二周目チートの落とし穴。
『最速者』の称号。
これは『一日に一回だけ、最高速度の二倍を叩き出せる』という称号だ。
そう、
それは、
だから、まだMPを備えていない俺でも使える。なんだそのご都合って思う人もいるかもだが、今の世界って殆んどゲーム仕様なんだし今更だろ?
それに『称号』というものはそもそも、スキルみたく自身の魔力を由来としない。あくまでシステムから借り受ける形だ。
ほら謎の声も『──なお、より早く突入する者が10人以上現れた場合、この称号はその上位者へと移譲されることになりますので悪しからず───』とか言ってたろ?
つまり称号ってのは、所詮の借り物だからこそ、自前の魔力を必要としないという便利さがある。
まあ例外もあるらしいが、『最速者』のような
つまり《器礎魔力》すらなくし、魔力が正真正銘のカラッケツとなった今の俺にはおあつらえ向きで──
ドンッ!
大袈裟な踏み込み音でチートブーストをお知らせした今の俺は、『速』魔力値70による全速力を再現していて──否!
【韋駄天】という『速度を常時1.3倍にする』パッシブスキルの恩恵を受けた状態を再現してる!つまり『速』魔力はほぼ100に相当し──否!
この『最速者』の称号はそれら込みで2倍に再現するのだからえっと……ええ!?
『速』魔力値200!?
には届かないけども!
「サンキューチート!」
彼我の距離を確認するため後方をチラ見…という舐めプ走行でも余裕があるくらい…
「 ──て、あれ? 」
なんだおい!?
むしろ近付いてないか!?
「ヤ…バっ、もしかして舐め過ぎたか?」
…ってうわ!ヤバいヤバいヤバいホントにヤバい!なんなんだコイツすごい追い付いてくるじゃないかっ!…あ、
「まさか──」
──この不自然な加速…『加速系』アクティブスキルでも持ってたりした?
前世ではデカくなりすぎた身体が邪魔で使えなかったとか?
確かに。あそこまで成長していたら、こんな限られた空間では使いづらかったはずで…だからスキルを封印していたと。なるほど、まさかそんな裏設定があったとは──
「──じゃ、ないからな!っんな裏事情まで見抜けるかよ馬鹿やろおおおッ!!?」
え?『何故、前もって【大解析】で確認しとかなかったんだ』って?
だって。ボスは【魔力視】持ってるから『解析系スキル』なんて直ぐ感知されちゃうし。
そんな危険冒すくらいなら二周目知識で補えばいいや…って。
はい。これは二周目知識チートを過信した結果ですが何か?
「ギシャアアアアアアアアッ!!」
「はぃすまっせんんんん!」
ぅああ、ムカデの旦那おかんむりやぁ…
「あのバカとか言ってすみま──いや、さっきのは良い意味のバカなので!一途な人に使う感じの!」
旦那ならきっと成れるぜ海賊王にっ!…ってダメ?
「じゃあムシ○ングは──」
「ギシャアアアアアアアアッ!!」
「ダメか!」
つかこいつ!階段の中まで追ってくるとかどうなってんだ!前世じゃ階段はセーフエリアだったはず──
「って、まさか。」
本気でマズッた。階段が安全地帯ってのは、俺の勝手な思い込みだったのだ。
だってここはボス部屋のみのダンジョン。なので通常ならあるはずのボス部屋の扉がない事を気にしていなかったが…逆に言えばそんな境界がないなら、階段もボス部屋の一部だったとして…
「んー!おかしくないっ!」
前世で階段から向こうまでは追ってこれなかったのはきっと、デカくなり過ぎて通れなかっただけ。でもサイズが縮小された今のコイツならそんな不具合も…
「解消されてるみたいだな──って…ちくしょおおおお!」
つまりこのダンジョンから完全に脱出する以外に、コイツから逃げ切る方法は、ない!…ってのに。おいおいそれ、その頭の高さ…何の準備を──まさかっ、
「おいおいおいいい!?まさか、ここでやるのか!!?」
こんな狭い階段で──っつか、『小さくなった』は全く安心材料じゃなかった。むしろ悉くこちらの想定を覆す原因となっていて──
「(く、刺してやりたい。合掌しながらお辞儀までした過去の自分を)なんて思ってる場合じゃ──うおおおお!だからそれやめろおおおお!」
中ボス扱いだったのに結局雑魚だった悪役の断末魔さながらの懇願も虚しく、
きた!毒の酸!
