お風呂回再びまさかの続き。
声をかけられて振り向いたら、
才子がいた。
…しかも裸で。
俺は咄嗟にシャンプーを──ザブァ! ザボァっ! ザブァあんっ!──と力任せに洗い流し!
「とうっ!」
ざぶぉんンッッ!
湯船に飛び込んだ……いや、才子ならちゃんと手拭いで前を隠してたし、ここは風呂場なんだから裸でもまぁ大丈夫な場所なんだけど──いやそういう問題じゃない俺が大丈夫じゃない。
「おま…っ、なんで入ってきてんだお前馬鹿!羞恥心ってもんが──」
「えー?今さらじゃない?そんなの」
「今さら──だとぅ?」
言葉の意味は分からんが、とにかく。才子と風呂を一緒した記憶なんてないんだが?
「てゆーか均兄ぃ私のこと女として見てる?気持ち悪いんですけど」
…ああ、そういうアレね。
「そっか、というか、確かに。うんともすんともな感じだわ」
と下の方、湯船の中を見ながら言うと。
「いやそれはそれで私に失礼っもんでしょぅが…まぁいいけど」
──ちゃぷ。
となるべく音がしないよう配慮しながらも躊躇なく混浴してくる才子の抗議を聞き流しつつ。魔食のし過ぎでEDでも発症しちゃったか?と少し焦りながら、思った。
(やっぱこの世は皮肉に満ちてる)
だって…実を言うと。
俺の性に関する傾向はダイナマイトボディに偏っている。性に関して意識したのが峰不○子で、精通したのがハリ
( …そのはずなのに… )
本人に言うと怒るだろうが……合法ロリ典型な大家さんを愛しちゃってるし、これでもかってぐらいダイナマイボディに成長した才子に何も反応しないという現実を前にしたら…流石にな。
(…人生の不思議を感じる今日この頃…)
なんて、ボンヤリしつつ真剣に考え始めた俺に若干呆れた才子が、珍しくご機嫌に言ってきたのは、
「昨日の…『魔食』って言うんだっけ?あれ、凄いわね…私は味見しただけなのに【強排雪】とか【強抵抗】とか【強臓】なんてスキルが生えて、こんなに老廃物か取れて、お肌がこんなプルんプルんになっちゃって…ふふ。どうしよ、さらに女に磨きがかかっちゃった♪」
て美容の話かよ。
全く興味がない話題だわ。
なので流そうかとも思ったが、こうなったのは俺が魔食料理を作らせたのが原因だからな。
「レベルアップとは別な上に器礎魔力以上に肉体の方が強化されてるからな。ドアノブとか気を付けろよ?簡単にひん曲がるから」
と、一応のアドバイス
「……ていうか、おい!入浴すんなら先に身体洗えよなっ、湯が汚れちまうだろ」
女子がエチケット(※清潔とか、他者の不快指数に心を配る事)にうるさいなら、
男子はマナー(※ルールにはない掟まで拘る事)にうるさくなる。親しい仲にも礼儀あり、的な?でも、
(うーん、女子の裸よりそっちを優先する俺、年ですか?…あ、前世含めたらそうなるか…ショボン)
「いいじゃない。義介さんは朝風呂しないみたいだし。お兄ちゃんがするわけないし。香澄さん誘ったけど断られたし。私と均兄ぃしか入る人いないんだから」
いやいやいや…エチケットも無視かこの無法女子っ。
「俺が、入ってんでしょうがっ」
「じゃぁもう一度洗いなさいよ。それぐらい入念に洗って丁度いい臭兄ぃなんだから」
「いゃだから、その臭兄ぃもやめてねっ!」
「てゆーか誰のせいでこうなったと思ってるのっ?自分の臭さで目が覚めるとか、女子的には結構ショックな経験だったんだからねっ!」
「む…それは…すまん」
エチケットもマナーもコイツには通用しなかった。つまりは不毛な争いだった。それにすらあっさり敗れる俺なのである。
そして謝るとあっさり矛をおさめて再び魔食の美容効果にウットリし出す才子なのである。
つまりは全く相手にされてなかった。なので仕方なく話を聞けば、レベルアップを重ねてから、肌荒れが気になって仕方なかったらしいのだが。
「あー、それは…」
完全にレベルアップの弊害ってやつだな。
「?なに?」
「ぃんや、なんでもねぇ」
「最近ホント多いよね?言いかけて止めるパターン」
才子がそんな状態になるまで無理なパワーレベリングをしたのには色々と事情があった。だから言うのを止めた。
本来ならパワーレベリングなど邪道だ。
レベルアップでスキルが取得出来る訳じゃないんだから。スキルってのは、【MP変換】によるMP最大値を削っての取得か、負荷による自然取得しかないんだから。
俺が推奨するのはもちろん後者。
