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選択肢を与える猫

伸太郎と聖が息を切らして火野家に着くと同時に、扉を開けて妹の紡希がジャージ姿で慌てて外に飛び出してくる。

「あ! 兄ぃ兄ぃ……ちょっと騒ぎが起きてるから見てくるね!」
「え、あ、ツム、ちょっと……」

紡希には伸太郎の声が聞こえていただろうが、ものすごい勢いで走って通りの角を曲がって消え去ってしまう。

「……アシュレイ、大丈夫かな……騒ぎって、なんか……蛇の神様がらみだよな……」
(あの娘ならしばらくは大丈夫でしょう。あの子を守ると願ってみるニャ?)
「もちろん……」

伸太郎から発せられた青い光が灰色の猫にまとわりついた後、白い光に変わって紡希が走り去った遠くの方へと飛んでいく。

「え、今の何? 魔法が飛んでいった?」
「アシュレイに守りの魔法をかけてもらった。ツムはこれで大丈夫」
「……便利な魔法なのね、射程範囲……とか無いんだ……」

二人は魔法の行方を見届けた後、玄関のドアに近づくと周りの空気が綺麗になった印象を受けた。外で感じていた不穏な嫌な空気を全く感じさせなかった。思わず二人共周りをキョロキョロと見回してしまう。

「シン君、この家……なんか護られてるの?」
「俺も初めて知った……アシュレイのおかげ……なんだな」
「……」

灰色の猫は家族が秘密にしていることを喋って良いのか分からなかったので、自分がかけていない魔法に対しての反応をしなかった。伸太郎が扉を開けると、母親の珠稀がジャージ姿でバッグに色々と詰め、部屋を行き来しながら忙しそうにしているのが目に入った。

「あ、シンちゃんと聖ちゃんと、アシュレイ?」

部屋を行ったり来たりをしている珠稀に灰色の猫は念話で語りかける。
(落ち着いて聞いて、少々まずいことになっているの。直ぐに行くのではなくて伸太郎たちが持っている書物を解読からにしてほしいニャ)
「……へ? え? あ……これは……」

突然、珠稀が呆けた様に立ち止まる。しばらく考えた後、目を泳がせながら伸太郎の方に向き直る。
「え~っと、シンちゃん……何か用事が?」
「あ、母さん、これ、この内容読んでほしいんだ、わかる? 急ぎなんだ!」

杜里家の蔵にあった、魔力を感じる説明図や古文書などを玄関の床に広げていく。それを見た珠稀はお宝を見つけたかのように食い入るように古文書を読み始める。

「……これは」

古文書を読み始め、没頭し始める珠稀に灰色の猫が思考伝達の魔法で語りかける。
(杜里の家にあったこの地を縛るなにかしらの封印ね。その娘がそそのかされて色々とやっちゃったみたいなの。外に出現した妖魔はそれが原因の可能性が高いニャ)
「今回の事……ああ……こちらの解読が先……わかったわ。ちょっとまってて。あ、あなた達は……その、部屋にでも行っておきなさい。これくらいだったら直ぐに読めるわ」

古文書を予想以上にスラスラと呼んでいる珠稀に伸太郎は驚きを隠せなかった。
「……母さん凄かったんだな……」
「これが読めるんですね……すごい」

「……あ、そうね、読めるわね……」
(図案から大体理解しているニャ、その二枚めとその図が書かれたやつを重点的に翻訳してほしいニャ)
「ああ、そうなの……なるほど……」

珠稀はその場で広げられた古文書を片っ端から読み始める。集中している母親を置いて二人は作戦会議のため伸太郎の部屋へと上がる。二階の窓から外を見ると、救急車や警察がサイレンを鳴らして行き来し、いたるところで煙のようなものが上がっているのが見えた。

