あまりの暑さに俺は、飲み物を買ってこようかと思った時である。
トイレから、茶髪のウルフカットの男性が出てきた。
「か! 係長!」
「お、ナオヤもトイレか?」
俺の上司の係長がトイレから出てきたのだ。
おかしい、確かに、つるりんは、このトイレに入ったはずだ。
「はい……」
そう言いながら、確認のためにも、トイレの中を見てみる。
個室が三つとも空いている、用を足している人は、いない。
つまり、今ここには、俺だけ。
つるりんが入って以降、誰もここから出てきていない。
「係長!!」
俺は、立ち去ろうとする上司を呼び止める。
「なんだ?」
「背中にゴミがついてますよ!」
俺は、何食わぬ顔で、彼の背中を払ってやった。
払ってやりながら、その茶髪の髪の毛を軽く引っ張った。
明らかに、引っ張れた。もっと強く引っ張ったら、取れそうな程に。
「髪はいじるなよー、セットしたばっかなんだから」
「係長!」
俺は、一歩後退する。
「今度はなんだよ」
面倒臭そうに、係長は俺を見る。
俺は、思わず敬礼をした。
「つるりんファンのなおやは、つるりんを発見しました!」
係長の血の気がひいたのが、一目で俺には分かった。
「係長、いや、つるりんさん、おつるりん!」
係長は、無理やり肩を組んできた。
思わず俺の脳裏には、殺される、という単語が何故かでてきた。
「懇親会は今からだ、おつるりんじゃねーわ!」
係長は、カツラを取る。
そして、笑ってくれた。
配信中の皆に愛されているつるりんがいた。
「これからも、配信にこいよな? なおやさん」
「もちろんです!」
トイレの前で、男二人の笑い声がこだました。
俺は、これからも上司に課金をし続けることになりそうです。
真夏の炎天下の中、つるりんのハゲ頭は眩しく光輝いていた。