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心の一撃。



 初撃は、自分でも思いがけない動きで放たれた。

 おそらく極短期間で多くのスキルを進化させた弊害だろう。

 折角更新された性能を完全には使いこなせていなかったようだ。

 つまり額面通りの威力は発揮出来ても技としては不完全なままだったのが、阿修羅丸の心臓を始めとする高位食材を食した事で、肉体性能と器礎魔力の両方が大幅に強化され、使いこなせるように。

 つまりはソフトにハードが追い付いた。

 実際、今まで大袈裟な回転運動を必要としていたのが、

 【螺旋】を発動すれば、全身を巡る魔力が螺旋を描いて流れるのを感じた。

 それに重ねるように【ポンプ】が自律発動。強化された血流が疾る魔力を追いかけ、追い付き、後押ししすると、動きが劇的にスムーズ化、最短軌道と最大威力の両極を難なく両立。

 インパクトの瞬間には【爆息】と【震脚】も合わさって、動きはさらに鋭さを増し、

 これに便乗するスキルは満を持してと【精神耐性】から進化した【精神大耐性】ではなく、そこから派生した、


 【心撃】。


 それは、心の力を乗せる一撃。

 
 カァァア──独特の光を放つそれは見事、敵の『霊体特性』を貫き、


 ──ゾキっ!



『ぎ──ぎゃあぁぁあああああああ!』



 確かなダメージを与えた…あの、『鬼』に。


(──し、戦える…っ、)
 
 
 しかもこの新たな動きに反応したのか、

『【超剛筋LV2】に上昇します。』

 俺の肉体性能を総合的に底上げする【超剛筋】が成長した。これで1.4倍率。この勢いを、駆る!


『きさまっ!助けてやった恩を──』


 そんな妄言は無視──ゾンッ!


『ぎゃぁぃっ!何故、何故このような無体を──』


 心の一撃でまた斬りつけられた怨念の塊、『鬼』が悲鳴を上げた。その言い分にはさすがに言い返さずにいられない。

「うっせぇ!つか何が『助けた』だっ、俺の体を乗っ取るつもりだったくせにッ」

『な、何故それを──貴様は一体──』

「そりゃ…知ってるに決まってんだろうがっ!」

 前世ではそれはそれは散々な目にあったからな。なんて事まで教えてやる義理はない。つか恨みしかない。だから斬る──ゾバぁッ!

『いびぃぃいあああっ!』

 まったく…なんて情けない声を出すんだ。…もう死んでるくせに。

「阿修羅丸を見倣えこの、ゲス野郎ッ!」

 あいつは勇敢だった。戦う事に真摯だった。思えば迷う時だって大真面で、その迷いを振り切った後は最期まで格好良かった。

 そんな偉大な戦士をコイツは…いらなくなった玩具を捨てるように──コイツには相応の報いが必要だ。

 このまま止めを──そう思ったがしかし。

『なぁめるなぁぁぁあああっ!』

 ──キしィィィイんッ!

「ぐう!…くそっ、しつけぇなっ!」

 俺の【心撃】は奴の透明な刃に弾き返されていた。

 それに、精神攻撃に関してはヤツに一日の長があったようだ。弾き返される余波で俺はダメージを負ってしまった。

 身体を見れば傷はない。ダメージを負ったのはどうやら心。何やら内部中心から全身に向け、軋むような感覚が──それでも。

 何故か、負けるとは思わなかった。

 阿修羅丸が俺の中で生きているのか…なんてセンチな思想が一瞬よぎるが…

 これはいつもの前兆。

 今の負荷が作用してほら──カチリ、はまった感覚。今、スキルが成長す──

『【心撃】と【爆息】が呼応。スキル合成が可能です。合成しますか?』

 使いこなせていなかった進化スキルが急に使いこなせるようになったからだろうか。まただ。システムにスキル合成を提案された。

 だが、合成してもその一つ上の上級スキルにしかならない場合だってある。

 上級と聞けば凄そうに思えるが、それは【MP変換】で簡単に取得出来るものでしかなく…。

 いやその【MP変換】自体を封じられた俺には有難いとしとかなきゃなんだろうけど。それでも払う犠牲に対してショボさは否めず…。

 とかいう躊躇いならあったが今はもう、『鬼』を倒す事しか考えられなくなっていた俺は──


(……っああくそ、もういいから!合成しちゃってくれっ!)


 と少しヤケクソ気味に決断、その結果。

 
『上級スキル【気功撃】を取得しました。』

 …えええ?マジでただの上級がきやがった!?このタイミングでそれはさすがにっ、

「ショボぃッ──て、え?気功だと?」

 拳法とかで有名な?あれを使えるようになったのか?いや多分本場のそれとは微妙には違うんだろが…いやいや、これはこれでどんな性能か気になるぞ?

 でもステータスで閲覧する暇は、ない!

 なので俺は迷わず発動、してみれば【爆息】と【心撃】が寸分違わず重なり合う感覚があった。

 出力が上がった?と信じて俺は斬りかかった!が、しかし! 


