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修行2

 みんなで遊んだ次の日。
五人は旅館の押入れの中の空間にいた。

「よし! じゃあ今日は一日大和の修行だー」
「わ~い。頑張りま~す」
「じゃあまずは天姉が先生役ね」
「承知!」

天音はくノ一の衣装を着て、空のペットボトルを持っている。
「えーっと。その恰好は天音の戦闘服ってことですか?」
「その通り! 私はゴリラくノ一。あ? 誰がゴリラだ」
「何も言ってないですよ……」

修行の内容は天音の攻撃を防いだり天音に攻撃したりするというシンプルなものだった。

「俺の武器木刀ですけど、これで攻撃したら天音が危なくないですか?」

「天姉を舐めるな。天姉にはバカみたいな魔力量があって、それを使って常に身体強化の三原色魔法陣を発動させてるからバカみたいに強い。ほんとバカみたいに」
「あんまりバカみたいって連呼するな」

「三原色の魔法陣って確か白黒の次に起動するのに必要な魔力が多くて、強力な魔法が使えるんでしたよね」

「ちゃんと覚えてるね~。そうだよー私すごいでしょー」
「すごいです。餅ばっかり食ってるくせに」


 天音の武器は手に持った空のペットボトルらしい。
身体強化の効果はすごいらしく、木刀で殴ったとしてもスポンジを投げつけられたくらいの衝撃しかないそうだから、安心して攻撃できる。

「まぁとにかく、そろそろ始めようか」
天音がペットボトルを構える。

「はい。よろしくお願いします」
二人は五メートルほど離れて向かい合った。
恭介の合図で修行が始まる。

その瞬間大和は天音を見失う。
「消えた!」
辺りを見渡しても見つけることができない。

しかし自分の体の周りを風が駆け巡っていることから、透明になったわけではなく速すぎて目で追えないのだと分かる。
こういう時の定番は

「後ろ!」
攻撃の気配を本能で感じ取り素早く振り返る。
と同時に木刀を持っている右手に衝撃が走った。

「くっ!」
空のペットボトルで叩かれたとは思えないほど痛い。
大根でぶん殴られたみたいだ。

「今結構反応できてたね~。すごいじゃん」
天音の声が右から左から聞こえてくる。
目で追うことはやはりできない。

また攻撃の気配を感じる。
「今度は右!」
さっきよりも早く反応し攻撃を木刀で受けることができた。

しかし、痛い。
すっごく痛い。
手が痺れた。
小太郎と凛との修行の時よりも手への負担が大きい。

速すぎて受け流すことが難しい。
守ってばかりではマズイ。
こっちから攻めてみよう。

姿を捉えることはできないが、体の周りを駆け巡る風から動きを予測できる。
ここだと思った場所に木刀を振り下ろす。
すると空中で弾かれた。

「なかなかセンスがいいね~」
声が聞こえたと思ったら左肩に衝撃。
痛みに悶える暇もなく次は右足に。
膝をついてしまう。
立ち上がって木刀を構えると同時に今度は背中に激痛。

天音がスピードを上げたようだ。
さっきまではなんとか攻撃がくることを察知することぐらいはできていたが、もうそれすら出来なくなった。

必死に感覚を研ぎ澄ますも、反応できない。
腹に強い一撃を貰い、とうとう地面に手をついた。

「オェッ!」
胃の中身を吐き出さないように口を手で押さえつける。

「あーごめんごめん! いきなりとばし過ぎたね」
天音が大和の背中をさする。

「だ、いじょうぶです……」
「水持ってくるわ~」
日向はとことこ歩いていこうとする。

「い、え。必要、ないです」
大和は自分の胸倉を掴むように荒々しく胸に手を当てた。

「コレクトッ! ……ふぅー。もう大丈夫です」
「あーそういえばそれがあるんか。便利やなー」

「よし。再開しましょう」
「大丈夫?」
恭介が心配そうに大和の顔を覗き込む。

「いけます」
大和は心配無用というように親指を立てた。

「まぁ大和がいいならいいけどさ。それじゃあ次は僕が先生役をしようかな」
恭介が準備運動を始めた。

「交代で先生をやってくれるなら恭介の次は日向ですか?」
「いやー。魔法関連のことなら先生できるけど、私はこういうのは無理や」

「よかったです。また天音みたいに見た目に反して格闘でもすごく強かったりしたら俺のプライドがくたばるところでした」
「私は見た目通り、か弱い女の子やから安心してええよ」
にっこりと日向が笑う。

