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第五話 訪問


 学校は、いろいろあって休みになっている。マスコミが殺到していて授業にならないというのが主な理由だ。

 学校からの通達が、ユウキには遅れた。休校になる当日になって届いた。吉田教諭が、ユウキに連絡をしたことがきっかけだ。
 ユウキはクラスから浮いた存在だ。クラスでは、ユウキは”いじめ”られているようだ。本人は、気にしていないのが、余計に周りから憎々しく思えてしまっている。
 ユウキは、元々の性格から飄々としていると見られている。そして姿かたちや性格に大きな欠陥があれば良いのだが、顔は平均以上で、身長は低いが低すぎない。体型も、筋肉質というほどではないが、バランスは取れている。成績は、上位に位置している。実習は、教諭たちが苦々しく思えるほどで、ユウキに低い点数を付ければ、他の生徒に点数を与えられない。他の生徒の成績を操作しても、ユウキの成績を平均以下にはできない。
 運動は、しっかりとした計測を行えば、オリンピックに出場できる記録くらいなら簡単に出せる。
 武術系の授業でも、”いじめ”を主動している男子の呼びかけで、ユウキに襲い掛かっても。簡単に対処されてしまっている。

 ユウキは、クラスで孤立しているように見えるが、事情を知らない一部の女子からの支持を得ていた。一部の女子から支持されている事実が、余計に男子からの怨嗟に繋がっている。悪循環の輪が広がっていく・・・。
 ユウキがバイク通学の許可を得ていることも、男子からの怨嗟に繋がった。バイクを置いてある場所には、ユウキが自費で監視カメラを設置して、有名なセキュリティ会社と契約を結んでいる。その為に、バイクに細工をしようとして、触ったらサイレンが鳴り響いて、柔道家のような人たちが駆けつける騒ぎになった。

 タイミングがよいことに、学校が休みになり、そのまま長期の休みに突入した。
 かねてより計画されていた。日本に居るメンバーと一緒に里帰りをして、いろいろな手続きを行う事にした。

 まずは、リチャードとロレッタの故郷であるアメリカのアリゾナ州に向かう。
 ユウキの転移ではなく、しっかりと手続きを行っての出国だ。復讐が目的ではない。報復すべき相手は、既に対処してある。残党が残っているらしいが、以前のような異なる真実を事実だと捻じ曲げるだけの(権力)は持っていない。

 リチャードとロレッタは、手続きを行うために、空港で別れた。
 同じように、ドイツでは、フェルテとサンドラとエリクとアリス。オランダでは、マリウスとヴィルマ。スペインではモデスタとイスベル。皆が、一時的に帰国して手続きを行う。

 ユウキは、付き合う必要はないのだが、律儀に皆に付き合っている。
 そして、フィファーナ(異世界)で死んだ者たちの弔いを行っている。

 ユウキが日本を離れてから、半月が経過した。

「!!」

 ユウキは、日本からの連絡を、オランダで受けた。
 今川や森田からの連絡ではない。

 家の警備を依頼している会社からの連絡だ。

 長期休暇中に、なかなか動かなかった情勢を動かそうとして、打った手がやっと実を結んだ。

「ユウキ?」

 マリウスが、ユウキに話しかけた。
 支援者にポーションを渡した帰りだ。

「バイクが盗まれた」

「盗んだのは?」

「まだ特定はされていない。マリウス。ヴィルマ。俺は、日本に帰る」

「わかった。こちらは、当初の予定通りに、動く。問題が発生したら、ユウキを呼び出せばいいよな?」

「大丈夫だ。空港なら”来ている”から待ち合わせ場所にも丁度いいだろう?」

 ユウキがついてきた副次的な目的は、ユウキが使っているスマホで、各国で写真を撮影することだ。それも、人が居ないような場所で、転移しても目立たない場所を撮影場所として選んでいる。
 写真は、皆と共有している。場所を提供してくれている協力者に筋を通すために、ユウキが足を運んだ。

 協力者には、ギアスを結んでもらっている。
 そのうえで、ユウキが”転移”を使えることも告げている。皆が、驚いたが納得してくれた。そして、ポーションという対価を必要としなかった。言われたのが、”また来い”が報酬になっている。レナートに残っているメンバーと一緒に訪れることを約束した。

