188 岩石の村
「ええと……門は、あっちか」
ケントが指差す方向へ、大理石の壁づたいに商隊は進んだ。
「これ、村っていう規模じゃねえな」
「すごいね。まるで巨大なサライみたいな感じ」
「おっ、それ、いい例え」
ラクトとミトが、壁を見上げながら楽しそうに言い合っている。
頭上の遥か上、まるで城壁のように、壁はそびえ立っている。
やがて、村へと入るための大きな門の前に着いた。
「名乗りたまえ!」
門番が壁の上に立っていて、大声で言った。
「キャラバンの村の、ケント商隊だ!鉱山の村からの、青結晶ラピスの運搬依頼で来た!」
「それでは、ラピスを見せたまえ!」
ケントが振り向き、ラクトとマナトに目配せした。
「お、おい!ちゃんと持てよ?落とすなよ?ぜったい……」
「いやだから、ラクト、それ、ダメだって!」
そんなことを言いつつ、ラクダから、丁寧に木箱を降ろす。
そして、ゆっくりと木箱のフタを開けた。青々と輝くラピスが入っている。
「ありがとう!少し待っていたまえ!今、開けよう!」
――ギィィィ。
大きな門が、ゆっくり開かれる。
「さっきのやり取りといい、まるで王国だな」
「だね~」
門をくぐりながら、ラクトとミトがつぶやいた。
門を出た先に山が2つ、その谷間になるような形で、緩やかな舗装された登り坂道が、草原とともに目の前に広がっていた。
「ケントさんは、この村に来たことはあるんですか?」
坂道を進みながら、マナトはケントに聞いた。
「ああ。でも、かなり前だけどな。目の前の両側に見える山、あれが、採石場となっているんだ」
「大理石とかのって、ことですね」
「そうだ。ここは、要は大規模な採石場で、オベリスクをつくっているのも、この村だ」
「あっ!あのアクス王国の象徴のですか」
「そうだ。だけど……」
ケントはそう言うと、後ろ振り向き、大きな門と大理石の壁を見た。
「こんな壁、たしか、前来た時はなかったハズなんだがな」
やがて、道が平坦になる。
「あっ、村が見えてきたぜ」
少し先、道沿いに、規則正しく建物が並んでいるのが見えた。
主に石造りの、白や灰色を基調とした白い建物。どれも、住居とアトリエを組み合わせたような、そんな印象の少し広めの、増築感のある家だ。
それとともに、なにか、建物とは別の、白い立体物も、所々に見えてきた。
「おぉ!彫刻じゃん」
至る所に、彫刻が置かれている。
人の形を模したもの、動物の形を模したもの、羽の生えた天使像など、種類は様々で、中には製作途中で投げ出されたのか、地面に転がっているものまである。
「……おっ?これって……」
道を進んでいる途中にあった、とある彫刻のひとつを見て、マナトは足を止めた。
「すみません!ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
マナトの声に、商隊が止まる。
彫刻の前でマナトが立ち止まっているのを見て、ミトがマナトのもとへと駆け寄った。
「どうしたの?」
「いや、これ……」
マナトが、目の前の彫刻を凝視しながら、言った。
「十の生命の扉の、彫刻だと思って」