だけど、どんなスキルを習得出来るかは、誰でも取得出来るコモンスキル以外は、ジョブの種類によって決まるもの。
つまり必要なスキルを取得したなら、すぐ他のジョブへ転職した方が良い。
そしてジョブを変更するとレベルは半分になる。それに伴いレベルアップにより上昇していた器礎魔力も半減する。
そして
かといって軽々しくジョブを変更するのはおすすめしない。転職するにしても一回か二回くらいかな。
何故ならレベルダウンするといっても半減しかしないからだ。レベル1からやり直せる訳ではない。
つまり負荷が増えるといってもそれは大したものとならない。レベルが半分残るのだからそうなる。
つまり、転職直後は、新たなスキルを取得出来ても、以前同じレベル帯だった頃に比べればスキル成長が微妙にやりにくくなっている。
なのに新ジョブのスキルがプラスされた分強化された影響で強くなり、以前より強い敵も倒せてレベルアップしやすくなっている。
つまり、ジョブチェンジ重ねた分だけ、スキル育成は徐々に難しさを増してゆく訳だ。転職を重ねすぎると、特化して強いスキルを持たない、器用貧乏になってしまう。
それに、一度就いたジョブを解除するとそのジョブには二度と就けないからな。
取得済みのスキルはそのまま育成出来るが、そのジョブでしか取得出来ないスキルを取得しないままジョブチェンジしてしまうと、そのスキルは、二度と取得出来ない。
(…かもしれない。俺がチュートリアルダンジョンでスキルをもらった時みたく、取得出来る機会はまだありそうだし、前世ではスキルを取得できる称号とかアイテムもあるって聞いたからな、絶対ではないだろうけど)
とにかく。
才子はもう『壊し屋』で習得出来るめぼしいスキルは既に習得している。いや、未取得のスキルはあるけどな。
でも全部を習得するとなったら【MP変換】を使う場合ならかなりの量でMP最大値が削られてしまうし、負荷による自然習得を目指すにしても長い期間を要するだろう。
それなりに貴少なスキルだったけど特に必要でなかったからな。習得する手間を考えると……うん、やっぱこのタイミングで転職しても大丈夫だろう。
とまあ、長々と説明したがともかく。
才子は新しいジョブを選ぶ段階にきている。昨日はその片鱗を見せてたしな。なので、
「なぁ、新しいジョブが生えてたりしてないか?」
俺がそう聞いてみたところ。
「え?なに急に…まぁ見てみるけど…あー。『アマゾネス』ってジョブと『魔食料理研究家』ってジョブが新しく生えてるわね」
( …やっぱりな )
多分だが、アマゾネスは俺に裸を見せたからで、『魔食研究家』は昨日魔食料理を作ったからだ。ならば、
「よし。『魔食研究家』だな。お前はそれを極めろ」
「は?なんで均兄ぃが決めるのよ」
「じゃぁ『アマゾネス』を選ぶか?そのジョブだと【露出強】ってスキルが生えてだな──」
それは『肌の露出が多ければ多いほど強くなれるスキル』だと説明すると、
「うん、魔食研究家にする」
こうなった。
前世の才子は『アマゾネス』を選んでいた。そして【露出強】を活かすため──というか才蔵を守って生かすためにビキニアーマーを着て戦っいた。
まぁ似合ってたけどな。目のやり場に困ったし、男達の関心を集めまくってトラブルを誘発する要因にもなっていた。
だからやめて正解──ああそっか。才子の裸に耐性がついてるのは前世で散々見たからかもしれないな。
「(…良かった…EDじゃなくて…)げふん、ともかく…魔食研究家ってのはだな──」
「ゴメン、均兄ぃが解説してくれる前に転職しちゃった。っていうか、早速レベルアップしちゃったんだけどなんで?【魔食調理】ってスキルもゲットしてるし、スキルレベルも4に上がってて…」
「なんだ選択しちゃったのか。でも、うん、いいんじゃないか?それで」
ジョブを取得した途端ジョブレベルが上がったりスキルが生えたり、しかもスキルレベルまで上昇したのは多分、昨晩作ってくれた料理が原因だろう。
そしてそのスキルの効果たが、
【魔食調理…魔食材は高位になるほど調理するのが難しくなる。低位の魔食材でも高度な調理に挑戦する際には難易度が上がる。
このスキルを持つ者が魔食調理を成功させるとスキルが熟練し、経験値も得られ、その魔食で得られる効果を上昇させ、魔食に付きまとう苦悶を和らげる事まで出来る。
スキルレベルを上げればその確率は上がる。成功させた際、それが新しいレシピならば得られるスキル熟練度と経験値は多くなる。】