「凄い騒ぎになってるね……黒い妖魔のせいかな?」
「交通事故を引き起こしてるのかな、なんか変な空……中央公園方面だな」

二人は今まで見たこともない様な街の異様な雰囲気に不安と恐怖を感じて動けないでいた。

◆◆◆

暫くすると灰色の猫が音もなく伸太郎の部屋へと入ってくる。それに気がついた伸太郎が話しかける。

「アシュレイ、俺たちどうすれば良いんだ?」
「……珠稀が解読している間に今後のことを決めないとだめね……選択肢があるニャ」
「選択肢?」
「そうニャ、残念ながら全部がハッピーにはならないニャ」
「それって……」

伸太郎と聖が顔を見合わせた後、不安そうな顔で灰色の猫を見つめる。視線が集まり落ち着いたのを見て灰色の猫は丁寧に説明を始める。

「まず、選択肢の一つ、白黒の石に蛇を封印し直す。これは珠稀が読んでいる古文書に書いてあるから出来る可能性が高いニャ。だけど……膨れ上がってこの街に集まった膨大な呪いの力を封印しきれない場合があるニャ」

「それって、封印しても元に戻れないって事?」
「そうニャ。どちらにしろ、蛇の呪いで起きることが先に延ばされるだけニャ。封印しきれんかった溢れた呪いは……伸太郎と聖にまとめて返ってきて……二人が強く呪われる。もしくは呪いに殺される可能性が高いニャ」
「……え? マジか……」
「ちょ、ちょっと待って、私が白黒の石を部屋に持ってきたから? そのせいで?」
「聖だけのせいではないニャ……色々な事情が絡み合った結果ニャ」

「その選択をすると……いや、その選択肢は無いでしょ? 誰もが不幸になるよ」
「いや、不幸になるのはお主様と聖だけニャ。今、街で被害にあってる人たちは助かるニャ」
「……まじか……」
「……そんな……」

「この場合はお主様の願いの力がどれだけあるかにかかっているニャ。だけど、お主様の願いの力の量が未知数なのと、私の守りの魔法に変換したとして、持つのは何年か……数か月かもしれない……守りの魔法がどれほどもつかはやってみないとわからないニャ」
「要するに……アシュレイがずっと居てくれないとダメってことか」
「そうだニャ」

「願いの力って……量があるの?」
「それすらわからないニャ。現在検証中だニャ」

伸太郎と聖は不安になりどうしたものか迷っている様子だった。
灰色の猫が伸太郎の勉強机に飛び上がり外を見ながら次の選択肢を言う。

「それで次の選択肢ニャ。蛇や黒い妖魔をまとめて消し去るか、封印されていた石を破壊することニャ」

「え? 出来るのか?」
「……白蛇様も?」
「文字通り全部消し去ることは可能ニャ。だけどこの手段を取ると、行き場のなくなった呪いや封印の魔力などが聖に返ってきて……」
「……今度は聖だけが……死ぬのか?」
「……そんな……」
「可能性は高いニャ。これが一番簡単な方法だんだけど……」
「……わかってるだろ、俺はそれを願わないよ……」
「ありがとう……伸君……」

その場にいる全員が理解しきるのを待つためか、一瞬間を置いてから灰色の猫が話し出す。

「最後の選択肢ニャ……適度に呪いや妖魔を浄化して、呪いの根源を絶つ方法ニャ」
「それは……その方法なら誰も死なないのか?」
「死にはしない……だけど……」
「だけど?」
「……なんかあるのね……」

言いつぐむ灰色の猫の様子を見て何かしらを察した二人。しばらく静寂が部屋をつつむ。沈黙の中、急いで階段を駆け上がる足音がしたと思うとドアを開けて珠稀が入ってくる。

「聖ちゃん、石、陰陽の蛇の封印の石を開放……えっと、白と黒の石の周りにある、囲んだ石を祭壇からずらしちゃったの?」
「え?」
「どういうこと?」

珠稀が聖ににじり寄り、図案が書かれた古文書を広げて解説をする。後ろから灰色の猫と伸太朗が説明を見ようとする。

「ほら、この図の、こんな石がこの配列で置かれていたはずなんだけど……これは杜里家の血……玄武の……蛇の守護霊を見張る力って書いてあるけど、それが無いと動かせないって書いてあるの」
「……あ、多分……それ……私が動かしました……」
「やっぱり……それで今度はこれ……この白黒の宝玉が違う場所の封印になっていて……これを破壊すると……街全体の護りの一つが消えちゃうみたいな感じ……みたい」
「街全体の守りって……あそこに見える黒い蛇みたいのが……そこらじゅうから出てくるってこと?」

