262 戦闘⑧/サーシャとラクト
「片目をやられて、逆上状態といったところか」
――シュ~!
「気をつけろよ。さっき、別の一体を相手にしたとき、命が尽きる寸前に、最後の力を振り絞って、身体中のトゲを無差別に飛ばしてきやがった」
「分かったわ」
ラクトが今度は、護衛隊を見た。
「傷の深いヤツもいるな。さっさと倒して、キャラバンの村で治療を受けさせないと、危ないヤツもいる」
「ええ、分かってるわ。あなたの持ち場は大丈夫なの?」
「ああ。一体倒して余裕が出た」
――シャァ!!
「来い!」
片目のロアスパインリザードに、ラクトが真っ正面から迎え撃った。
爪と牙の押収、その挙動の中に鋭いトゲ鱗がラクトに襲いかかる。
容赦のない連続攻撃。
しかし、ラクトのスピードは、それを上回っていた。爪を牙をかわし、鱗をダガーで弾き飛ばす。
――スッ。
と、何度目かのロアスパインリザードの噛みつき攻撃に合わせてラクトは素早く膝を曲げ、腰を落した。
極端に、ラクトの姿勢が低くなる。
――ガシッ!!
ラクトの頭上で、ロアスパインリザードが空を噛む。
「おらっ!!」
――ザクッ。
ロアスパインリザードの下顎から口の上まで、ラクトのダガーが貫いた。
――シュ……。
ラクトのダガーで、ロアスパインリザードの口が無理やり閉じられる。
「いまだ!!やれ!!」
サーシャが、跳躍していた。
ヒラヒラと、黄色い水玉模様のドレスと、長い金色の髪が舞う。
――ザクッ!
サーシャの長剣が、ロアスパインリザードの脳天に深々と突き刺さった。
※ ※ ※
オレンジ色の夕日が、キャラバンの村全体を照らした。
場所によっては、マナ石に火が灯る頃。
――カン!カン!カン!
キャラバンの村の中央広場にある、大きな鐘が鳴り響いた。
「おっ、帰ってきたか!」
「ああ、そのようだね!」
中央広場では、メロ共和国の交易に向けて、着々と準備が進められていて、鐘を聞いた村人は顔を見合わせた。
「たしか、鉱山の村で、岩石の村と合流してた連中だよな」
「だな。よし、迎えに行くか!」
手の空いている者達で、砂漠の方面へと向かう。
「ちょっと、予定より時間がかかったんんじゃないか?」
歩きながら、村人達が談笑している。
「たしかに、そうだな」
「日が暮れるギリギリだぞ」
「寄り道でもしてたんじゃね?」
「鉱山の村の洞窟で、遊んでたりしてたんじゃない?」
「あはは!」
砂漠の手前までやって来た。
オレンジ色の光が、地平線に消えてゆく。
代わりに、空を輝く星達が、次々と姿を現し始めた。
「おっ、来た来た!」
「なんだ?ラクダと……」
「あれ、馬車じゃね?」
馬車とラクダが、そこそこのスピードでこちらへ向かってくる。
「あっ、ラクダに乗ってるの、ケントだな!」
村人達は手を振った。
馬車より少し先に、ケントが到着した。
「ケント!おつか……」
「村の医者を!!深手を負った怪我人が多いんだ!!」
「えぇっ!?」
「詳しい説明は後だ!!とにかく!医者を中央広場に呼んでおいてくれ!!」
「わ、分かった!!」
少し遅れて、馬車が到着した。
「馬車はそのまま!俺について来い!」
ケントと馬車は、急いでキャラバンの村に入っていった。