と、見ての通り、スキルを成長させる際は、経験値も取得するので、生産しながらレベルアップ出来るようになっている。
戦闘に向かない生産系のジョブは大体がこんな感じのスキルを生やす。
その代わり、モンスターを倒して得られる経験値は半減する。
これは、中途半端に邪魔な仕様だ。
というのも、生産系スキルは戦闘系スキルのように、肉体にかかる負担が人外基準だったりしない。
なのでレベルアップで器礎魔力を上昇させ無理矢理に肉体を強化させたり、魔食をして肉体を改造してまでその負担に備える必要が、あまりない。
だったら、スキルを覚えまくってそれらを出来るだけ成長させた後にレベルアップにとりかかっても支障はないはずだ。
何度も言うが、レベルアップすればするほど負荷が減る事になり、負荷が減るとスキルは成長させにくくなってしまうんだから、絶対にそうした方がいい。
なのに出来ない仕様となっている。スキルを使うだけで経験値を稼いじゃうからな。だから邪魔な仕様だと言った。
実はこの村を徘徊する餓鬼を殲滅する際、大家さんでなく才子を同行させてパワーレベリングしたのは、そこら辺が関係してる。
生産職になってしまうと戦闘での経験値取得量が半減してしまい、パワーレベリングの効果も半減してしまうからだ。
そして生産スキルを覚えるのがメインとなる生産職だと、取得出来る戦闘スキルが少なくなってしまうからだ。
(特に『速』魔力を強化するスキルを覚えないってのがネックなんだよなぁ生産職は)
生産職が『加速系スキル』を取得するなら、コモンスキルからとなる。それを地道に育てるのが殆んどだ。戦闘も視野に入れるなら…特に対人戦を想定すると、これは致命的と言っていい。
(そう、今の世界は残酷だ。どんなタイミングでどんな暴力に晒されるか分かったもんじゃない。最低限の自衛は出来るようになっとかないと…才子が不幸になっちまう)
パワーレベリングの際は戦闘に参加させなかったが伴走はさせていた。俺のスピードについてくるのは結構しんどかっただろうが、『加速系スキル』を取得させるためだった。
周辺の山々を探索した際にわざとスピードを出したのだって、高速に慣れさせて『加速系スキル』を育てるため。
才子が認識の甘い事を言った時に叱ったのもそう。速さに対する警戒心を喚起させるためだった。
あとは……そうだな。【解体】スキルを持って無い俺にとって解体という作業は面倒な事この上なく…だから才子が調理の延長として解体も出来るようになってくれたらなーって思ってもいたな。
その【解体】は『壊し屋』のジョブで取得出来るスキルで……そう、才子はその『壊し屋』のジョブに就いていた。
だからどっかのタイミングで必ず解体させよう。そう思っていた。餓鬼の肝臓を摘出させたのがそれだ。あれも解体作業の内に入るから。
そしてあの時に【拙速】と【解体】を取得した事は【大解析】で確認済みで──
──そう。俺は、誘導していた。才子が生産職に転職する方向へ。
回帰して才子と再会したあの時にはもう、『魔食研究家』になってもらうつもりでいたのだ。
このジョブに就いてもらえば、無理に戦闘に参加する必要もなくなる。
そうなれば生産職になる予定の才蔵とも長く一緒にいられる。
それに『壊し屋』というジョブでの経験を無駄にしないで済む…というか活かす事が出来る。
そして何より、魔食料理を鬼怒恵村の人々に振る舞えば、他所の武装集団よりも強くしてあげる事まで出来てしまう。
今世の才子がこのジョブを選択する事は、この村の自衛力を養う上でも、とても重要な事だった。
(…という密かな思惑があった事は…うん、このまま言わないでおこう)
さすがに才蔵の時みたく問答無用に強制すれば自分勝手だって俺を責めただろうし、実際にそうだし、不満を募らせてしまうとその後の成長具合に響くからな。だから言わなかった。
(自己鍛練ってやつは自主性がなきゃ続かないから…)
だから俺も『自然な流れでこうなってくれたら…』くらいにしか考えてなかった。
今はまぁ…『しめしめ、上手くいったな…』くらいは思ってるけどな。
(才子が乗り気になってくれてるようだし、まあ結果オーライか…)
「とにかく『アマゾネス』は却下ね。均兄ぃは身内も同然だから裸なんて見られて平気だけど、他の人には見られたくないし。てゆーか均兄ぃに特別見せたい訳でもないからね?今後を期待したりしないでね?」
はあ?
