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テン・ハンドレッド

『残高10万円』
「おや、そうかい」
慇懃無礼な目つきがテーブルを舐める。そしてプラスチック片をひったくる。
『次のお話』
ふうっと紫煙がサーモンピンクに染まる。
「ワンドリンクじゃねえのかよ」
『チッ』
カランと氷が鳴る。
琥珀の深さは小指ほど。
「んじゃ、はじめるよ」

◆第二章 妖怪は死んでいる 朝が来る。
この世界では一日二十四時間。
季節も四季も一巡りする。
春が来て夏になって秋になる。
冬が来たらまた春になる。
その繰り返し。
夜になると月が出る。
そして、太陽も出る。
月が沈めば朝日が昇るのだ。
ここは異世界なのに地球と全く変わらない。
不思議なものだなと思う。
さて。
俺こと『黒江京介』には秘密がある。
俺は人間ではなく……。


妖怪だ。
それも、最強の部類に入る種族だと思っている。
俺の一族は皆、妖怪として最強レベルなのだ。
その中でも、俺は歴代でもトップクラスの才能と力を持ち合わせていると自負している。
まぁ、実際そうなんだけどさ……、『ふわぁ~~~……眠ぃ~~』こんな感じであくびをしながら起きてくる時点で、強さがわかる気がしない? それに……『おはよう、クロエ。今日も良い天気だよ!』と、笑顔で話しかけてくれる、こいつだって俺と同等以上の実力を持っているのに、だ。
『おう。そうか、ありがとう。ん、ところでお前の後ろから抱き着いているのは?』そう。
俺が起きた瞬間から、何故か美少女が俺の布団の中にいた。
俺と同じ金髪の髪をツインテールにして、俺よりも少し幼い顔立ちをした美少女だ。
見た目年齢は13歳くらいだろうか。
…………いや、ほんとはもうちょい年上なんだよなぁ、こいつも。
そういえば紹介がまだだったな。


名前はアリア。
フルネームで『アリア・アスター』という。
俺と同じく妖怪で【吸血鬼】だ。
ただ、俺の種族とは違うが。
アリアの容姿を説明するなら、まず目につくのが頭に生えている大きな二つの犬耳だろう。
狼っぽい耳に、白いフサフサとした尻尾。
身長も140センチほどで小柄だし、何よりとても可愛らしい少女だ。
あと、おっぱい大きい。


しかし、この娘。
実はめちゃくちゃ強いのだ。
それは戦闘面での話だが、身体能力だけなら俺は確実に負けてると断言できるほど、こいつはすごい。
しかも魔法に関しても天才的で、魔力操作もかなりうまいのだ。
俺に教えを請うて来て、それからは毎日修行を頑張っている。
本当に良い子である。
俺の娘かよってぐらい。
それと……あれ?『んぅ~~~。ふふっ、やっぱりここが一番落ち着くなぁ。』おいおい、いつまで抱きついている気なんだ。


俺の胸に顔をスリスリと擦り付けてきて、ちょっと恥ずかしい。
ほっぺたスベスベだなぁ~とか思ってしまうので、早く離れて欲しい。
『あの、ちょっといいかな。俺まだ朝ごはん食べていないから離して欲しいんだけど。』『ダメ!私をほったらかしにした罰だよ!このままでいること!』え~~。
なんでぇ?!俺なにもしてないじゃん!ちょっと昨日の夜遅くまで一緒にゲームしていただけだよ??なんの罪に問うつもりなの、ねぇ! というか、これじゃまるで新婚さんみたいじゃないか?! いや別に、嫌いじゃないよ。
むしろ大好きだけどね。
うん、俺はアリアのことが好きだと思う。
ただね、俺の好きって恋愛感情じゃなくて家族愛に近いんだよね。
『はいはいわかったよ。』

『えへへっ、やった!それじゃ早く朝ごはん作ろ!!』仕方がない。


こうなったら諦めよう。
どうせすぐに飽きるだろ。
というわけで朝食を作り始めることにする。
ちなみに今日のメニューは以下の通り。
***白米、焼き鮭、卵焼き、ほうれん草のおひたし、味噌汁、漬け物、納豆『はい、出来たぞ。』『いただきます!!!』元気いっぱいの挨拶とともに勢いよく食事を食べ始めた。