伸太郎の言葉に全員が窓の外を向く。そこには数メートルはありそうな黒い触手のようなものが大量に移動しているのが見えた。

「そうね……あれね……二人共見えてるのね……」

珠稀は状況が整理しきれないようで思考が停止してしまうが、彼女の頭の中に声が響いた様で灰色の猫を見ると冷静さを取り戻す。一方、聖は大量の黒い触手の姿を見て狼狽して目に涙が浮かび始める。

「私が……石を動かしたせいで……私が願い事をしたせいで……」
「……聖……」

伸太郎が聖を心配して声をかけようとするが、なんと言っていいかわからない様子だった。すると聖だけが突然ビクッと震えあたりを見回す。

(助けて……聖……中央神殿の護りが危ない……この男に……)
「え? 声が聞こえる??蛇神様?」

(聖。中央神殿に行きなさい。全てはそこで解決する……)
「え? この声……蛇神様が中央神殿……」
「聖ちゃん?」
「蛇の声か?」

突然、聖がなにかに反応して独り言を言っているように見えたので、その場にいた二人は動揺していた。二人には声が聞こえないようだった。

(ダメ……石を壊させては……こっちにきてはダメ……)
(聖だけが頼りだ……)

聖は珠稀が持っていた古文書を奪うように受け取り、スマホと見比べながら現在の地図と比較し場所の特定をする。

「どうした!?聖?」
「中央神殿……お社のある中央公園の事ね……私、行かなきゃ! 蛇神様が助けを呼んでるの! 石を取り戻さきゃ!」
「え?」
「あ、聖……ちょっと……」

静止をしようとする二人を無視して聖が急いで階段を駆け下り家を飛び出して行ってしまう。

「ああ、もう! 相変わらずせっかちな子ね……伸太郎は家から出ないで! あれに巻き込まれるわ!」
「え? 俺も行くよ!」
「だめよ! あなたは「あれ」に食べられるから! 絶対に家にいて!」

珠稀の剣幕に押されて伸太郎は追いかけるのをためらってしまう。珠稀はそのまま階段を駆け下り、聖の後を追う。
伸太郎は珠稀の言ったことの内容を理解し、しばらく考え込んでしまう。

(食べられるって……やっぱり母さんなにか知ってる感じか……どうなってんだ?)

傍らにいた灰色の猫は窓の近くまで飛び上がり外の様子を見る。それを見ていた伸太郎は若干平静を取り戻す。

「……なぁ。俺が願う事って、聖みたいに何かを引き起こしたりしていないの?」
「今回のことに関しては「ある」……わね。聖の願い……おそらく……呪いを返してしまったのだから……」
「……呪いだったのか……俺の願いをやめれば……全部丸く収まるの?」
「う~ん。今度は街中にある悪いモノが一気にお主様に降り掛かってくる可能性が高いニャ。それに私が使命を果たせなくなってしまうニャ。どちらにしろ、蛇の石を元に戻さなければ、この状況は変わらないニャ」

