第2話 ラグナロク学園
国立ラグナロク学園。
各国の代表者が世界の主導権を賭けて戦う【天下壱符闘会】で優勝できる超一流の【
国のバックアップを受けて運営される学園には国内最高峰の人材・設備が取り揃えられている。最高峰の教師、最高峰の施設、最高峰のカード、最高峰のAD――ありとあらゆる最高峰が集うラグナロク学園は、プレイアズ王国内の魔符士を目指す全ての若者が
学園内には教練用の施設の他、コンビニや、市井の娯楽品を売る店や、カードショップやデバイスショップなどの普通の学園には存在しない店まで並んでいる。生徒に楽しい学生生活を送らせるためだ。それが学園への未練となり、学園を生き残る原動力となり、なにより効率よく魂格《レベル》が上げられる――同じ理由でラグナロク学園は学園祭を筆頭とした季節イベントも充実しており、そしてそのいずれもが他の学園とは比べ物にならぬ絢爛さで開催され、エリート校としての本質に反して学園内外の人間に与える印象は華やいでいる。
入学式。
新入生を歓迎する季節イベントである以上、入学式も当然相応の豪奢さでもって彩られて開催される。
校門の先に、コンクリートパネルにガラス一枚隔てて埋もれたカード群から伸びる虹のアーチがトンネルを形成している。さらに実体のない光の雨が広い空間に降り注ぎ、トンネルを潜る新入生たちの顔を綻ばせていた。戦闘では役に立たない、イベントの為だけに開発された特殊な魔法だ。そのような魔法を自前で開発できるという事実がラグナロク学園のカード開発技術の高さを物語っていた。民間の学校ではこうはいかない。
そんなファンタジー学校の校門を、玄咲もまた他の新入生たちと同様に顔を綻ばせて跨いだ。
液状なのに固形の性質を有した魔法の水の縄で両腕を縛られた護送状態で。
水の縄の発生源は、玄咲の隣に立って歩くクララ・サファリアの手首に巻かれた機械――スクール・リード・デバイス。校門付近ですれ違う学園の生徒たちが一様にギョッとした顔で護送される玄咲を見ていく。クララが眉を潜めて、綺麗なハイトーンのボイスで玄咲に声かけた。
「なんでニコニコしてるのよ……あなた、自分の状況分かってるの?」
「いえ。憧れの学園に本当に入学できるんだなと思うともう嬉しくて嬉しくて。しかも愛――憧れのクララ先生と校門を一緒に潜れるなんて望外の幸福です。本当にありがとうございます」
「憧れ? 私が?」
「はい! ずっと憧れていました! 他でもない、クララ先生に!」
クララはきょとんと自分を指さし尋ねたあと、玄咲の言葉を受けて少しにやけながら赤面して顔を俯かせた。
「え、えへへ。ありがと――はっ!」
が、すぐに我に返り、玄咲を叱った。
「お、おだてて誤魔化さない! 次あんなことしたら許さないからね!」
玄咲は気まずそうに顔を背けた。さすがに女子高生の胸を揉みしだいたのは人としてどうかと自分でも思っているのだ。
「その……あれは誤解です。寝起きで意識がボンヤリしていたんです。俺は童貞なんです。素面であんなことする勇気はありません。信じてください」
「……童貞云々はともかく、直前まで寝ていたとはアカネさんからも聞きました。酷くうなされていたとも。だからといってあなたのしたことが許される訳ではないけどね。……まぁ一応、わざとではなかったという体で話を進めてあげるわ」
「話?」
クララはくるりと首を振り返らせてきわめて真面目な顔で発言した。
「これからあなたはこの学園の理事長と会うのよ。まぁ、穏便な話にはならないでしょうね」