こういう所はまだ子供なんだなぁって思う。
可愛いけど。
『ふぁああああっ!!美味しい!!幸せだなぁ』幸せそうな顔しながらそんなことを言ってくれると、作ったかいがあったなぁってなるな。


よし、もっと頑張るか。
『ごちそうさまでした。はぁ、お腹いっぱーい。クロエのおかげで今日も幸せな一日が過ごせたよ、ありがとね!』満面の笑みでお礼を言ってくる。
「どういたしまして。」
と返しながら頭を撫でてやる。
すると、目を細めて気持ち良さそうな表情を浮かべている。
本当に可愛いな。


『えへへぇ、頭ナデナデすきぃ。「はいはい、知ってるよ。」『むぅ、バカにされた気分だなぁ。まぁいいけど。』そんなやり取りをしながら片づけをする。
「さて、そろそろ学校に行く準備するか。」
この家には二人しかいない。
「そうだね。早く行こう!」
と、二人で玄関に向かう。
『じゃあ行ってくるね。』「行ってきます!」
誰もいない空間に向かって声をかける。
これは俺たちの日常の一部だ。
俺とアリアは学校に通っているのだが、今日は休日だ。
だから特に予定はない。
「暇だなぁ」


「そうだねー」
リビングにあるソファーで寝転がりながら呟くと、隣で同じく寝転がっているアリアが返事をしてくれた。
「どこか出かけたい?」
「えー、めんどくさいなー」
「言うと思った」
「あははー」


「でも、せっかくの休みなんだし遊びに行きたいなぁ」
「んー、じゃあさ、買い物に付き合ってくれない?」
「え?」
なんの脈絡もなく、突然言われた言葉に驚きを隠せない。
今までの会話の流れでなぜそうなったのか理解できない。
俺が戸惑っていると、 アリアは立ち上がり、 そのまま俺の膝の上に座ってきた。
柔らかい感触が伝わってくる。
そしてこちらを見上げてきた。
綺麗な青い瞳が俺を捉えて放さない。
思わず見惚れてしまう。


そしてゆっくりと口を開いた。
その口から紡がれる一言一句を聞き逃すまいと意識を向ける。
しかし次の瞬間、 その美しい声で告げられた内容は、予想外もいいところな内容だった。
そう、 アリア・アスターという少女は―――重度のメンヘラ気質なのである。
―――アリア・アスターについて簡単に説明するとしよう。
まず初めに彼女は俺の家族だ。
俺と同じ妖怪であり吸血鬼。
種族名は確か……。
っと話が逸れてしまったな。
では彼女の性格だが、一見明るく優しいように見える。
実際そうなんだが、一つ大きな欠点がある。
それが極度のメンヘラ気質なのだ。
普段は明るいためあまり気にならないが、時々スイッチが入ったかのように病んでしまうことがある。
しかも俺にしか見せないためタチが悪い。
この前の事だ。
俺はいつも通り家事をしていた時のことだ。


俺達は2人で暮らすようになって長い年月が経つ。
そのため、俺はもう慣れたものだが、最初は本当に苦労をした。
というのも、俺に依存傾向がかなり強かったからだ。
なんでも俺がいなければ何も出来ないんじゃないかってくらいだ。
それこそ、ご飯は?とかお風呂は?とか洗濯は?と聞かれたりしたなぁ。


「ん、大丈夫だよ?ちゃんとお留守番出来るから」
と健気に笑顔で答えるものだから、余計に胸が締め付けられる想いになった。
そこで俺は決心したのだ。
アリアのためにしっかり自立させ、1人で生きていけるようにしようと。
「クロエ、どこ行くの?私も行きたい!!」
俺が一人で外に出ようとすると、必ず付いてこようとした。
その時の俺は少しイラついていたのかもしれない。


「アリアはここに残っていてくれ。俺は少し出てくるから、その間家の事を頼んだよ。」
「え?………………………………うん、分かった……」
とてつもない間があったが了承してくれたようだ。
これで安心だ。
俺は一人街に出かけた。
目的は食材を買うこと。
そして、必要なものを一通り買い終えた時だった。


俺は偶然、とある人物を見つけた。
その人物は、「あれ?クロエ様ではありませんか!奇遇ですね、こんな所で会うなんて!」
そう、俺の元従者の『リリア・カーディナル』だ。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
と返すと、「はい!元気ですよ!ところで今日は何をされているんですか?」
と聞いてきたので、素直に答えた。
「買い物だよ。今晩の夕食の材料を買いに来たんだ。」


「そうなのですか!それはちょうど良かったです!実は私、用事が入ってしまってこれから王都に戻るところでしたから!よろしければご一緒させて頂けませんか?!」
え?何でそんな急にテンション高くなったの?

