129 リート③
「うむ。それじゃ、リート、お主がウームーのマナ、取り込んでこい」
「……やっぱ、そうなります?」
長老の言葉を聞くと、リートはあんまり乗り気でない反応を示した。
そして、イスの上にあぐらをかき、
――ガタン、ゴトン……。
子供がイスに座ったときにやるように、左右に揺らし始めた。
「つ~か、俺、ホントに十の生命の扉っていうの、開いてんすかね?マジで自覚ないんすけど」
「大丈夫じゃ。マナトも同じこと言いながら、クルールのマナを取り込めたからの」
「あっ、そうなんすね。書庫での作業も彼なんすよね。俺と気が合うんじゃないすか?」
「いやぁ、そこは……どうじゃろうなぁ」
――ガタン、ゴトン……。
「ウームーの守り神の末裔には遭遇できたか?」
長老の言葉に、リートは首を振った。
「さすがに一回の遠征では、無理っすよ。もうちょい、探索が必要っすね」
「承知した」
――ガタン、ゴトン……。
「どうじゃった?ウームーは」
「よかったっすよ~。他地方に比べて、争いがないっていう印象でした。クルールに負けずとも劣らない、平和な土地っすね。民も皆、知識が豊富で、様々な研究が進んでました」
「ほう!」
「ジンの研究も進んでて、新しい情報、仕入れて来たっすよ」
「なんと!そこまでウームーは進んでおるのか」
「ジンの種類が、判明したみたいっすね。いま、ウチでまとめてるんで」
「承知した。……ともかく、素晴らしい土地だったのじゃな」
「そっすね。……ただ」
「ただ?」
「地形が、ヤバかったっすけど」
「ほう?」
「地図、意味なかったっすね。実際に行ってみたら、高低差ありまくりで、移動がすんごい大変でした」
「ふむ。……じゃが、そんな土地だからこそ」
長老が腕を組んだ。
「空を進む船があったということじゃな」
「おっ、さっすが長老!」
リートは揺れながら、笑顔になった。
「あの険しい地形が、かえって彼らに生きる知恵をってうわっ!」
――ガタン!
バランスを崩し、リートはイスごと倒れた。
「絶対やると思ったわい、阿呆」
「あはは、イデデ……」
イスを戻して、今度は行儀よく、リートは座った。
「あっ、そうだ。箱船動かしたいのであれば、方法としては、あともう一つ、ありますけど」
「ウームーのマナをすでに取り込んでいる能力者を、村に招くんじゃろ?」
「さっすが。せいか~い。……まあ、そっち路線も含めてって感じで、また交易の準備が整ったら……」
――ガタガタガタ……。
強い風が、居間の窓を揺らした。
「あっ、ルフ、帰ってきたんじゃないすか?」
リートが言うと、長老は立ち上がった。
「よし。ちょっと、出てくる」
「あ~い」
長老が出ていくのを見送った後、リートは書庫から赤い墨汁を持ってきて、作業部屋でせっせと火のマナを充填した石を、赤く着色していった。