第152話 違和感のある魔物達
ミノラルよりも魔物が活発的なエルシルという街で、俺たちは行方が分からなくなったA級の冒険者パーティの捜索をするため、ダンジョンに潜り込んでいた。
リリの結界魔法のおかげもあってか、不慣れなダンジョンだというのに、想像よりもスムーズにダンジョンの攻略をすることができていた。
まぁ、ただ下層に進むだけが攻略とは言えないだろうけども。
少しの違和感を抱きながらダンジョン内を進んでいく中で、俺たちが抱いている違和感はさらに強いものへと変わっていった。
そして、そのダンジョン内で俺たちは魔物からの襲撃を受けている最中だった。
「きゃんっ!」
「【投てき】」
こちらに全力で突っ込んでくるアングラマウスの群れ。ポチがそれに対応しようとして、地面を強く叩いて、地面から突き出てきた氷柱が三体のアングラマウスを突き刺した。
俺はその氷柱の間を目がけて、後方にいた二体のアングラマウスに当たるように、【投てき】のスキルを使用して、投げナイフを投げつけた。
すこんっという音を立てながら、頭に突き刺さったナイフ、そのままお尻の方から抜けていき、ダンジョン内の壁に勢いよく刺さった。
「ぎゅぴぃっ!!」
悲鳴を上げながら氷柱に刺されたり、投げナイフで頭を貫かれたりしたアングラマウスは、俺たちの目の前に来るより前にその場に倒れていた。
「きゅぴっ、ぎゅぎゅっ!!」
しかし、その生命力は驚くものがあり、急所を貫かれているはずなのに、こちらに向かってこようとする闘志は健在だった。
こちらに睨みを利かせて、歯をガチガチと鳴らしている様は、下手に近づいたらそのまま噛み千切られそうな勢いがあった。
「やっぱり、何かおかしいよな」
その場に倒れているアングラマウスは、ダンジョンの入り口付近で出会った奴らとは基本的な戦闘能力が違う。
何がそうさせているのか確かめようと、アングラマウスの動きが完全に止まってから、少し近づいてその様子を観察して見ることにした。
「……ん? アングラマウスって、こんなに脚太かったっけ?」
「あれ? 本当ですね、やけにムキムキな気がします」
倒れているアングラマウスは、先程まで俺たちに突っ込んでこようとしていたものだ。当然、その速度を維持するためにはそれだけの筋肉が必要になる。
ただその速度を維持するための筋肉は、アングラマウスにあるはずがない筋肉量だった。
「それに、ここまで不均等に筋肉がつくものなのか?」
四本の手足に全て均等に筋肉が付いているのなら、個体差として片付けることもできるだろう。
ただ目の前にいるアングラマウスは、左右前後で脚の筋肉の付き方がバラバラだった。自然に生活をしていて、こんなに筋肉の付き方に偏りが出るものなのだろうか?
「何か人工的に……いや、そんなの聞いたことないぞ」
いや、それ以前に魔物を強化なんてさせて何の意味があるんだ?
テイマーとかだったら、分からないことはないけれども、それでもこんな雑な強化の仕方はしないはずだ。
そうなると、何か他に目的があるのだろうか?
「ん? また何か来るな」
俺たちが倒れたアングラマウスを観察していると、すぐに別の気配が俺たちに向かって走ってきていた。
【気配感知】に反応がある気配。それが何であるのかはすぐに分かったのだが、その正体も俺が知っているそれとは別物だった。
「私がやりますね」
「いや、ここは俺に任せてくれ」
右手を伸ばしたリリの手をそっと下ろさせて、俺はリリの前に立った。そして、こちらに突っ込んでくる勢いに合わせて、そいつに向かって手の先を向けた。
「【影支配】」
俺がそのスキルを使用すると、魔法によって照らされている俺の影が溶けて、薄暗いダンジョンの壁の影などと溶け合った。
俺よりも一回り以上大きな体に、深緑色をした体。二足歩行での移動から察するに、その魔物が何なのかはすぐに分かった。
そして、すぐにこちらに突っ込んできた影をめがけて、ダンジョンの壁に伸びていた影が一気にその巨体を陰で縛り上げて、そのまま地面に強く叩きつけた。
「グォォ!!」
突っ込んできた勢いのまま地面に叩きつけられたその魔物は、砂ぼこりと共にそんな悲鳴を漏らしていた。
「……オークですか?」
「多分な」
地面に叩きつけられた深緑色をした人型の魔物は、動けるはずがないのに力を入れてその影を振り払うとしていた。
膨れ上がる筋肉は普通のオークを軽く凌駕しており、闘志の消えていない目はまだ敗北を認めていなかった。
「さすがに、【影支配】を振り払うほどの力はないよな。……A級パーティがやられるほどの魔物でもないか」
どれだけの力がある魔物なのか見ようとしたのだが、オークは【影支配】に対して抵抗を示すだけでびくともしていなかった。
さすがに、この魔物相手にA級パーティが全滅することはないか。
俺はそう結論付けると、影で縛ったままオークの体を起こして四つん這いにさせた。
無駄にスキルを使う必要もないだろうと思った俺は、そのまま短剣引き抜いて、何事もなかったかのようにその首を落した。
何かA級の冒険者たちを屠るほどの魔物達がいるのではないか。そんな疑惑は深い階層に行けば行くほど、強くなっていった。