しかも、そんな大袈裟な荷物抱えている状態で?絶対嘘だろ。
「……え、遠慮しておくよ。それにお前だって忙しいだろうし。俺も色々とやりたい事があるからな。」
「そこをなんとかお願いしますよ!クロエ様にも是非会わせたいのです!絶対に喜びますから!ね?いいでしょう??」
「えぇー」
何でそこまで必死なんだよ。
というか何だよその顔は。
めっちゃ輝いてるよ。
こっちは断りたいんだけど。
というか断らせてくれ。
そんなに期待に満ちた目で俺を見てくるなよ! うっ、「はぁ……仕方がないなぁ。」
結局折れることになってしまった。
それからというもの、ずっと俺の隣を歩くこいつがウザい。


鬱陶しいほど話しかけてきて、挙げ句の果てには手まで繋ごうとしてきたので全力で拒否しておいた。
流石に街中で手を繋いで歩いたりしたら目立つだろ。
そんな事は勘弁だわ。
「着きました!ここですよ!私の知り合いがいるお店なんですよ。」
着いた場所はなんの変哲も無い普通の飲食店だ。
なんでここに連れて来たんだろうか?まさかとは思うがこいつの紹介なのか?だとしたらちょっと心配なんだが。
まぁ、俺が気にするだけ無駄か。
そう思い店の中に入った。


するとそこには意外な人物が待っていた。
「やぁ!よく来たね!待っていたよ!歓迎するよ、我が同胞よ!ようこそ!『バーウィッチ』へ!」
そこにいたのは『アメリア・フォン・マステマ』王女殿下だ。
なんでここにいるんだ? とりあえず疑問は置いといて挨拶だけは済ませておく。


そしてすぐに帰ろうとしたのだが、何故か引き止められてしまい席に着くことになった。
そして、アリアの話になり盛り上がっていたらアリアがやってきた。
「アリア、紹介するよ。俺の元従者の『リリア・カーディナル』さんだ。そしてこの子が俺達の妹である『アリア・アスター』だ。仲良くしてくれ。」
と二人を紹介してあげた。




するとアリアが、「初めまして、アリア・アスターと言います!兄さんとはとても仲良しです!!だからあなたとも友達になりたいなって思ってます!!だからよろしくね!」
と自己紹介した。
うん、とても礼儀正しい子だな。
俺と違って。
そういえば前に、『もっと大人っぽく振る舞いたい!』と言っていたが、どうやらもう諦めたらしい。
そのほうが平和で助かるけど。
その後しばらく話していると、リリアが「そうだ!良いもの見せてあげましょうか?」
と言ってきた。
「一体なんだ?」
と聞くと、「ふふん♪」
とドヤ顔をかましながら、おもむろに懐から何かを取り出した。




「じゃーん!!これってなんでしょうか?」
と見せてきたものは、小さな人形のようなものだった。
「これは……」
「はい!『魔道具』の一種です!どうです?凄いでしょう!」
確かにすごい。
見た目はまんまミニチュアの人間だ。
「あぁ、本当に凄いな。」
「えへへぇ、ありがとうございます!でもこれの凄さはこれだけじゃないんです!なんとこの子はですね、」
「待て、その先は言わなくていい。」
「えー、なんでですかぁ?」
「いいから、言うなよ?」




「むぅ、分かりましたよぉ。じゃあまた今度教えますね!」
と言われたので、適当に返事をして話を終わらせた。
その後も話は盛り上がり楽しいひとときを過ごしたのだった。
ちなみに会計の時にリリアが割り勘しようとしたので全力で止めたのは秘密だ。
帰り際に別れの握手をしようと、差し出された右手を握り返したのだが、その時、一瞬ゾワッとした。


