31.村の終わり
その日、ひとつの村に衝撃が走った。
やって来た馬車から降りてきた、ふたりの名家の人間に、誰もが言葉をなくして瞠目する。
「シアナ・セラフィーユとその夫、ヘリート・シェレイザを回収に来ました」
にこやかにそう告げたのは、リピト家の当主、リック・A・リピト。整った顔に貼り付けられた笑みは無邪気なのにどこか恐ろしいく、村の長であるウィリアムは思わず冷や汗を流して彼を見る。
「り、リピトさまっ!? これは一体、どういうことで……っ」
「どういうこと? 今し方目的は言ったはずですが? シアナ・セラフィーユとその夫、ヘリート・シェレイザを回収に来ました、と……」
「ち、ちがっ! 聞きたいのはそういうことではなくっ! なぜリピト様がシェレイザ家と共にいるのかで……!!!」
「……友人だからですが?」
「へ?」
ポカンとするウィリアムを前、クスリ、とリオルが後ろで笑ったのを耳にしてから、リックはこほん、と咳払いをしてみせた。
そうしてにこーっと笑みを浮かべる彼に、ウィリアムはひくりと口端を引き攣らせる。
そんなウィリアムを確認したシェレイザ家当主は、口髭を撫でながら「まあ、なんじゃ」と一言。のんびりと言葉を口にする。
「リピト家の当主とシェレイザ家の当主がわざわざ揃って出向いたんじゃ。この意味がわからんバカは、この村にはおらんじゃろうて」
「で、ですが、なぜ、そんな……」
「そもそも、ヒトが神族に手を出すことが間違いじゃった。そうではないかの? ん? ウィリアム・パレートよ」
「あ、あ……」
地に膝をついた村の長。そんな長を見て震え上がる村人たち。
「終わりだ……」、「神の祟りだ……」。そう宣う彼らを無視し、リックとリオルは使用人にヘリートとシアナの回収をお願いした。頷いた使用人たちは、急ぎその場を駆け出していく。
「リレイヌ、君も」
「う、うん……」
馬車をおりたリレイヌが、「あちらに居ました!」と叫ぶアジェラを見て、一度視線を村の長へ。すぐに顔を背けると、フードを深く被り直してから睦月と共に駆けていく。
「さあウィリアム殿。貴方にはこれからのことを決めてもらわなければなりませんので、少しお話し合いでもしましょうかね」
楽しげなリオルの言葉に、ウィリアムは絶望に顔を染めた。けれど、逃げ場などどこにも無くて、彼は結局、小さな名家の当主たちに従うしかないのであった……。