 ユウキが日程のキャンセルを行って、実際には、オランダからは一人で行動する予定になっていた。
 レナートに残っているメンバーの母国を訪ねる予定になっていたのだが、その予定は、ヒナとレイヤに引き継がれる。ユウキたちに遅れる形で、日本を出た、ヒナとレイヤは、オランダでマイルスとヴィルマと合流する。その後、ユウキが辿ったのと逆回りで、皆と合流してから、残留組の母国を回って、協力者に挨拶を行う。ユウキの転移ポイントにはならないが、筋を通す形だ。

「わかった。レイヤとヒナは?」

「明日にも中部国際から出る」

「わかった」

 ユウキは、バイクを盗ませるために、海外に出た。
 それも、海外に出た証拠を残す形をわざわざ作り出した。

 最初は、バイクを盗ませる計画は順調に進んでいた。
 学校内でのヘイトも溜まっていたのだが、前田兄妹の件が思っていた以上に、いろいろな所に飛び火した。大きく炎上したのは、報じなかったマスコミ関連と関連した議員だ。偽物ポーションまで出る形となってしまったが、大筋は望んだ方向に動いた。

 しかし、学校側が思っていた以上に臆病な対応を行った。長期休暇の前に学校を休校にしてしまった。

 ユウキは、作戦の練り直しに入った。
 自分たちではなく、第三者にユウキの私物(バイク)が盗まれる証拠を握らせる必要があった。

「ユウキ。それで、バイクは?」

 日本に戻る為の飛行機は確保出来たが、チェックインまでには時間がある。
 ヒナとレイヤとは入れ違いになるのだが、マリウスは残るようだ。ヴィルマは、ユウキの代わりに支援者の所に向かっている。タイミングがあえば、ドイツで別れた4人と合流ができるかもしれない。

「移動中だ」

「動かせないよな?」

「あぁエンジンはスタートしない。スキルでロックしている」

「ははは。すごいな。キーではなく、スキルか?」

「ん?もちろん、直結してもスタートしない。いろいろ試したが、ガソリンタンクを結界で覆ってしまうのが楽だった」

「へぇ・・・。今度、やり方を教えろよ」

「ん?マリウスは、結界は使えないよな?」

「俺は使えないけど、ヴィルマが使える」

「あぁ・・・。簡単な・・・。ん???そうか・・・。ヴィルマに、バイクや車の構造を教えるのは、マリウスがやるよな?」

「ちっ。勘のいい奴は嫌われるぞ」

「ははは。そうだよな。結界よりも、構造を認識して、構築を行わなければならない。その為には構造を理解する必要がある。危ない。危ない。ヴィルマに、構造を教えるのは俺には無理だ。騙される所だった」

 ユウキの言葉に、マリウスは肩を上げて驚いて見せた。お互いの笑い声が重なった。

 時計を見れば、チェックイン時間が迫っている。

「行くな」

「あぁ」

 ユウキが拳をマリウスに見せる。
 マリウスは、ユウキの拳に自分が作った拳を合わせる。

「頼む」

「頼まれた。ユウキ。俺たちの分も残しておけよ。一人で、全部を片づけようとするなよ?」

「それは、約束ができない」

「俺たちにも、彼女の無念を晴らすチャンスをくれよ」

「・・・。そうだな。でも、大丈夫だ。今回のターゲットは、小物の子分の・・・。その子供だ。片翼には違いないが、そこまで落とせるとは思っていない」

「そうか・・・。俺たちが日本に戻るまで、2か月くらいか?」

「・・・。そうだな」

「無理するなとは言わない。俺たちの分も残しておいてくれ」

「わかった。それから、サトシとマイも来たがっていた」

「そっちは、別口だ。俺には、サトシのお守りは無理だ」

「ははは。わかった。マリウス。頼むな」

「あぁ」

 何度目の別れの挨拶を行った。
 すぐに会おうと思えば会える。

 ここは、死が近かったフィファーナではない。
 しかし、それでも別れの挨拶が最後の言葉になってしまう可能性がある。ユウキもマリウスも嫌というほど経験している。大事な関係だからこそ、挨拶もおろそかにできない。そして、会えない時間を大切にするためにも・・・。

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