そして、 ガブッ! 噛みつかれた。
それも血が出るくらいの強さで。
そして耳元で囁くように呟いた。
《約束忘れないでくださいね?もし破ったら、殺しに行きますから。
》 その言葉を聞いて、俺は震えが止まらなかった。




この場に誰もいなかったらきっと泣いてしまっていたと思う。
それほど恐怖を感じていたのだ。
俺は無言で首を縦に振り、リリアの前から逃げ帰ったのだった。
家に着いた頃にはもうヘトヘトになっていた。
精神的な疲れと肉体的疲労の両方でな。
俺はそのままソファーの上に寝転んだ。
まだ身体は少し震えている。
俺とアリアは2人で住んでいる。
元々は別々に住んでいたのだが、ある日アリアが突然家にやって来て、強引に住み始めたのだ。




俺が反対したのだが、どうしてもと言うので仕方なく了承した。
それからというと、家事は全て自分でやり始めるようになり、今では立派な主夫として日々を過ごしている。




もちろんアリアにもちゃんと仕事をしてもらう予定だ。
そのため、俺はこれからアリアの仕事部屋となる予定の部屋に机を用意していたのだ。
仕事に必要な書類や文房具、パソコンなんかを置いておけるような広い空間がある場所だ。
そこなら作業も捗るはずだ。
俺としても楽ができる。
そんな事を考えていた時だ。


コン、コン ドアをノックする音が聞こえたので、入室を許可すると入ってきたのはもちろん、アリアだった。




しかし、その様子がどこかおかしい。
俯いているせいでよく表情が見えないが、声色はいつも通りだ。
だが、いつもとは何か違う。
雰囲気が違う気がした。
違和感を覚えつつも、問いかける。
何の用件かと。
そして返ってきたのは予想外の答えだった。
――お風呂が壊れた。


だから一緒に入りたい。
との事だ。
いやいやいやいや、それは駄目だろ。
いくら兄妹でも年頃の男女が一緒に入るのは問題あるぞ??と、思っていたが……、結局押し切られてしまった。
何故だろうか。
いつもよりも強く言われたため断りづらくなってしまったのだ。
だが仕方がないなと思い、早速風呂の用意に取り掛かる。
幸い風呂はまだ沸いていないので少し時間がかかるだろう。
俺は先にアリアに着替えなどを持って行かせた。
するとしばらくしてからアリアから電話があった。
《もしもし?着替え持ってきたよ!あと、ついでに私も入ってもいいかな?》 え?どういうことだ? え? 俺は混乱した。
いや、落ち着け俺!深呼吸だ!まずは状況を整理しよう。
今、アリアは俺と一緒に風呂に入りたがっている。
おそらく先ほどの会話からすると間違いないだろう。
俺達は一応、義理とはいえ兄弟だ。
その事はちゃんと伝えておかなければなるまい。
俺達の間に血縁関係はない。
そもそもこの世界には俺達の種族しか存在していない。
そう俺の種族は吸血鬼だ。
それも真祖と呼ばれる程の力を持った。


この世界に俺達以外の生物は存在しない。
いや、正確に言えば、魔物と呼ばれる類の生き物が存在しているがそれぐらいだ。
なぜこんな事態になっているのか。
その理由は今から約千年前に遡る。
その時、俺の父であり、始祖でもあった男の名前は《アルフォード・アスター・マステマ》。
当時の世界で最強の存在であったと言われている人物だ。
当時俺の父は、人間でありながらこの世の頂点に立ったと言われていたらしい。
その頃の世界では、人間が魔物を支配し、魔王を頂点とする、いわゆる中世ヨーロッパのファンタジーみたいな感じだったらしい。
その魔王を倒し世界を救おうとしていたのが父だったというわけだ。
そして父がついに倒そうとしたその時に、悲劇が起きた。
父のパーティに突如として乱入してきたのが、後に魔族を束ねることになった、魔王だった。
死闘が繰り広げられ、そして最後には相打ちという形で戦いが終わった。
その時にできた傷のせいで、父は死に至ることとなったのだ。
そこで父は願った。
自分に代わって、次代の王に自分の後継者を、という願いを。
その意思は代々受け継がれていった。
そしてその最後の希望こそが、俺なのだ。
俺以外に次の王になれる素質を持つものはいなかったから。


