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「叔父上? 私と同じ考えでしょうか?」
「どうかな……お前はどう考えているのだろうか」
「狙いはオピュウムを司る家の宝が目的だと」
「やはりな」
その会話を聞いたレモンがひゅっと息を吸った。
二人は黙っている。
その間にレモンは自分の役割を理解した。
「友人に聞いたのですが、脱色剤を使って髪を洗えば金髪になるそうです。幸い私は碧眼です。遠目なら問題ないでしょう」
二人はレモンの顔を見たが、何も言わなかった。
数秒黙った後、サミュエルが重たい口を開く。
「最終手段だ。その時は私が君の護衛に立ち必ず守る」
レモンはギュッと目を瞑った。
シュラインが言う。
「アルバートを呼び戻しましょう。ブルーノから例の物も届いています」
「調整は?」
「彼は完璧だと言ってましたよ」
「そうか。それなら問題は無いな。グルックが動く前に仕掛けよう」
「キースはローズとして同行させますね。その方が良いでしょう」
「そうだな。シェリー妃の悪女ぶりが今から楽しみだ」
シュラインがドカッとソファーの背もたれに体を預けた。
「叔父上、今日のご予定は?」
「今夜は兄上に呼ばれている。夕食を共にと言うことだ」
「では私の方からシェリー妃に伝えます」
「ああ、頼んだ。では、そろそろ失礼するよ。今日は新兵の訓練を視察せねばならない」
「ご苦労様です。ああ、そうだ。ミスティ侯爵夫人ですが、かなり状態が悪いようで、近々ヌベール辺境伯が王都に来るとか……黒狼を連れてね」
「では王妃を呼び戻すか?」
「ええ、そろそろ頃合いでしょう。アルバートとローズに行ってもらいましょうか」
「三人そろって王宮へ帰還か。それも良いな」
「では、そういうことで」
サミュエルとレモンが去ったあと、シュラインが独り言を呟いた。
「面倒なことだ」
サミュエル達と入れ違いに側近が戻り、文官たちが新たな書類を持ち込んでくる。
ゴールディ王国宰相の執務室は日常を取り戻した。
同じころ、そろそろ休憩をという文官の言葉にペンを置いたシェリーのもとに、来客の連絡があった。
「どなたかしら? 今日は予定はなかったと思ったのだけれど」
「ブルーノ・ブラッド小侯爵様です」
「まあ、ブルーノ! すぐに通してちょうだい。ああ、ここではなく私室にしましょう。弟だから問題ないわ」
「畏まりました」
侍従が去った後、文官に1時間で戻ることを伝えたシェリーはいそいそと執務室を出た。
途中国王とすれ違う。
「どうしたね? なんだか嬉しそうだが」
「国王陛下にご挨拶申し上げます。久しぶりに愚弟が参りましたので顔を見てこようと思いまして」
「そうか、それは楽しみだね。ゆっくりしてきなさい。後で菓子でも届けさせよう」
「ありがたきお言葉。心から感謝いたします」
ぺらぺらと手を振って歩き去る国王の背中を見ながら、シェリーが呟く。
「それほど腹黒くは見えないのに……王族って怖いわね」
自分も王族の一員だということなど、すっかり抜け落ちている。
途中ですれ違ったメイドに紅茶の準備を頼み、私室に急いだ。
貴族のマナーとしてはぎりぎり許容される程度の早足で急いだが、ブルーノの方が早かった。
「姉さん! 久しぶり」
「ごめんね。待たせちゃった? これでも急いだのよ」
「待ってないよ。僕も先触れも出さずにごめんね。急に時間が空いたから来ちゃった」
「良いのよ。顔を見れてうれしいもの」
私室のドアを開けながらシェリーが言う。
「お父様はお元気かしら? 同じ王宮に居てもなかなかお顔も拝見できないわ」
「父上はとても元気だよ。でも母上は相変わらずだ」
「まあ……またお見舞いに行きたいのだけれど……予定を確認してみるわ」
「以前より随分良いから急がなくていいさ。でも顔は見せてやって。喜ぶから」
「ええ、義兄様と相談しているわね」
紅茶が運ばれ、そのすぐ後に豪華なデザートが大皿で持ち込まれた。
「凄いね」
「ええ、ここに戻る時に国王陛下と偶然お会いしたの。あなたが来るってお話ししたら差し入れて下さったのよ」
「それはそれは。ありがたく頂戴しよう」
そう言いながらブルーノは全く手を伸ばさない。
シェリーは俄かに緊張した。