第154話 秘密の通路
「なんか便利すぎますね、アイクさんのスキル。いや、今さらなんですけどね」
「本当に今さらだな。まぁ、結構便利ではあるよな。うん、かなり」
俺たちは【催眠】をかけたアングラマウスに先導してもらって、アングラマウスたちのリーダーの所に案内をしてもらっていた。
大勢いた魔物の群れは、興奮状態であったことがあだとなったのか、少し同士討ちをさせたら、そのまま仲間割れをして壊滅状態になった。
まぁ、それも【道化師】のスキルあってのことなんだけどな。
目の前を歩くアングラマウスの脚は所々肥大化したような跡があった。自然に育ったとは思ないほど膨れ上がった筋肉は少し痛々しく、俺はそこから目を逸らしてしまっていた。
アングラマウスはしばらくダンジョンの下層を目指していたのだが、やがて細くなった道を選んで進むようになった。
最下層まで向かうのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
アングラマウスに案内してもらわなかったら、最下層まで行ってもただの空振りになっていたことだろう。
「あれ? アイクさん、行き止まりじゃないですか?」
「本当だ。ん? どういうことだ?」
俺たちが進む先には、ダンジョンの壁が広がっているだけで、その先に道は続いていなかった。
分かりやすい袋小路。それだというのに、アングラマウスはそれを気にする素振りなく、そのまま壁に向かって歩いていった。
道を間違えているのなら、引き返すだろうし、【催眠】の効果が切れていない状態で、急に俺たちに歯向かってくるようなことはないだろう。
リリと顔を見合わせてはみるが、当然その答えが分かるはずがない。
アングラマウスはそのまま壁の近くに立つと、鼻をひくひくっとさせた後に、鼻の先でその壁を押そうとしていた。
しかし、鼻の先でいくら押してもその壁は動くことはなかった。というか、鼻の先は壁に届かずに、何もないはずの空間に押しつぶされていた。
「そこは……罠が仕掛けられている場所だよな?」
このダンジョンに来る前に手に入れた【罠感知】のスキル。ちょうど、その【罠感知】が反応している場所を、アングラマウスはぐいぐいっと押していた。
「はい。なので、結界を張ったんですけど」
どうやら、そこに罠が張られたことに気づいたリリは、そこに結界を張って俺たちが誤ってそれに触らないようにしてくれていたらしい。
アングラマウスの鼻の先が潰れているのも、リリの結界を必死に押そうとしているからだろう。
いつかそれに気づいて押すのをやめるだろうと思っていたのだが、アングラマウスは全く諦めようとしなかった。
まるで、ここから先に進むためには必要なギミックなのだと言うかのように。
「……リリ、結界を解除してくれ」
「え? いいんですか?」
俺の言葉を聞いて、リリは目を丸くして驚いていた。
確かに、そこには罠がある。それを押させようというのだから、当然そんな反応にもなるだろう。
「罠があるのは分かるんだが、これだけアングラマウスが押そうとしているってことは、この罠が何かのギミックになっている可能性がある」
「ギミックですか。……分かりました」
「リリもポチも気をつけおいてくれ。正直、何が起こるのかは分からないからな」
ただの直感で罠に自ら掛る。危険な方法ではあるが、その方法以外にこの先に進むことはできないだろう。
リリとポチと顔を見合わせて確認を取ったのち、俺はいくつかのスキルを使用して万が一に備えた。
少し緊張した面持ちでリリが結界を解くと、アングラマウスの鼻先が壁に仕掛けてあった罠を押した。
その瞬間、目の前にあった壁が音を立てて動き始めた。そして、その罠の場所を中心にして切れ目が入っていき、その切れ目に合わせて徐々にその壁は横に広がっていった。
そして、袋小路だったはずの道に新たな道が現れた。
ダンジョンの床とは別の色をした地面は、所々砂利が混じっていて、ダンジョンというにしては荒々しい道をしていた。
魔物が作ったというにしては整いすぎていて、人工的に開けたにしては荒々しい穴。
まるで、ダンジョンの壁に無理やり穴を開けて、何かから逃げるために、急いで隠れ家でも作ったかのような荒さ。
「これって……」
「ギミックを罠に偽装してたってことか。当然、魔物の仕業ではないんだろうな」
何かから隠れながら、魔物を強化させるリーダーの存在。
きな臭さが増してきた今回の依頼は、ただのA級パーティの捜索依頼だけで終わるような気がしなくなっていた。