魔法の家庭教師に逃げられる
「ぐ……っ！ あと10秒だ」
空中に浮いていた水玉が、地面に落ちる。
「はあはあ……20秒が限界か」
屋敷の庭で、俺は魔法操作の訓練をしていた。
バケツに入った水を、球体にして宙に浮かせる。
ヴァリエ家は魔術師の家系だけあって、魔法に関する本がたくさんあった。
俺は魔法の本を読みまくり、少しでも魔法のことを知ろうとした。
それでわかったのは、魔法の基礎は魔法操作——魔力を使って物を動かすことにあるらしい。
まあ、メイドも親も、アルフォンスが自主的に勉強する姿にめっちゃくちゃ驚いていたが……
「ロザリア先生、どうすれば水玉をもっと浮かすことができますか？」
メガネをかけた、緩い巻き髪の女性魔術師。
準男爵家の長女で、貴族社会では一番下の家柄だ。
たしかゲームの設定では、25歳だったか……？
アルフォンスの家庭教師を務めていたが、アルファンスのセクハラとパワハラでボロボロになって、最期は自殺する。
実は学園に妹がいて、姉を死に追いやったアルフォンスを激しく憎むことになって……
「…………アルフォンス様、す、すみませんっ！ これ以上、水玉を浮かせる方法はありません……」
「え？ そうなんですか？ 魔力操作は魔法の基本だからキチンとできるようにと——」
「そ、それはそうですが……アルフォンス様はすでに20秒間も浮かせることができます。これ以上は……私の領分を超えてしまい……」
ロゼリア先生はビクビクながら言う。
なんだか恐ろしいものを見るような目をして。
きっとアルフォンスが散々イジメまくってきたから、怖がっているだろう。
アルフォンスは15歳でありながら、ロゼリア先生のおっぱいを揉んだりお尻を撫でたりしていたそう……
それでロゼリア先生が嫌がると、クビにすると脅す。
だからアルフォンスのことは、大嫌いに違いない。
「わ、私はクビですか……？」
「クビになんかしないよ。先生にはいつも感謝している」
「……！」
ロゼリア先生は固まってしまう。
感謝の言葉さえ、嫌悪の対象なのか。
やっぱりアルフォンスは嫌われてる。
「もっと魔法を教えてください。俺、先生からもっと教わりたいです」
「…………無理ですっ！」
「あっ！ 待って！」
ロゼリア先生は走って逃げて行った……
「ここまで嫌われていると……さすがにショックだな」
さすが【いいところがひとつもない】悪役キャラ。
ネットでもアルフォンスが【ざまぁ】されるシーンは、何度も切り抜き動画を上げれられていたし。
じーっ「…………」
背後に、誰かの視線を感じる。
俺が振り返ると、メイドのリコの姿が。
「リコ！ 何か用かな？」
「ひっ！ す、すみません……！」
リコは逃げて行った。
「やっぱりリコにも嫌われてるよな……」
