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下校2

 狐酔酒たちと別れ、けいと二人でマンションに帰る途中。
僕は気になっていたことを訊いてみることにした。

「さっきの話だけどさ、評価って減点方式なのかな」

「どうでゴザろうね。加点もあるのなら、授業中に消極的な態度を取るのは良くないかもしれんと思うでゴザルが」

「やっぱりそうだよね。授業中に質問してこなかったのには他にもなんか理由があるってことなのかな」

けいは首を捻った。
「んー。多分恭介殿が思っているほど深い事情はないと思うでゴザル。特に心配するようなことはないと思うでゴザルよ」
「そうかなぁ」

けいは自分の考えを話し始めた。
「拙者が思うに、ラッコーは更生施設のような役割を果たしているんでゴザル」

「なんでそう思うの? 見た目が不良みたいな子が多いから?」

「まずはそこでゴザル。見た目で相手をどういう人間か決めつけるのは良くないと思うでゴザルが、見た目から読み取れることもたくさんあるでゴザろう?」
「うん」

「例えば制服。今日はみんな制服を着ておったでゴザルが、着崩している生徒もいれば、ちゃんと最後までボタンを留めている生徒もいたでゴザル。同じ恰好をしていても着用の仕方で個性が出るんでゴザルな。でも、着崩しているのは一年、二年の生徒が多くて、三年で制服をちゃんと着ていない生徒はほぼいなかったでゴザル」
「よく見てるね」

「拙者は今日ずっと全力で生徒たちを観察してたでゴザルからな。クラスメイト全員の顔覚えたでゴザル。まぁ制服よりもっと分かりやすい要素もあったでゴザルよ。髪を染めているかどうかでゴザル」

「あー。確かに三年生で髪染めてる人っていなかったかも。なるほど。それで更生施設ね」

「さっき飛鳥殿が言っていたように髪を染めてるからなんだって言われるかもしれんでゴザルが。まぁそれがなくても拙者が見た感じ、学年が上がるごとに生徒たちは丸くなっていってたでゴザル」

「僕たちの学年は一年。二年、三年より未熟で、どうするのが正しいのかまだよく分からないから、とりあえず評価を下げないために減点だけは避けるように行動している。その結果があの消極的な態度ってことか」

「多分そんなとこでゴザル」
「じゃあ今まさに成長している最中なのか」

けいは首を縦に振った。
「だから心配することはないでゴザル。何事も最初からできるやつはいないでゴザろう? これからでゴザルよ。これからみんな成長して、きっと正しい道を選べるようになっていくでゴザル。三年とかの教室は割と積極的な感じがしたでゴザルよ」

「ん? なんでそんなこと分かるの?」
「声が聞こえてたでゴザろう?」

「いや聞こえるわけないじゃん」
「拙者は耳が良いでゴザルからな」
「あー」

実際、けいはありえないくらい耳が良い。
僕も先生に鍛えられ、五感はかなり研ぎ澄まされている。

聴覚にも結構自信はあるが、けいは僕なんか比にならないくらい耳が良い。

「ちょいと話が変わるでゴザルが、さっきの話でボランティアを罰みたいに考えてたでゴザルけど、それは如何なものかと思ったでゴザル」
けいはちょっと不満そうに言った。
「それはそうだな」

「ちょっと興味あるんでゴザルよ、ボランティア。ゴミ拾いとか重りつけてやれば筋トレになりそうでゴザル」
「そうかもね」

そんな感じで話しながら帰っていると、天姉のことを忘れていることを思い出した。

「やべ。天姉のこと完全に忘れてた」
「あ、やばいでゴザルね。拙者もうっかりしてたでゴザル」

放課後になったら合流して一緒に帰ることにしていたのだ。

「スマホで連絡しよう。こういう時のための道具だ」
「やっぱりスマホって便利でゴザルよね~」

「お前さっき投げて壊したけどな」
「たはは」

存在はもちろん知っていたが、自分たちのスマホを初めて手にしたのは、ついこの間のことだ。

何かと必要になるだろうということで先生が買ってくれた。

まだあんまり触っていないが手軽に色々調べることができるみたいだし、これからお世話になると思う。

天姉に連絡してみると、
「ごめん今どこ?」
「家。なんやかんやあって友達と一緒。話すことがあるからはよ帰ってこい」
とのことだ。

編入初日から友達を家に連れ込むとは。
何があったのだろう。

画面をけいに見せると
「とりあえず帰るでゴザルか」
ということで、少し急ぎ足で家に帰ることにした。


 家に入ると玄関に靴が二足あった。
片方は天姉のものだが、もう片方は男子用の靴だ。

リビングに行くと天姉と緊張した様子の男子生徒が食卓に着いていた。
机の上には二つお茶が置かれている。

僕たちの帰宅に気がついた天姉は
「おかえり~」
と、いつも通りの様子で言ってきた。

「ただいま」
「ただいまでゴザル」
「あの、お邪魔してます」
男子生徒は立ち上がって僕たちに頭を下げた。

「はい。ゆっくりしていってください。っていうかあなたはこの前の」

僕が言うと、天姉は立ち上がって男子生徒の肩に手を置いた。

「そう。この前お祭りの時に会った、松本君」

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