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第3話 高大連携と入試用の作文添削

「ねぇねぇ、通信制の西脇わたげって子知ってる?」
「めっちゃいい子なんでしょ?」
「そうなんだよ!」

双川産業高校の全日制男子の間では、私のことがちょっとした噂になっていた。2日目くらいには私を無視した全日制の女の子ふたりは高大連携に来なくなっていて、やっぱり縁がなかったのだろうなと思う。

あいも変わらずレポートは満足のいく出来であり点数だったが、唯一1点減点されたレポートがあった。なのでバスの中でレポート何点だったか聞いてきた全日制男子に理由を問うてみることにした。

「ねぇねぇ、なんでこのレポート満点じゃないと思う?」
「そりゃ決まってるだろ、敬語が使えてないんだよ」
男の発言に私は仰天する。
「だから、尊敬語と謙譲語がごっちゃになってるんだよ、君のレポートは。私がおっしゃったってなんなんだよ」
と男は爆笑し始めた。通信制である私の無知を感じて、恥ずかしい。
「私、通信制で何もかもわかんないから、また教えて?」
と私がいうと、彼は少しドヤ顔を見せつつ
「名前を言った方がいいよね。俺は広浜裕貴。よろしく」
と自己紹介した。
「ふーん、広浜くんね。私は西脇わたげ。よろしく」
「もう友だちだから、わたげって呼び捨てで呼んでもいいよね?よろしく、わたげ」
「!?」 異性の友人に呼び捨てで呼ぶ文化なのか、全日制というのは。私は中学時代に苗字プラス君付けで呼ぶのが当たり前だったから違いに戸惑うわ……

なんて全日制男子の広浜くんとの会話を楽しみながら、大学の単位をS判定で修得し、高大連携は幕を閉じた。



その後は入試のための書類を書かなければいけない。というわけで、自分の書いてきた大学の経営学科に提出する作文添削を野口に8月中旬頃にお願いしたのだった。
「さて、わたげさんは相当に大学の教授からは受けがよかったようだな」
と野口はレポートを見ながら私を褒めた。
「そうなんですか、ありがとうございます」
というと、
「だが、なーんだこの作文の世間知らずさは。書き出しは『貴校』ではなく『貴学』だ。貴校は専門学校。貴学は大学。それくらい常識だぞ」
頼むから私に常識を求めないでくれ。 「あとな、作文では『お金』と言わずに『金銭』と言え。お金ってなんだ、子どもかよ」
と大威張りで国語教員のプライドを押し付けた野口。Fラン大学なんだから、そこは突っ込むところじゃないと思います、先生。
「そこはどうでもいいじゃないですか?」
「どうでもよくねぇんだよ。そこは俺の言うことを聞いてちゃんと従え」
うーん、自分をよく見せようとするのはいかがなものか。
「こっちの方がいいだろ」
と野口は全面的に私の作文を書き換えていく。当初書いていた美術学部の勉強ができると本音を伝える志望動機は、ほぼ消えていた。また、NHK簿記講座が見られるといった適当に付け足した内容はなぜか残っていて。
「これ、意味ないですよね……」
と私が呟くも
「いーや、意味ある」
と野口は譲らなかった。正直、教員ガチャはハズレを引いてしまったかもしれない。 納得のいかない内容で、作文が完成してしまった。


これは3割免除コースだなぁ……。と家に帰るなり絶望。母に不満をぶちまけた。
「こんなの言う意味ないじゃん。私の作文じゃないじゃん。カッコつけた作文じゃん!」
「お母さんもそう思うな。ひどいよね」
「なんで担任が野口先生になったかなぁ……」
涙目で私は母を見つめる。母親は、優しい声で、こう述べた。
「担任が野口先生になったことには意味があるんだよ。諦めずに頑張ろう?お母さんも頑張るから」
意味がある……か。本当にそうなのかな。
「最後にそう思えるように頑張ってみるよ」
「その意気だよ、わたげ。人生なんとかなるから」

9月からは面接練習がある。また地獄の日々が始まるんだよな。でも、意味があると思えるように、最後に笑えるように。そのために頑張ろう。私はリラックスタイム、と称して片耳にイヤホンを付けた。

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