41.豪雨でも前へ
大雨で荒れたデツカイ川をさかのぼる。
巨大ロボットでもキツいね。
でも、私たちの訓練に雨天延期はないよ。
こういう時の災害こそ、私たちが備えるべきことだから。
やれるかやれないかじゃない。
やるんだ!
それでも前を歩くディメンションのペース、遅くなってる。
あっちの歩みもキツそう。
これからもうひとつ、しゃがんで橋をくぐるの。
弟のみつきが操るその姿は、身長50メートルまで拡大したゾウにそっくり。
背中にウイークエンダーのスカートと同じものを6枚、付けたのをのぞけばね。
目立つから雨でも見失わないのは、助かった。
ハテノ市に似てるね。
左を見れば住宅地。
田んぼや畑と郊外の大型店がまじってる。
右は人口密度0そうな林。
杉の木々の端、川辺に道路がのびて、橋からのびる道に合流する。だけに見えるけど。
山から下りてくるよ。ハンターキラーの大群が。
この山の中をくりぬいて、朱墨ちゃんが率いるホクシン・フォクシスは基地を作ったの。
「ほら、山の上。
パーフェクト朱墨がいるよ」
「あっ! ほんとだ! 」
見まもっている。
白い、グロス感さえ持つ左右3対の羽根。
背中、肩、腰を完全に包んでる姿は、ドレスっぽささえある。
イメチェンしてるね。
鋭さをもつドラゴン型の姿はそのままだけど、赤い“血のような”と恐れられそうな塗装は塗り替えられてる。
鮮やかな青。
朱墨ちゃんの好きな色なら、そうなんだろう。
でも、もしかしたら私がそう想ってるからだけかもしれないけど・・・・・・。
この大雨の中だとくすんで見える。
これからの運命に青ざめているように。
車列は山から下りると、私たちのくぐった橋をわたっていく。
「はーちゃん、右の山から下りてくる車たちについて教えて」
安菜が聴いた。
おっと、それは長くなるぞ。
「長くなりそうですが、よろしいですか?」
はーちゃんも同じこと考えてたのか。
私はかまわないよ。
「そう?
はーちゃん、はい。
私たちが会話しても、そのままつづけてね」
「わかりました。
指定された車はすべて、宇宙から送られたロボットです。
先頭にいるキツネ型は北辰(ホクシン)。
この百万山地域を守護する、ホクシン・フォクシスの主力機です」
白くすばやい、たよれる仲間は路面を走るとき6輪のタイヤ形態になる。
前足のつけね、肩や腰の横にタイヤがあるの。
百万山の頂上ちかくで一緒に戦ったとき、北辰たちは17メートルあった。
今はしっぽをたたんで首や胴体の間接を縮めてる。
長さが12メートルほどになってる。
大型トラックと同じくらい。
「あの車たち、上品に手足をたたんでるね」
さすが安菜。
移動のための変形を、上品にとは。
3台がわたる。
次に、茶色いライオン型。
「ライオン型は、飛輪(ひりん)。
ホクシンよりもパワーを重視しています」
次は赤いゴリラ頭。
ヒリンよりもでっかい。
「ゴリラ型は、赤星(アカホシ)。
建物の建設なども行える工作車です」
はーちゃんて良い声だよね。
「大人の声、イバらない、イアツカンがない。
良いことづくめだよね。
どれだけでも聴いていられるって言うか」
たしかに、安菜の好みだったね。
動画の声優にほしいね。
次は、付きだした黄色い巨大なアゴ。
肉食恐竜のもいるよ。
全長は20メートル。
「ティラノサウルス型は、填星(テンセイ)。
パワーでは最大でしょう」
緑色のウシ。
角が大きくて、背中から2門の大口径砲をのせてる。
「ウシ型は、雲漢(ウンカン)です。
光よりも早く飛ぶタキオンを放つタキオンブラスターガンと、プラズマと質量弾を併用するマルチキャノンをあわせ持ちます」
長い説明に、へばらない。
これが安菜の良いところ。
青い恐竜、トリケラトプス型が通った。
首の後ろに巨大なフリルが広がり、おでこから2本のドリル、鼻先から1本の大砲を付きだす。
「トリケラトプス型は、流星(リュウセイ)。
首回りのフリルはビームシールドで、部隊ごと守ります」
まだまだ車は下りてくるけど。
ねえ、うさぎ。と呼ばれた。
「あんなロボットを地球で作ろうとしても、無理なんだってね」
おや、安菜の声が真剣な、いらだちをおびている?
「そうだよ。
どれもリパルサードライブ、重力制御で転ばない。
ここは日本でも数少ない宇宙製ロボットの整備工場でもあるから」
その時に、通信がきたの。
『ディメンション・フルムーン。
これより離陸して演習エリアに入ります』
ほら、ディメンションが。
ウイークエンダーの何倍もの風で川の水を巻き上げ、浮かんだ。
装甲にはばまれて音は聞こえないけど、風にあおられてグラグラする。
さて、つぎは私だね。
しばらく話しかけないでね。
「あいよ」
「はい」
再び、翼でもあるスカートを手で支える。
スリットから風が飛びだして私たちを浮かべる。
ディメンションを追いかけるんだ。
足の下は川から雑木林に変わる。
木々がビュンビュン風にあおられていく。