灰色の猫はどうしたものかと外を見ながら尻尾を左右にゆらゆらと振る。

「最後の選択肢……言いそびれていたニャ」
「呪いを浄化して、呪いを弱らせてから蛇神様を封印……ってやつだね……それならなんとかなるんじゃないの?」

灰色の猫は伸太朗をみつめながら言いにくそうに話し始める。

「……話には続きがあるニャ……弱らせた後、今回の蛇神に願った願いを消す事だニャ」
「願いを消す……願いって消えるのか?」

伸太郎は深く考えこむ。しばらくすると何かの考えに至った様で灰色の猫を凝視する。

「もしかして、記憶を消す……のか?」
「そうニャ。誰もハッピーになれない。そう言ったニャ」
「……って事は……聖が……俺の事を……忘れるって事か……」
「……そうニャ……それだけでなく、街全体、縁者……関係ある人の記憶を消させてもらうニャ」
 
伸太郎は信じられないといった表情になり、天を仰ぐ。顔に手を当てしばらく考え事をした後、灰色の猫に震える声で質問をする。

「他に、他に方法は……方法はないのか?」
「無いニャ……あの様子だと聖と蛇神とやらはもう魔力が魂同士で繋がっている。それを断ち切るには繋がりの根源、「願い」を辞めるか……願うことをやめられないのならば、記憶自体を無くす必要があるニャ……」

「……そう……か……」

伸太郎はベッドに仰向けに寝転んで顔に腕を当てて考える……

「お主様、そろそろ行かないとこの街が危険だニャ」
「……俺も行くのか……そうだよな……」
「今の私だけの力じゃとてもじゃないが力が足りないニャ、お主様の覚悟と願いの力が必要ニャ」
「……覚悟……って言ってもな……聖が……俺の事を忘れちゃうんだろ……」
「そうニャ……聖の命とどちらが大事ニャ……」
「わかってる。わかってるんだけど……わかってるんだけどさ……」

「……初恋は実らないものニャ」
「……どっかで聞いた話だな……」

伸太郎はベッドから飛び起きると窓の外を眺める。

「なぁ……記憶を消した後……また……普通に話したり……また二人で……」
「どうなるか分からないから、しないことをオススメするニャ。今回は聖が諦めない限り、お主様に関連する記憶を完全にまるごと消す予定ニャ」
「……赤の他人になっちゃうって事か……」

伸太郎はスマホを開いて、ついこの間初めて二人きりで撮影した写真を見る。お互いの若干照れた感じの笑顔が眩しかった。

「行くよ……聖が死ぬなんて……そっちのほうが遥かに嫌だ」
「わかったニャ。どうやら結構ピンチみたいニャ」
「急ごう」

伸太郎は迷いながらも覚悟を決めたようで、階段を駆け下りて家を飛び出す。それに追従して灰色の猫が壁の上や屋根の上を飛ぶように走っていく。


◆◆◆

特殊対策課の二人は中央公園の近くまで来ていた。あたりは交通事故で激突した自動車や、突然、目に見えない「黒いナニカ」に吹き飛ばされて怪我をした人がいたりして騒然となっていた。二人は遠くからサイレンを鳴らして近づいてくる緊急車両を押しのけるように逃げる人をかき分けながら原因らしきものに向けて移動を続ける。

「まるでテロでもあっみたいっすね」
「こんな昼間からでる妖なんてあまりいないからな……こんな騒ぎは初めてだ」
「妖なんですかね、なんかもっと凄いものに見えるんすけど」
「同感だ。食い止めるくらいをして……撤退だ」
「了解っす」

撤退の言葉を聞いてテンションが上がった丹地の手から御札が鳥の様に飛んでいき、黒い触手に張り付くと煙のように消え去って行く。が、かなり多数の触手が追加で出てくるため焼け石に水の状態だった。
丹地はあまりの数に一瞬怯んだ瞬間に、丹地の後ろから中央神殿の方向に向けて白い紙の蝶の群れの様な物が飛んでいく。白い蝶が移動した先では黒い触手が一気に煙のように消えていく。丹地が何事かと振り返るとそこにはリュックを背負ったジャージ姿の女子小学生、紡希が御札を両手に構えた状態で立っていた。