高速移動中で自らも浴びる事になるも厭わず──見ればあの猛酸性は健在の模様、だってあの無敵甲殻がジュウジュウいってるし──って、マジヤバい!その吐き出した何割かが空気抵抗を突き破って──俺に向かって──これ絶対に避けなきゃ死ぬ──けどここは狭い──避けられな──
「どわあっ!?」
この土壇場で余計なハプニングがさらに発生…いやなんせ『最速者』の称号が上げてくれたのは『速』魔力だけだからな。
だから『知』魔力と『速』魔力の相乗効果は既に解消されている。
なので動体視力にかかっていた補正も失くしている。『技』魔力による走行補助もだ。失くしてる。
つまり、運動不足な俺が出来る不恰好な全力疾走を、『速』魔力で無理矢理ブーストしてるだけ。
しかもここは階段で登り。だから平地を走るより遅くなるのは当然。
その一方で 敵であるあの巨大ムカデは通れなかったはずのそこを、しかも階段という地形効果を完全に無視して宙空を這って──その上、加速系スキルまで発動するとか──いやいやいやいや…ここまでの不利はさすがに想定してなかったぞ。そりゃ追い付かれるって。そうなれば俺だって人間だからな。
もんっのすごく、、焦った!そんなに焦ったら足だって
「ぬわあああああああああああああああああああ!」
この土壇場で転んだら…嗚呼…また、溶かされるのか。あの、猛烈な毒と酸に──
(あれやられると痛いし熱いし気持ち悪いんだよなぁ…)
俺は──
(…………大家さん…)
「──ああああぁぁぁ…ってあれ?」
後ろを振り返れば触角をグニャグニャ動かしまくってイラつきを表しながら、酸で火傷した頭部を、ダンジョンと外界との境界に何度もぶつける巨大ムカデがいた。
その顎から吹かれたはずの毒の酸もだ。境界に阻まれ空中で白煙を上げている。
という事は…間に合った?逃げきったのか?転んで逆に良かった感じか!?ナイスハプニング!ナイス俺の悪運!
とにかく。
俺は賭けに、勝ったのだ。
「じゃ、これ…約束通りもらってくから。」
そう言って掲げた手には、アイテムとして有効認定された『百足の脚』がある。それを改めて見た俺は、目的達成を実感するのだった。
そう、俺はまんまとやり遂げた。
でも目的を果たして満足したからか、悔しそうに俺を睨む巨大ムカデを罵倒したりおちょくったりする気にはなれなかった。
それは、まだこの身を油断で満たす訳にはいかない。そう思ったからだ。
そうだ。収穫は成ったが、まだ終わりじゃない。遠足とは何ぞや理論。ここからアパートに帰り着くまでそれが適用される。
そうだ。器礎魔力で強化されていた能力値を一時とはいえ失くしたこの身体で帰らなければいけない。モンスターが徘徊する中を突っ切って。油断なんて出来る訳がなかった。
そんな悲壮な決意を固めた俺を見て何故か、巨大ムカデは怒りをおさめた。そしてそのままじっと見つめて…ん?
なんだ?今、何を心に刻んだ?何というか満足そうに?ゆっくりと身を捻ってそのまま巣穴へ帰っ──う。なんだこの悪寒。
「なんか…嫌な認定された気がする…」
そしてその悪寒ないし予感は早速、的中するのであった。
《
「ああ、この称号なら聞いたことがある…って、いや待てまて待て!もしかして…!!」
と急いでステータスを確認してみれば、嗚呼やっぱり。
「ぐ、ここにきてこれは、やめて欲しかったぞ…っ!」
『強敵』…その称号の内容はこう。
『強敵を寄せ付ける。発見されれば強敵と認定され執着される。つまりはレアモンスター全般と縁を結べる。』
「だから!今の俺は丸裸なんだがステータス的に!?そこでこんなの…マジか…鬼かょ…ハァ」
嘆いてもしょうがない。称号は有効なものもあれば理不尽なものもある。狙って得られるものもあれば不意打ち気味に刻まれるものもある。それを忘れて油断した俺の失態…そう思うしかない。
「ハァ…も、いいわ。帰ろ。」
色々と諦めた俺はトボトボと…そしてビクビクとしながら、魂が擦りきれるほどの用心の上に魂が刷り潰れるほどの用心を重ねながら、家路を急いだのであった。
…そしてこんな時でさえ。不謹慎にもワクワクしてたりしてもまあ、しょうがないよな?だって、遂に完成するのだから。
=========ステータス=========
名前 平均次
防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10
《スキル》
【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】【魔力分身】
《称号》
『英断者』『最速者』『武芸者』『強敵』new!
《装備品》
『今は無銘の小太刀』
《重要アイテム》
『ムカデの脚』new!
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