だからこそ、俺が王の座に就くことが決められた。
それからというもの、ずっと修行に明け暮れる毎日だ。
俺には生まれつき特殊なスキルを持っていたからだ。
それが俺の固有スキルの〈不死〉だ。
どんな攻撃を受けても、致命傷を負っても死ぬことができない、という効果を持っている。
俺にとっては呪いのようなものだ。
つまり、俺にはこの先もずっと生きていかなければならないという運命が課せられているという事になる。
この力は人智を超えた能力であるとされているので、普通の人間は勿論のこと、勇者や聖女といった特別な力を持つものですら、殺すことが不可能だという。
「はぁ……、いつまで続くんだよこの生活。」
と、つい弱音を吐いてしまう。
俺には夢というものが特になかった。
ただ平穏な日常を送っていきたい、とそう思っているだけだ。
だからといって何かしたいことがある訳でもないが。
それに最近は悩み事がある。
そう、「最近、妹のスキンシップが激しくなってきたからなぁ……。どうしようか……これ……」
はぁ……俺の妹は極度のブラコンだ。
昔から何かにつけて兄さん、と話しかけてくる。
そしてよく甘えてきて、頭を撫でたりしてくるのだ。
「どうすればいいんだろうか?」
と一人呟きながら湯船に浸かるのであった。


「はぁ……」
どうしたものかね、ほんとに。
風呂場から出てきたら、既にアリアがスタンバイしていた。
俺の服とタオルを持ちながら。
「あ、兄さん!遅かったね!もう待ちくたびれたよ〜♪」
と、とても機嫌良さそうだ。
「すまんすまん。まぁ、とりあえず身体洗うか?」
「うん!わかった!じゃあ背中流してあげるね!」
と元気よく言い放ち、「じゃあ、失礼しまーす!えいっ!」
といきなり抱きついてこようとしたので「ちょ!ストップ!一旦待て!」
と必死になって止めた。
危ないところだった。
なんとか回避することに成功したので一安心していると、「むぅー」
「おいアリア?お前何拗ねてるんだ?」
なんで不貞腐れてるんでしょうかねぇ? まあ理由はわかるが。
「ほら、とりあえず早く身体洗いに行くぞ?」
そう言って手を繋いで浴室へと向かった。
そして椅子に座らせようとするのだが、「うぅーん……」
と悩んでいる様子なので、「じゃあ、これでどうだ?」
と言って、膝の上に乗っからせた。
「あぁ!これいい!この体勢好き!」
と言って嬉しそうにしているので「はいはい……」
と適当に返しつつ、「よし!洗ってやろう!どこからでもいいぞ!さぁこい!」
と言って両手を広げて待っていた。
だが、「ん?いやいいよ!大丈夫!もう身体は拭いたから!じゃあそろそろ出るよー!じゃあね!」
「えぇー……」
……残念だ。
実に。
しかし諦めた方がいいなこれは。
と、そんな事を考えてからしばらくぼけぇ~としていると、不意に眠気が襲ってきた。


ふわぁ~と欠伸をすると同時に意識は深い闇へと沈んでいった。
「むにゃむにゃ、お腹空いたな〜」
と寝言を言いながらもぞもぞし始めたアリアを眺めながら俺は目を覚ました。
あれから少しだけ仮眠を取ろうと思ったが結局ぐっすりと眠り込んでしまったようだ。
しかし今は何時だ?「今は……午後9時だ。」
俺は時間を確認するためにスマホを開いた。
すると、通知が来ていた。
そのメッセージの差出人はアリアだった。
内容は、今日はありがとね。
またお願いします。
おやすみなさい、というものだった。
「はいはい、っと。さて、飯の準備でもするか」
今日のメニューは焼き魚に味噌汁、それと白米にしよう。
そして準備を始めてから30分程経った頃だ。
アリアが起きてきた。
ちなみに俺はもう食べ終えている。
「あ、兄さんごめんね?起こしてくれればよかったのに……」
と申し訳なさそうな顔をしている。
だが俺は気にしない。
むしろ感謝したいほどだ。
俺はいつも朝が早いから夜も早かったりする。


