34.一時の別れ
「ご当主様。シェレイザ家の皆さん。それから、リピト家のおふたりも。どうもお世話になりました」
「ました!」
ぺこりと頭を下げたふたりの神族。一方は金色の髪に青い瞳を持つ女性、シアナ・セラフィーユ。そしてもう一方は漆黒の髪に彼女と同じ青い瞳を持つ少女、リレイヌ・セラフィーユ。
彼女らの小さな感謝に、シェレイザ家並びにリピト家の者は気にするなというように首を横に振る。
「これからがきっと大変じゃろうて。わしらは常にお主らの味方じゃけえの。迷ったり、疲れたりしたら、いつでもココに戻ってきんさい」
「ありがとうございます、ご当主様。ほら、リレイヌも」
「ありがとうございます!」
「ほっほっ、良い良い」
ほんわかと話す彼らに、リピト家の操手がグズりと涙を啜った。「別れってのぁ辛いもんですねぇ」と嘆く彼をシラッとした目で見ながら、リックは腕を組んで口を引き結ぶ。こういう時なんて言えばいいのか。幼い彼には分からなかった。
「リレイヌさまぁっ、また、また遊びに来てくださいねっ」
「泣くなよアジェラ。リレイヌが困るだろう?」
「だ、だってぇっ」
グシグシと涙を拭うアジェラを隣、睦月が頭の後ろで手を組み合わせながら「まー、あれだ」と口を開く。
「俺たちはいつでも、お前が帰ってくるの待ってるからさ。また気軽に来いよな」
「うん。ありがと、睦月」
「……そんだけ!」
ふいっと顔を背けた彼に笑いをひとつ。リオルが「リレイヌ」と優しく少女の名を口にする。
「何かあったらすぐ頼って。ココもまた、君の家だから。ね?」
「……うん」
はにかむように笑って頷いたリレイヌは、そこでシアナを見た。シアナはその視線を受け柔らかに微笑むと、今一度、優雅に頭を下げてから小さな彼女のその手を握る。
「行こう、リレイヌ」
「うん!」
少女と母親が、静かにその場を去っていく。それを見送るシェレイザ家の人間の中、リックはひとり、眉を寄せて下を向いていた。