131 マナトの一日②/ミトの家にて
ミトの家に入るのは久しぶりだった。
木造住宅特有の、木の素材の床や柱。
木の色というのはどこか落ち着いていて、木目の模様すらも、どこか芸術的な感じがする。
石造りの家にもだいぶ慣れてきたが、やはり、木の家というのは居心地がいいなと、マナトはしみじみ思った。
このヤスリブの世界に来て早々、長老の家で倒れた後に、寝かせてもらったベッドも健在だ。
……そう、そして、すっぽんぽんで外に……いや、思い出すのは、やめよう。
ミトは着替え、炊事場に立つと、てきぱきと料理をこしらえた。
「おぉ~」
朝採れ野菜と肉の腸詰めがふんだんに入った、いわゆるポトフ風スープが、パンと一緒に出てきた。
「ズズズ……ん~まい!」
「よかった!」
ミトもニコニコ顔で、ポトフのスープに手を伸ばした。
――コン、コン。
ミトの家の扉を、誰かが叩いている。
「は~い!」
ミトは立ち上がると、玄関に向かった。
マナトも野菜と肉の腸詰めをムグムグさせながら、玄関のほうを見ていた。
ミトが、扉を開けた。
「ステラさん!」
ステラが、いくつかの書類を持って、立っていた。
「ミ、ミトくん、こんにちワゲェッ!?」
ステラはミトの奥にいるマナトに気づくと、変な声を出した。
……んっ?
ステラの反応に、マナトは若干、違和感を覚えた。
「どうしたの?ステラさん。あっ!まさか、もしかしてアクス王国から、なにか急な伝報でも届いたの!?」
矢継ぎ早な感じで、ミトが言う。
「あっ、いや、大丈夫!それは大丈夫なので、うん……」
「そう?それならよかった……」
ステラの言葉に、ミトは胸をなでおろした様子で、ふぅとため息をついた。
「……マナトくん、今日はたしか、長老の家にいるハズじゃ……」
とても小さな声で、ステラが言った。
「えっ、何か言った?」
「あぁ、いや、何でもないの、ミトくん」
「えっ?というか、それじゃ、ステラさん、今日はどうしたの?」
「へっ!?あっ!えっとね!特になんていうか、アレなんだけど!ま、また今度にするね!それじゃ!」
――パタン!
ミトの家の扉が閉まった。
「また今度って……どうしたんだろう?ステラさん」
ミトは首をかしげながら戻ってくると、何事もなかったかのようにポトフに入っている野菜をパクリと食べた。
……これは、もしや。
な~んとなく、マナトは感じ取った。
「ミト。ステラさんて、結構、ミトの家に来るの?」
「いや、僕のほうが、よくステラさんのとこに行ってたんだよ。やっぱり、アクス王国のことが心配で」
「そっかぁ。そうだよね」
「そしたら、途中から、ステラさんが、アクス王国からの伝報があるときは、持ってきてくれるようになったんだよね」
「ふむ」
「そういえば、最近ステラさん、伝報と一緒に、お菓子とか持ってきてくれたりしてたかなぁ」
「……」
……村といえども、やっぱり人それぞれ、秘密がいっぱいだなぁ。ステラさん、ミトのことめっちゃ好きなんだろうな。
そんなことを思いながら、マナトはパンをほおばった。
そして、たらふくミトの手料理を食べさせてもらった。