そのためなかなか眠れず、「ちょっと外行ってくるか……」
とか思い始めた時だ。
ちょうど良くアリアが来たのでそのまま一緒に行くことになったのだ。
おかげでこうして夜の散歩を楽しむことが出来ているので全然問題なしだ。
それにアリアも喜んでいたし、お互い様だろう。
だがやはり、「別に俺のことは気にする必要はないからな?俺はもう食べた後だし、それにたまにはこういうのも悪くないだろう?」
「うん……、ありがとう、お兄ちゃん。大好きだよ。これからもずっと側にいてね?」
と突然そんな事を言うのだった。
そして、「えへへ、お休みぃ……」
と可愛らしく微笑みながら言うと、アリアは部屋に戻って行った。
俺もそろそろ戻らないとな。
そう思って部屋の中に入ると、 そこには誰もいなかった。


おかしい、確かにアリアは部屋にいるはずだ。
念の為確認してみるか……「アリア、いるのか?返事をしろ!どこにいる?隠れても無駄だぞ?早く出てこい!出てこないなら力ずくで引きずり出す!それでも良いのか?アリア!」
と呼びかけるが、反応がない。
まさか本当にいないのか?いや、だがそれは無いだろう。
なぜなら、俺が部屋に入った時には、アリアは間違いなくここにいたからだ。
ということは、アリアは何らかの方法で移動したということになる。
だが一体どうやって?転移魔法でも使ったのか? いや、違うな。
アリアは俺と同じで、固有スキルの〈不死〉を持っている。
つまり、アリアが死ぬような状況になるはずがないのだ。


となると、可能性としては2つだ。
1つは、アリアがなんらかの事情で、俺に助けを求めた。
そしてもうひとつは、俺が知らない間に誰かが侵入してきた。
このどちらかだろう。
だがどちらにせよ、まずはアリアを探す必要がある。
俺は急いでアリアの部屋に向かった。
すると、そこにはアリアがいた。
「はぁ、なんだ、そこに居たか。心配したじゃないか。」
と、安堵の息をつく。
「…………なんで?」
「ん?なにがだ?」
「どうして……?なんで私なんかのためにそこまでしてくれるの……?」


「はぁ……、あのなぁ、俺達は兄妹だぞ?当たり前だろ?それに、お前は俺の大事な妹だ。助けるのは当然だろ?」
と笑いかける。
「そう……だよね……。そうだった。私は兄さんのたった一人の家族だもん。だから、守ってくれるのも、大切に扱ってくれるのも、全部当然の事なのに……。それなのに、勝手に勘違いして、嫉妬なんてして……最低だなぁ……わたし……」
と、俯き気味に呟いている。
「…….アリア?」
「え!?あ、えと、その、なんでもないよ!ただ、私がバカだったなって、そう思っただけで……」
「なぁ、アリア。一つ聞きたいことがあるんだけどさ。お前、俺に何か隠してるだろ?」
「えっ!?い、いや、何も隠してなんか無いけど……」
「嘘だ。俺には分かる。だって、俺達二人は、血を分け合った、言わば、一心同体みたいなものだからな。」
「……うん。分かった。話すよ。実はね、最近変な夢を見るの。」


変な夢……?」
「うん。夢の中の自分は、どこか分からない森の中で暮らしていてね。そしてある日、私の前に男の子が現れたの。その男の人が、私を好きだって言ってくれたの。それで、すごく嬉しくて、思わず抱きついちゃったの。そしたらね、急に、身体が熱くなってきて、そして気がついたら、自分の手が真っ赤に染まってて、足元には赤い水溜まりが出来てて……。それが怖くて、悲鳴を上げようとしたら、いつの間にか目の前にいたはずの男の人の首が飛んでて……。そこで目が覚めるの。」


「なぁ、アリア。それは……本当なのか?」
「わからない……。でも、もし、もしもの話だけど、あれが私の未来の姿だとしたら……。そう考えると、すごく怖い……。それに……何より辛いのは、兄さんに嫌われるかもしれないことだから……。」


「はぁ……、全く……。アリア、お前は俺の事が嫌いか?」


「うぅん!大好き!世界で誰よりも愛してる!」
と即答してくる。
そして俺は続ける。
まるでアリアの不安を吹き飛ばすかのように。
そして誓う。
必ず守ると。
どんなことがあっても。
たとえ世界が敵になろうとも。
俺は絶対に諦めない。


