4話 転職
転職と言っても、乙葉は何もできないと自信もなく、なかなか決まらなかった。そこで、副社長と一緒に行動していた頃にお伺いした、社長などを訪問し、その秘書をさせてもらえないかとお願いに回った。
そのうちの、昔、1回会ったことがある菊澤興業の社長がいいよと言ってくれたので、今の会社に辞職届を出した。でも、結局、秘書になると、副社長の時と同じように、社長に常に同行させられ、海外や地方に行くと、ホテルで夜の相手をさせられた。
私って、結局、これしかできないのね。ホステスみたいだと思っていたら、そうだ、どうせホステスみたいだったら、ホステスになるっていうのはどうなのと閃いた。
乙葉は、次の会社も辞め、銀座のクラブに行き、ホステスとして働き始めた。副社長とか社長とかのお供をしてきたので、ランクが高いおじさんのお供の経験は豊富で、かなり人気は出た。年齢も30近くだったので、VIP対応として位置付けられ、ライバルとの競争とか意識せずに、のんびりと、上品な社長などの対応をすることを専業とした。
夕方は外で待ち合わせ、お寿司とか一緒に食事してから、お店に向かう。そして1時間ぐらい一緒にお話をして、時には、事業拡大についての意見を聞かれ、こんなのはどうとか話しながら、11時ごろには車をお見送りというのが日課だった。お店も、美しく、スタイルがいいからと金払いがいいおじさん達に人気の乙葉には、厳しいことを言わず、やりたいようにやらせていた。
お客の中には、今度、ノルウェイに出張で行くけど、秘書としてついてきてくれとか要望が来て、英語はペラペラ話せるから、同行するという仕事も増えてきた。
最近は、その延長で、秘書専門の高級会員制クラブの一員になって、いろいろな会社の役員の海外出張に同行している。秘書として一緒に現地の会社を訪問して、通訳もするという感じで、秘書という役割が多いけど、奥様を演じてくれと言われることもある。
そんな役員とかは、多くの場合、自由時間に観光したりするので、マドリードで一流のフラメンコショーに行ったり、成都で麻婆豆腐を食べたりとか、現地ならでわの楽しみを味わった。ショーとか、レストランとか、行きたいところ選んでと言われることが多いので、それを探すのは楽しい。もちろん、夜のお勤めは必須だったけど。
話しが変わるけど、子犬を飼おうと思ったこともあった。でも、頻繁に海外に行き、1週間とか留守にするし、預ける友達もいなかったから諦めた。
お金はそれなりに貯まり、タワマンの1室で暮らせるようになったけど、これって幸せということなの? もともと、どんな人生をしたかったんだろう?
男性の時もあまり考えていなかったけど、会社の社長になってやるとか、家族を持つとか漠然と考えていた。でも、気がついたら女性になっていて、これからどんな人生を暮らしたいか全くイメージができない。
結婚したい? それは、ここまでくると無理ね。おじいさんの後妻ぐらいだったらできると思うけど、同年齢の男性からは、嫌われそうな職業だしね。子供が欲しい? ずっとピル飲んでいるからか、そんな気分でもない。このまま、おばさんになって1人で暮らす? それも自由でいいけど、高級秘書を演じるって、いつまでできるかわからないし。
女は見た目だと思っていたので、老婆には、美人でグラマーな女性にしてと言ったけど、今から見ると、それで得したことはなかった。逆に、それだから、副社長とかに目をつけられて、こんな不幸な人生になっちゃったのかもしれない。なんの特徴もない見た目でも、結婚して幸せに暮らしてるって人って、たくさんいるし。
最近、バストとかお尻とか垂れ気味なので、エステとか行って、それなりにお金を使ってるけど、それがしたいということでもない。なんか、女性になって、1つもいいことがない。なんで、占い師に、あんなこと言っちゃったんだろう。男性のままだったら、今頃、幸せに生きていたんじゃないか。