「あれ、お姉さん同業者? 見たこと無い人ね」
「……え?」

丹地が呆気にとられてしまう間に紡希が呪符を投げる。呪符は蝶の様に舞って近くの黒い触手に張り付き、黒い触手が煙のように消えていく。丹地は小学生女子の手慣れた手つきを見て呆然とする。

「まだ小さいのに……すごいっすね……あれ? ……いつのまに」

紡希の援護で心に余裕が出てきた丹地が周りを見回すと、至る所に黒い触手を消し去っている人間が集結している感じだった。

「地元警察で見たやつらも来ているな……話が通じやすいわけだ」

榊が目の前の黒い触手を消し去りながら呟く。黒い触手を剣や槍や薙刀で薙ぎ払うものや、弓矢で黒い触手を射るもの、手に呪符を巻き付け直接殴る蹴るをして祓っていく……等、肉弾戦でなんとかする人間もいるように見える。

「どうやったら、キックパンチでこれを祓おうと思うんですかね……」
「まったくだ……」

丹地が呆れた感じで眼の前の黒い触手を御札を投げて祓って行く。近くで黒い触手を祓っていた警察官が誤って触手に触れて一瞬で気絶して、崩れるように倒れるのを目にする。

「近づいたらああなるっすよね、フツー」
「凄まじい体術だ……全部かわしている……」

乱戦になっていく中、紡希が一人の少女が黒い触手を縫うように中央公園の丘に向かって走り抜けていくのを発見する。そのすぐ後ろを珠稀が聖を守るように黒い触手を引き付けたり拳に貼り付けた呪具で払い除けながら追従していた。

「あ、聖ちゃん……やっぱり見えてたんだ ……」

紡希は聖が妖が見えている事はわかっていたようだったが、どう見ても払う力がない聖と、かなり切羽詰まった表情の母親を心配して紡希は急いで聖達に近づいていく。紡希の目には聖の体を纏うなにかしらの強い力が発せられているのが映っていた。彼女はそれに気がつき強い違和感を感じていた。
紡希が二人を追いかけていると、聖を追う様に黒い触手が公園の一方に集まって絡み合って結合していく。

「え、ちょっと大きくなりすぎじゃない……」

紡希は聖との間に目の前にそそり立つ壁の様に立ちはだかる黒い触手を前に愕然としてしまう。先程までは手持ちの御札を投げるだけで退散していた黒い触手もどきだったが、それに比べるとあまりの大きさに御札を投げるのをためらってしまった。紡希の注意力が落ちたその瞬間、足元からでてきた別の黒い触手に足を絡め取られてしまう。

「え? あ! しまった!」

黒い触手が絡まった瞬間、紡希の体の周囲に白い電気のような物が放出され黒い触手がのたうつ感じで距離を取る。紡希は黒い触手の影響を全く受けなかった。

「え? これは……猫ちゃんの魔法かな?」
「紡希! 避けろ!!」
「え?! なっ?!」

紡希は男性の声に反応し周りを見て逃げようとする。が、それよりも早く紡希の体を噛み砕く様に、黒い触手が二つに分かれ口を開いた蛇の様に牙を見せながら獲物を食らうかのように大きく開いていた。

◆◆◆

杜里聖は走っていた。周りが大変なことになっているのを見て持てる力を持って全力で走っていた。彼女の体は灰色の猫の魔法に守られてうっすらと光り輝いていた。

(みんな、みんなごめんなさい。私のせいで……私のせいでこんな……)

聖の目には見えていた。白黒の石の場所が、白い蛇と黒い蛇が出ている石の場所が。彼女から流れる魔力のようなものが聖を導いているかのようだった。

(止めないと、あれを奪い返さないと!)

聖はつんのめり、転びながらも、黒い触手を避けて壁にぶつかりながらもかなりの速度を持って中央神殿へと走っていく。その体には灰色の猫から教わった魔力が流れているようだった。

(あれを取り返さないと……伸君が死んじゃう……そんなの嫌だ!)


◆◆◆

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