 ──キシィィィイんッ!


『なめるなと言っておりゃぁっ!』

「ぐあ…っ!…って、ぅおい!合成システムこの野郎弾き返されたぞ──って、あ…また来たわ」

 ──カチリ。

『【気功撃】と【ポンプ】が呼応。スキル合成が可能です。合成しますか?』

 よし!

 …いやでも、今度こそいいスキルになるんだろうな?とか思っていると、

 
(……っ!え…!?今頃お前…っ)


 俺を見捨ててずっと沈黙していた『英断者』が今頃になって起動した。
 『いいから合成しとけよ』って感じを出してる…なんなのコイツ。

(まあ従うけどもっ)

『希少スキル【怪気血功】を取得しました。』

 おお!希少スキル!そして強そうな名前!どんな性能になったかそれはもう気になる!

 けど、それを閲覧する暇は相変わらず、ない!という訳で迷わず発動!

 すると先程の【気功撃】を【ポンプ】による人外血流が猛烈に押し出すような感覚が──この勢いは…よし!

 期待出来る!絶対威力も上がってる!信じて俺は斬りかかる!

 
 ──ギィッッ!


『くぉぉおおおお……』
「ぐううううううう」
 


 ──ギャリギャリギャリギャリ…




 ──キ ィン!

『ハァハァ…数百年、、げほっ、早いわぁぁあ!』

「…くっ!言えるセリフかっ!肺もねぇくせ息切れしてるてめぇが!」

『ぬ…っ、このっ、オヌシぁぁあ!』

「うるせえ!そしてダセぇんだよてめえは根本的にっ!」

『ださ…とはなんやぇっ!?分かる言葉で言えぃっ!』

「ええ?いや、『ダセぇ』ってのは…えっとその、『いとすさまじ』って意味だ!存在自体が興ざめなんだお前は!だから、さっさと滅びとけっ!」

『ぬうううう、結局の愚弄かやぇっ!もう殺すっ!もういらん!貴様はここで死ねぇぃぁッ!』

 舌戦では俺の勝ちか?意外と煽り耐性なかったな。

 ただ…技の打ち合いの方は拮抗こそしたが、また弾かれてしまった。

 まあこちらも弾いたからプラマイゼロ。ダメージを負わなかったから良かったが。

 …その分、負荷が少なくスキル合成もなしか。
 
 そして、じり貧なのは相変わらずだ。

 阿修羅丸との激戦が尾を引いる。MPが尽きかけているのだ。

 魔攻スキルは()()()()使っていない。

 どうせ効かない上に進化した影響でMP消費が必要なスキルに、つまりはアクティブスキル化してしまったからだ。

 それが三つも重複すのだから、そのMP消費はかなり割り高となってしまった。

 それに対し【心撃】は心の力を使う分、MP消費が少なめだ。だから戦えているのだが、それもこのまま拮抗した状態が続けば分からない。

 復活したばかりの『鬼』がどれ程の余力を残しているかどうかだが…俺の方は限界が近い。

 連戦の疲れがあるのは勿論だが、それに『心の力』なんて使い慣れないエネルギーを捻出してるからか、思いの外消耗が激しい…なんて分析していた、その時だ。

 さすがは『心に突け入るスペシャリスト(※あくまでも悪口)』と言うべきだろう。俺のこんなささやかな弱気すら逃さず察知したのか、勝負に出てきやがった。


『きィイいいいいいいええぇぇぇいッ!』


 ──パリィィィイぃいいィイン──
 

 奇声を合図に割れる景色。まるでガラスのように脆く。

 ダンジョンの内部だった景色が粉々になって消え失せる。

 そして目の前に広がったのは、真の闇。

 いや、俺と『鬼』の姿は見えている。

 なのに天も地も壁も見えない。

 そこは、


 俺達以外の何もかもが黒と化した世界だった。



=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)


MP 240/7660↓danger!


《基礎魔力》

攻(M)470 
防(F)91 
知(S)171 
精(G)23 
速(神)566 
技(神)422 
運   10

《スキル》

【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV2】【機械操作LV3】【語学力LV2】【大解析LV5】

【剛斬魔攻LV1】【貫通魔攻LV1】【重撃魔攻LV2】【直撃魔攻LV2】
【怪気血攻LV1】new!

【韋駄天LV8】【魔力分身LV4】

【螺旋LV1】【震脚LV1】【チャージLV1】【爆息LV1】【ポンプLV1】【超剛筋LV1】

【痛覚大耐性LV1】【負荷耐性LV8】【疲労耐性LV8】【精神大耐性LV1】

【魔食耐性LV7】【強免疫LV7】【強排泄LV7】【強臓LV7】【強血LV7】【強骨LV5】

【平行感覚LV2】【視野拡張LV2】

《称号》

『魔神の器』『英断者』『最速者』『突破者』『武芸者』『神知者』『強敵』『グルメモンスター』

《装備》

『鬼怒守家の木刀・太刀型』
『鬼怒守家の木刀・脇差型』

《重要アイテム》

『ムカデの脚』

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しおり