「なにがか弱いだ。一番化け物でしょ」
「時間、空間を操るとかいう先生にもできん魔法が使える激やば魔法使いのくせに」

「なんやと。私はか弱いんやぞこの野郎。おい大和。日向はか弱いって言え。今すぐ。ほら。今だよ今」
「怖いですよ。か弱いをカツアゲしないでください」

「はいはい。そろそろ始めよう」
「は~い」
恭介が木刀を持った。


 向かい合って立つと
「どっからでもかかっておいで」
と言って恭介は木刀で地面を軽くコンコンと叩いた。
「木刀使うのとか久しぶりだなー」
木刀を眺めながらそんなことを言っている。

油断してる今がチャンスだ。
間合いを詰め、斬りかかる。
それを恭介は何事もないように軽く受け流した。

攻めても軽くあしらわれるのはけいの修行で嫌というほど経験した。
気にせず攻め続ける。


 ひたすら攻め続け、二分ほど経ったとき、恭介に弾かれて木刀が大和の手を離れ、後ろに飛んで行った。
大和は木刀の方をちらりと振り返ったかと思ったらそのまま後ろ回し蹴りで恭介を狙う。

「おっと」
反射的に少し身を引いて避ける。
大和のかかとが恭介の鼻先をかすめた。

「体柔らかいね」
「やっぱり当たりませんか。不意打ちに近い攻撃が当たらないのにも慣れてきました」
「一回木刀無しでもやってみる?」
「ではせっかくですので、一度お手合わせ願います」

恭介は木刀を後ろに放り投げた。
恭介が構えたのを確認すると大和は恭介の顔に拳を叩き込もうとする。
恭介はそれを最小限の動きで躱す。

次の攻撃を繰り出そうとした大和は背後に迫る気配に気がついた。

「とりゃ」
気の抜けた掛け声とともに後ろからけいが大和の足を蹴ろうとする。

ギリギリ反応した大和は跳びあがってこれを回避する。
同時に空中で体を捻り肘でけいの顔を狙う。
けいは大和の肘を掴んで空いた脇の下を軽く突いた。

「あいた。何です~? 不意打ちなんて卑怯じゃないですか」
いきなり乱入してきたけいに大和が不満を漏らす。

「僕たちはルールなんて通じない魔族をなんとかしながら魔王のとこまで行くんだよ? このくらいの理不尽で文句言うな」
「んー。確かに。それじゃ二対一でやりますか」

「なんか大和ってすごく素直だな。もっと反抗してもいいのに」
「理由に納得できることなら変に逆らうのも面倒ですからね」
「そっかー。まぁいいや。それじゃいくよー」
「大体大和がなんとか捌けるくらいの感じでやろうか」
「おっけー」
恭介とけいが構える。

さきに恭介が仕掛けた。
大和にも余裕を持って捌けるレベルの攻撃だ。

そこにけいが加わる。
けいも恭介と同じくらいのレベルにまで手を抜いてくれているが、大和はどちらの攻撃も中途半端にしか対応できなくなった。

「くっ! なにこれ忙しい!」
「ほれほれ僕たちが魔族ならもう死んでるぞ~」
「う、うわああああ!」


 大和は五分もの間二人にボコボコにされた。
「大丈夫か?」
恭介が憔悴しきった大和に声をかける。
「ぅぅ。ぅぅ」
大和は小さく唸っている。

「ぅぁぇぁ」
「すごい疲れてる。可哀想。餅食べる?」
「いりません……ぅぅ」

コレクトによってダメージは回復しているはずだが、大和は茹でたほうれん草みたいにしなしなになっている。
「……何もできずにボコボコにされるのがこんなに怖いとは。ぅぅ」

「いい経験になったね。はっはっは!」
良いことした~といった感じに笑うけい。

「大丈夫? 餅食べる?」
憔悴した人間に餅を食わそうとする天音。

「ぅぅ、いりません」
こんなに憔悴していてもしっかり餅を断る大和。

「なんや見てておもろかったわ~」
手をたたいてゲラゲラ笑う日向。

しっかり者の恭介はこんな感じで大丈夫だろうかと先のことが不安になるのだった。

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