俺とアリアは二人で一人なのだから。
その後、俺はアリアと一緒に寝ることにした。
俺は床で寝ると伝えたのだが、どうしてもと言って聞かなかったのだ。
まぁいいかなと思い、一緒にベッドに入って寝転がっていると、不意に抱き着いてきた。
そしてこう言った。
私は、お兄ちゃんと出会えて幸せだよ、と。
俺も、お前と出会えたことをとても嬉しく思っているぞ、と返してやった。


そしてお互いの顔を見つめ合い、唇を重ねた。
俺たちの本当の始まりのキスを。
翌朝、目を覚ますと、アリアはまだ寝ていた。
起こさないようにそっと抜け出して着替えて外に出ようとすると、アリアが目を覚ました。
そして、 また一緒に寝ようね?約束だよ?と微笑みかけてきた。
もちろんだ、と返してから、二人並んで歩き始めた。
今日も一日が始まる。
これから何が起きるのだろうか。


まあ、なんとかなるだろ。
そんな事を考えながら、 アリアと共に家の外へと出た。
さぁ、行こうか。
新たな日常の始まりだ。
さて、
そして、物語は終わりを迎えた。彼らは幸せに暮らしましたとさ。終わり。
『ふさけんなよ!』
ばしゃっと氷水が床に跳ねた。
「嫌なら消えて貰っていいんだよ。『黒江京介』の名跡はこれっきりというね」
「なんだと?!」
男の声色が変わった。
『言っとくけどアタイも忙しいんだ。語るだけ語らせてドロンされちゃ商売にならないんだよ』
スチャっと複数の銃口が向けられた。
「お、俺をこ、殺めたらお前らが困るんだぞ。この残高十万円はなぁ、地球亡命政府が遺したなけなしの」
『横領だろうが強奪だろうがアタイらにはどうでもいいんだよ。お金は色はつけられねないからねぇ。』
「そっ、その亡命資金を注ぎこんででも『黒江京介』が今の俺には必要なんだよ。あんたらもだろ?」
男は語尾を震わせながらも退く気配はない。
『わかっているならカラダをさっさと置いてトンヅラしな』
「いいだろう」
男は身をかがめてグラスの破片を拾った。女を人質にとる。
『!』
羽交い絞めにして頸動脈に刃を押し付けた。
『じゅ、十万円で何が欲しいんだい?』
男は鉛で出来た歯列に向けて好き放題を並べ立てた。
『わかった。全部吞もうじゃない』
その言葉と引き換えに女は床に臥せった。
「さっさとヘッドギアを渡せ。余計な介入をするんじゃねえぞ。俺は『黒江京介』なんだからな!」
『いう通りにしておあげ』
女が目くばせをすると斜め上から交換条件が飛んできた。
「そう来なくっちゃな!」
男はリクライニングして静かに目を閉じた。
一分、三分、五分。静かに時が流れていく。
何も起こらない。

◆第二章 妖怪は死んでいる 朝が来る。
この世界では一日二十四時間。
季節も四季も一巡りする。
春が来て夏になって秋になる。
冬が来たらまた春になる。
その繰り返し。
夜になると月が出る。
そして、太陽も出る。
月が沈めば朝日が昇るのだ。
ここは異世界なのに地球と全く変わらない。
不思議なものだなと思う。
さて。
俺こと『黒江京介』には秘密がある。
俺は人間ではなく……。

「容喙だ」
その一言で静寂が割れた。あとはとめどなく歓喜と拍手があふれ出す。
人々は手を取り合い踊り狂い、それぞれのやり方で祝福をあらわした。

感応精神/情報寄生体、殲滅。その帯が町じゅうを横断している。仮想と現実の視界も右から左へ渡っていく。
「よくやった、アリア」
懐かしい腕が背中を回り込む。
「はぁ……、全く……。アリア、お前は俺の事が嫌いか?」

「うぅん!大好き!世界で誰よりも愛してる!」
「その言葉を信じてよかったよ。ただ」
クロエは言葉を濁す。バツが悪そうだ。
「ううん、仕方なかったのよね。隠し事だなんて」
アリアは頭を下げた。
「顔向けできないのは俺たちだよ。君に感応精神/情報寄生体の誘蛾灯になって貰った」
「そうでもしないと、そいつを隠しメモリーに誘導できなかったんでしょ」
「うん、ヴォイド・エリアは回転するブラックホールの情報曲面に生じるレア領域だ。いかな宇宙の命運を握る精神寄生体でも、うぷっ」
長饒舌をアリアが塞いだ。
「ああ、クロエ。そんなことどうだっていいの。地球亡命政府のパーティーが始まるわ」


