最終話 海辺の小さな教会で……
今日は快晴で、心地良い潮風が吹いている。
あの戦いから8年が経過した。
俺は今、海辺の小さな教会に立っている。
この教会は小高い丘になっているので、最高の景色が楽しめると人気になっているらしい。
俺の隣にはかつて少女だった……ハカセがいる。
不老不死は完全に治療され、肉体年齢も20歳を超えた。
相変わらず細身だが、身長も俺とほぼ同じ高さまで伸びた。
あどけなさが残っていた顔はすっかり大人の女性のものとなり、むしろ絶世の美女といえるほどだ。
今日はいつもの白衣姿ではなく、純白の美しいドレスに身を包んでいる。
そう……今日は俺達の結婚式だ。
まだ時間があるし、列席者を確認してみようと思う。
現在5人いるようだ。
最前列に座っているのはカトー氏だ。
今は『加藤祥太朗』と名乗っており、あの戦いを最後に兵士としては活動していない。
現在は格闘技のジムを経営している。
不老不死は完全に治療しており、俺と一緒に遊び回ってはハカセに睨まれている。
その後に座っているのはナカマツ氏とエディ氏だ。
ナカマツ氏は『中松英世』と名乗っている。コードネームに有名な細菌学者の名前を付けたらしい。
医者は引退しているが、時々俺たちの健康診断をやってくれる。
不老不死の治療は行っていないが、それは俺達の結婚式を見るまでは死ねないという思いからだったようだ。
エディ氏は『黒井虎太』と名乗っている。命名の理由はよく分からない。
不老不死は完全に治療しており、方向音痴を克服するために全国を旅しているらしい。
ここまで辿り着けたことから、多少は克服できているのかもしれない。
最後尾というか、入り口の側にはボス氏が座っている。
現在は『田中和夫』という日本全国にすごくいそうな名前を名乗っており、貧困家庭を救うための活動をしている。
不老不死の治療を始めるのは遅かったが、最近になって治療を完全に終了したようだ。
治療の結果……残念ながら、髪の毛は全滅している。
ボス氏の隣には、車椅子の女性がいる。
この女性、なんとボス氏の再婚相手なのだ。
名は『冴子』さんと言って、とても明るく優しい女性だ。
冴子さんは2人の子供を持つシングルマザーだったので、再婚と同時にボス氏は2児の父となった。
ボス氏が治療を始めたのは、彼女との出会いによる影響が大きいのだそうだ。
冴子さんは俺達が宇宙人だということを知っており、受け入れてくれている稀有な人物である。
最後に俺とハカセについても話しておこう。
ハカセは『一ノ瀬博美』と名乗っており、日本の学校に通っていたが、飛び級で今年から教授となった。
彼女が物理学者となったことで、地球の科学力は大幅に向上するに違いない。
3年前に俺達は正式に婚約し、この日を迎えることができた。
不老不死の治療は我々の中では一番早く完了している。
俺、イチローは現在『佐藤一郎』を名乗っている。
ハカセ……いや、博美の助手として大学で一緒に物理の研究をしている。
不老不死の治療は5年間の約束で停止していたが、少し延長して今年から少しずつ再開している。
8年前に3発の銃弾を受けて重傷となったが、完全に回復している。
皆の顔を見ていると、共同生活をしていた頃が懐かしく思える。
思い返してみると、バカなことばかりやっていたような気がする。
8年前の戦いとその後についても振り返ってみようと思う。
カトー氏とエディ氏が戦艦の機関室に大量の爆弾を仕掛け、爆破に成功した。
地球からも爆発がハッキリと確認できる状況だったので、一体何が起きたのかと議論が続いたようだが【ノクトリア】からの連絡が途絶えたこともあり、事故で勝手に自滅したと結論付けられたようだ。
捕虜になっていた方々は俺達の船で保護した後、全員の記憶を消して地球に転送した。
記憶を消す方法は……かつて、コーラ工場の責任者の記憶をハカセが消した際に使った機械だ。
あの機械をまさか再び使う日が来るとは思わなかったよ。
その後、俺達は日本人として生きるために新たな名前を考えることにした。
今まで使っていたコードネームは目的を達成したことにより、お役御免となった。
まあ、今でもあだ名として使っているんだけど。
名前を決めたあとにやったことは……大きな声では言えないのだが戸籍の偽造だ。
全員が海外育ちの日本人という設定で戸籍を偽造した。
そのあたりの方法はよく分からないのだが、ハカセがなにやら(多分ハッキング)上手いことやったようだ。
当面の生活費も必要だということで資金も用意した。
地球には仮想通貨なるものがあったのだが、強力なコンピュータを使うとお金儲けができるんだとか。
元々、宇宙船のコンピュータを使って荒稼ぎしていたものがあったので、それを7人で均等に配分した。
1人あたり、大体10億円くらいだ。
そんな感じで各自バラバラに自立した生活を送るようになり、完全に日本の社会に溶け込んで生活している。
――
昔のことを色々思い出していると、教会の鐘が鳴り、神父さんがやってきた。
「佐藤さん、一ノ瀬さん、そろそろ始めましょうか」
神父さんが笑顔でそう告げたとき、教会のドアが勢いよく開いた。
「ごめ~ん、遅くなっちった……。バスに間違えて乗っちゃってさ~、仕方ないから全力で走ってきたぜ」
その姿を見て博美が抱きつく。
「おいおい、泣き虫は相変わらずだな……せっかくの化粧が台無しになっちまうぞ」
「だって、だって……来ないかと思った……」
「かわいい妹の結婚式をずっと楽しみにしていたんだぜ。行くに決まってるじゃん。結婚おめでとう!」
そう、この人を忘れてはいけない。もちろんサクラ氏だ。
サクラ氏は現在『紗倉絵麻』を名乗っている。あの戦いの際、適当に名乗った名前(コードネーム+本名)が気に入ってそのまま使っているとのこと。
あの戦いで心肺停止になる重傷を負うが、奇跡的に一命を取り留めた。
女優を目指していたが、大食いであることや言動の支離滅裂さが受けて、今はバラエティタレントとして活躍している。
そういえば、この間バラエティ番組で『朗らかクソ女』とかいう絶妙なあだ名を付けられて話題になっていたな。
カトー氏とは付き合ったり、別れたりを何度も繰り返しており、確か今は……別れ中だったはず……。
ビール大好きの酒豪なので、当然のことながら不老不死の治療は完了している。
――
結婚式が始まった。
新婦入場のバージンロードはボス氏が父親代わりを務めることに。
ボス氏の娘さんは博美と同じ歳だったこともあり、感極まって途中から号泣していた。
サクラ氏はそれを見て『悪人顔のくせに』とからかったが、冴子さんに睨まれてさすがのサクラ氏も静かになった。
指輪の交換をして、俺は彼女にキスをした。
そして、俺達は大好きな仲間に祝福されて夫婦となった。
教会を出ると青い海が広がっている光景が飛び込んできた。
新たな門出に相応しい、美しい景色に酔いしれる。
今日は快晴で、心地良い潮風が吹いている。
こんな日はやっぱりコーラに限るぜ!
「え?何でそうなるのよ……」
ハカセが呆れ顔で呟いた。
はじけろ!コーラ星人 完。