101 マナトの家②
マナトは棚から、ナンと細かく刻んだチーズ、小粒の果物、火のマナ石をいくつか取り出してきた。
「こっちの食事は慣れたか?」
「いやぁ、正直、めっちゃおいしいよ」
火のマナ石を、台所に並べる。その横には、予めお皿と水壷が置かれていた。
――ボッ。
マナ石に火が灯る。その上で、マナトはナンと、その上に振りかけたチーズを焼き始めた。
――シュルシュルシュル……。
台所に置かれていた水壷から水流が出てきた。
「おぉ、効率いいね〜」
マナトがナンを焼く隣で水流が巡り、皿の上に置かれた小粒の果物がキレイに洗われている。
「その能力、ホントに便利だよな〜」
ラクトは関心しながら、マナトの調理風景を見ていた。
マナトはマナを取り込むことで、水を自在に操る能力者になっていた。
「いやぁ、時短になって助かるよ」
程なくして、マナトが2つのお皿を持って、絨毯に上がってきた。
「これ、ナンのチーズ乗せ。アクス王国の広場に隣接してたお店で出ていた料理を再現してみたんだよね。あと、果物を少々」
「サンキュー!……うんめぇな!これ」
にゅ〜んと焼けたチーズが伸びる。チーズの香ばしい風味と味がナンととても合う。
「ムグムグ……うん!やっぱり、これ、美味しいよね。僕もハマっちゃったんだ」
マナトも美味しそうにナンをほおばった。
ラクトは改めて、マナトの部屋を見渡した。
部屋の端、書きものをする用の机の上には、紙と筆、また何冊かの書物が乱雑に置かれている。
マナトは前の世界では、ヤスリブ文字を使用しておらず、現在、書物や伝報を読んだりして、読めるように勉強しているのだという。
また、部屋の壁には、アクス王国でウテナにチョイスしてもらった、幾何学模様の肩掛けが飾られていた。大切にしていることが伺われる。
なんというか、マナトのしている一人暮らしがとても楽しそうに、ラクトには見えた。
「いいよなぁ、一人暮らし。どっか空いてる住居、ねえかな。俺も、長老にお願いして、一人暮らしさせてもらおっかな〜」
「いやでも、洗濯とか、掃除とか、全部、自分でやらないといけないから、実家があるんなら、やっぱりそっちのほうが楽って、僕は思うよ」
「そうかぁ?他の家がどうかは分からないけど、俺んちはもう、ウチにいるだけで、仕事させられるんだぜ?」
「あはは、なるほどね」
マナトは小粒の果物を食べると、言った。
「こういうの、ないものねだりってヤツだよね、僕もラクトも」
「フフっ、確かにな」
ラクトとマナトは笑い合った。
「マナト、今日の予定は?」
「ん〜、今日は特にないんだけど……でも、今日は確か、村の交易会議があるって、長老が確か言っていて、まあ、まだ僕らは出なくていいらしいんだけど、特に何もないなら、出てみようかなって」