旅客用に造られた宿舎だ。
「そっか。そっちのほうは、大丈夫そうだね」
「うん。しかし、大変なことになったなぁ」
「いやホント、交易に行く前から、えらい目に会っちゃったね、あはは」
ミトが苦笑した。
「ホントだね、あはは……」
マナトも笑い、夜空を見上げた。
前の世界で決して見ることのなかった、数多の大小の星がまたたく。
その星空を眺めながら、マナトは言った。
「岩石の村の人たちは、もう、メロ共和国には、行けなくなっちゃったかなぁ……」
「そうだね。今回の騒動で一日遅らせることにしたとはいえ、明後日には、メロ共和国に向かうっていう、話みたいだし……」
ミトも、星空を見上げた。
「あっ、流れ星」