「しねえわ!つか、才蔵も身内だろ?見られて平気なのか?」
「…それは、話が別で…ブクブクブク…」
なんなんだ。その今更なしおらしいリアクションと扱いのちぐはぐな差は。
「血の繋がりがないとはいえ兄貴である才蔵に見られるのが恥ずかしくて、他人の俺に見られるのは平気とか。なかなか迷宮入りしてるよな、お前の人格も。」
「…、他人ですって…?」
おお?声が据わった。なんだ急に?
「随分な言いぐさじゃない?ホントにそう思ってる訳?均兄ぃが死ん…だかと思った時、私達が何も感じなかった…そう思ってるわけ!?ざけんじゃないわよこの、馬鹿っ!朴念人!臭兄ぃっ!」
「あ、や、ごめ、それはすまんかった!でも今の流れで『臭兄ぃ』は関係ないよ?つか…おい!顔にかけてくんな!お前の汚れが濃く溶けた湯を!汚ねぇだろっ!」
「く…っ、ほんとデリカシーのない…っ、てゆーか、迷宮入りしてるのは均兄ぃも一緒でしょ?」
「あん?そんなのもう自覚完了してるっつの」
「そうじゃなく…香澄さんの事よ。まさか均兄ぃの意中の人があんな可愛らしい感じとは…てゆーか犯罪臭凄いんですが。やっぱ臭兄ぃだわ。臭い飯食ってればいいんだわ。乙女にあんな料理作らせてこんな臭い身体にして文字通り臭い関係に無理矢理してっ!」
く。『臭兄ぃ』で上手いこと言えるほど使いこなし始めた?これはヤバい兆候だ。
『何に反応して何の心配をしておるのだオヌシは…』
無垢朗太が呆れてやがる。でも確かに。
「つか、何言ってんだ。大家さんと俺はまだそんな──」
「まだ…ね。そんな悠長な事言える段階じゃもう、ないと思うんだけどな」
「段階…って、何の?」
「香澄さんは…あの人は何かが違う。それが何なのかは分からない。私も随分と変わり者だって思ってたけど……そんなレベルじゃなく…なんとゆうか…彼女は、根本から違う」
「お前な…」
「ううん、それが悪いなんて思ってる訳じゃないの。でも危ういとは思ってて、そんな彼女には側で支えてあげる人が必要で、それは均兄ぃ以外に代わりはないって思ってる……なのに。そんな覚悟でホントに良いわけ?」
「う、うっせぇ、色々あんだこっちにも」
「それはそうでしょうね。てゆうか誰だって大なり小なりでしょ、そんなの…だから分かった上で言ってんのよ。事情や理屈なんてすっ飛ばさなきゃいけない場合だってある。私はそれを、人より少し分かってるから…」
才子と才蔵は血が繋がってない。彼らの両親が亡くなった時にそれが発覚したらしいのだが……才子が才蔵を心から愛するようになったのはその時からだ…と俺は、才子から聞いている。
兄に向ける愛情ではなく、異性に向ける恋愛感情ともまた違う。一生を共にして、愛だけでなく全てを捧げたい、彼女はそう想ってる。
だから、拗れてる。
肝心の才蔵はどう思ってるのか。それは…余計なお世話になるので聞いた事はないし、知らないようにしている。だからホントのところは分からない。
ただ言えるのは才蔵は妹として接する事に徹しているようだ。
愛してるのに愛を簡単に伝えられない相手にそうこられては、才子の方も妹として接するしかなく。
そんな才子が言う事だからこそ、俺も無視は出来なかった。
「(くそ、だから察し良すぎだっての…)まぁ、俺もそう思ってるよ。彼女を支える人は、俺でありたい…でもな。俺はまだ、あの人の闇というか、根の深さを分かってないってのも分かってんだよ。だから、それがどんなに深い闇でも構わないから、それを分かった上で支えてあげたくて──うーん…あれ?ぅーむ…」
…我ながら思った。何言ってんだ俺はと。それを見すかしたように、
「あーやっぱり。面倒な事考えてる。そしてクサいわ。やっぱ臭兄ぃだわ…」
こいつはホント…っ、
「っさいな!それも分かってんだよっ!」
でもその面倒を乗り越えとかないと、何かを間違ってしまいそうで怖いんだよ…っ。
だって…選択を間違えると最悪を迎えるのが今の世界だって、前世でいやってほど知ってて…だから──いや、
『じゃぁお前は常に最善の選択をしてるのか?』
そんな事をもし、言われたら?
まぁ…『わからない』…としか言えない俺なんだけどな。