214 とある公宮の一室で
クルール地方内、西のサライの先にある、メロ共和国。
キャラバンの村からは少し遠く、また、アクス王国からは比較的近い位置関係にある。
広大なメロの国の土地は、全体的に緑豊かで、平坦な平地エリアと、山々が連なる山岳エリアとで、大きく2つに分かれていた。
平坦な土地では農業をし、また、山からは、鉱山の村のような鉄鉱石が採れ、国の産業を支えている。
共和国といわれるだけあって、メロの国に君主・王家といった存在はなく、国民から選出された複数の公爵が国内の理事を勤めていた。
公爵達は、日夜となく国のために公務にあたるため、メロの国の中心地に、公宮と呼ばれる自宅を構えていた。
その中の一つ、とある公宮。
門の先には、緑色の庭園が広がっていて、白とシアンのコントラストが美しい花が咲き乱れ、庭に彩りを与えている。
そして、アーチ状の大きな茶色い扉に、白を基調とした、清潔感のある、宮殿のような丸屋根が乗った建物が建っている。
まさに豪邸そのものだった。
そんな公宮の門の前に、ウテナは立っていた。
「……」
前に、キャラバンの村のケント商隊と共行したときにしていた長い髪の毛は、短くなっていた。
ケント商隊との交易を終えた後、思いきってバッサリと切った。
すると、思いもよらず、周りからは、少し女性らしくなったと言われるようになった。
……そんなつもりで、切ったわけじゃないのだけれど。
ウテナの散髪の意味を知っているのは、フィオナとルナの2人だけだった。
――カチャッ。
「!」
アーチ状の扉が開いて、白装束姿の召し使いが出てきた。
「ルナは!?」
「はい。ただいま、お嬢さまの意識は戻られました」
「あぁ、よかった……」
ウテナは安堵した。
「少しなら、面会も可能です」
召し使いに促され、ウテナは公宮内に入った。
屋内の天井は高く、外から見えていた丸屋根の内側は、緑や赤や紫色が鮮やかなステンドグラスとなっていた。
また、所々に鮮やかな模様のあるお皿が飾られていたり、壁には色彩豊かな絵画が立て掛けてあったりしていた。
しかし、いまのウテナはそんな周りの光景はまったく気にならず、らせん階段を上がり、一目散にとある部屋へと向かった。
その部屋の扉は、すでに開いていた。
「ルナ!」
部屋に入ったウテナの目線の先には、兄や妹など数人と、召し使い、また、医者に見守られながら、寝台の上で身を起こしたルナの姿があった。
「あっ、ウテナ」
「大丈夫なの!?」
「えへへ、また、失敗しちゃった……」
ルナは、恥ずかしそうに、また、少し申し訳なさそうな感じで、ウテナに言った。
ウテナがルナと合うのは約10日ぶりで、マナを取り込む準備ということで、ルナは一時期、交易を離れていた。
そして、今朝、ウテナが交易から帰還してすぐ、知り合いからルナが意識不明の状態と聞かされ、ルナの家、すなわち公宮へと飛んできたのだった。