140 鉱山の村にて①
「……」
「んっ?」
リートが、黙々としているミトとラクトのほうを向いた。マナトもつられて2人を見た。
昼前にキャラバンの村を出発し、夕方頃に、この鉱山の村に着いたのだが、その間、ミトとラクトはほとんど口を開くことがなかった。
明らかに緊張している。
「フっ、そんなに緊張しなくていいっすよ、ミトくん、ラクトくん」
「はっ、はい!」
リートに返事したものの、その返事すらぎこちなく、ミトやラクトの表情はカチンコチンなままだった。
やはり、憧れの大商隊の、副隊長ということなのだろう。その存在の大きさを、2人の表情が物語っていた。
「至極当然な反応ですよ、リート副隊長」
「そうっすか?つ~かケントくんも、今回の交易は、副隊長つけなくていいっすよ。リートくんでいいっす、リートくん」
「それは無理っす!」
少し話した後、ケントは村人達と、交易担当と一緒に、村の中へと消えていった。
「いやぁ~、ケントくん、立派に隊長やってるっすねぇ。ムハドが聞いたら喜ぶっすね~」
4人でラクダを誘導させながら、リートは嬉しそうに言った。
「ケントさんも、昔はムハド大商隊にいて、遠方まで交易に参加していたと聞きました」
「そうっすね」
「どんな隊員だったんですか?」
「う~ん、そうっすねぇ~」
リートは自分の髪の毛をクリクリし始めた。
「とにかく、効率的に動けるヤツって感じっすね。ちょっと、チャラチャラしているようにも見えるんすけど」
……えっ?あんたがそれ言う?
「情報収集もちゃんとしてるし、そこからの判断も性格だし早い。そして、何より、強い。彼が戦うの、見たっすか?」
「ちょっとだけ、見ました。……最小限の動きだけ」
「そう、それっす。ケントは戦い方が、上手いんすよ。失敗に繋がるような、無駄な感情がない。余計な動きもない。商才もないっすけど」
……フフっ。確かに、そうだ。
「ただ、商隊にまず必要なのは、運搬を担える強さなんで。何度かクルールを出て、遠方の交易に行った後、すぐに、隊長に昇格したっすね」
……めっちゃ優秀ってことじゃないか。
「どうっすか?ケント隊長は」
「あっ、はい。……とても、いい隊長ですね!」
マナトの言葉に、リートは満面の笑みを浮かべた。
※ ※ ※
「あの、もしかして、リートさまでございますか?」
ラクダをラクダ舎に預けていると、一人の背の高い老人が、リートのもとへやって来た。
「村長じゃないっすか。おひさで~す」
「どうも。ご無沙汰しております。いやぁ、リートさまが来てると聞いて、飛んで来まして……」
「えっ、どうしたんすか?」
鉱山の村の村長は、少し気まずそうな表情をしながらも、口を開いた。
「火のマナ石が現在、不足しておりまして……」
「あぁ、なんだ、そういうことっすか。あそっか。ここ、炎の能力者、いないんでしたっけ……仕方ないっすね。着色はお願いするっすよ」
「た、助かります!ありがとうございます!」
リートはマナト達のほうに振り向いた。
「ちょっと、野暮用できたんで、行ってくるっす」
「了解です」
「つ~か、村長。先に言ってくれれば、ちゃんと交易用につくってたのに……」
村長と話しながら、リートも村の中へ消えていった。