クロエは驚きながらも、アリアの言葉に頷く。
「そうだな、パーティーに遅れるわけにはいかないもんな」
二人は急いで身支度を整え、地球亡命政府の本部へと向かった。

地球亡命政府のパーティーは、異世界での交流や情報交換の場として知られていた。各地から集まった政府関係者や異世界の住人たちが一堂に会し、交流を深めることができる貴重な機会だった。

会場に到着した二人は、華やかな装飾と賑やかな音楽に包まれた広いホールに足を踏み入れる。そこには様々な種族の人々が集まり、笑顔で会話を楽しんでいる様子が見受けられた。

「すごい人だな、アリア」
クロエが口を開くと、アリアは嬉しそうに笑った。
「そうでしょう?こういう場所に来るのは初めてだから、ちょっと緊張してるけど楽しみなの」
二人は手を繋ぎながら、会場を散策し始めた。

すると、いくつかのブースが目に留まる。各地からの特産品や技術の展示が行われており、多くの人々が興味津々で見学していた。

「クロエ、これ見てみて!」
アリアが興奮気味に指さす先には、魔法の実験装置が並んでいた。
「これは何だ?」
クロエが興味津々で尋ねると、アリアは説明を始めた。
「これは魔法の力を用いて物質を変換する実験装置なの。ちょっと触れてみる?」
クロエは迷わず手を伸ばし、装置に触れた。すると、彼女の手の上に何かが浮かび上がった。

「すごい!これ、何かしら?」
クロエが興奮気味に尋ねると、アリアは微笑みながら答えた。
「それは、魔法の力によって作り出された新種の花なんだ。君にプレゼントするよ」
クロエは喜びの笑顔で花を受け取り、アリアに感謝の言葉を伝えた。

二人はさらに会場を巡りながら、様々な出会いや体験を楽しんでいった。地球亡命政府のパーティーは、二人にとって特別な思い出となった。

そして、その後も彼らは共に様々な冒険を経験し、困難を乗り越えていくことになるのだった。


クロエは驚きながらも、アリアの言葉に頷く。
「そうだな、パーティーに遅れるわけにはいかないもんな」
二人は急いで身支度を整え、地球亡命政府の本部へと向かった。

地球亡命政府のパーティーは、異世界での交流や情報交換の場として知られていた。各地から集まった政府関係者や異世界の住人たちが一堂に会し、交流を深めることができる貴重な機会だった。

会場に到着した二人は、華やかな装飾と賑やかな音楽に包まれた広いホールに足を踏み入れる。そこには様々な種族の人々が集まり、笑顔で会話を楽しんでいる様子が見受けられた。

「すごい人だな、アリア」
クロエが口を開くと、アリアは嬉しそうに笑った。
「そうでしょう?こういう場所に来るのは初めてだから、ちょっと緊張してるけど楽しみなの」
二人は手を繋ぎながら、会場を散策し始めた。

すると、いくつかのブースが目に留まる。各地からの特産品や技術の展示が行われており、多くの人々が興味津々で見学していた。

「クロエ、これ見てみて!」
アリアが興奮気味に指さす先には、魔法の実験装置が並んでいた。
「これは何だ?」
クロエが興味津々で尋ねると、アリアは説明を始めた。
「これは魔法の力を用いて物質を変換する実験装置なの。ちょっと触れてみる?」
クロエは迷わず手を伸ばし、装置に触れた。すると、彼女の手の上に何かが浮かび上がった。

「すごい!これ、何かしら?」
クロエが興奮気味に尋ねると、アリアは微笑みながら答えた。
「それは、魔法の力によって作り出された新種の花なんだ。君にプレゼントするよ」
クロエは喜びの笑顔で花を受け取り、アリアに感謝の言葉を伝えた。

二人はさらに会場を巡りながら、様々な出会いや体験を楽しんでいった。地球亡命政府のパーティーは、二人にとって特別な思い出となった。

そして、その後も彼らは共に様々な冒険を経験し、困難を乗り越えていくことになるのだった。

 
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