97 オアシス/砂時計②
※ ※ ※
――モゾモゾ。
「う……うん?」
胸元に気配を感じたマナトは、目を覚ました。
ケントと交代したマナトは再びスナネコを抱いて寝に入っていたが、そのスナネコが起き出してきていた。
……ネコは、夜行性だもんな。
ピョンッと、スナネコはマナトの寝袋から脱出すると、元気いっぱいといった様子でマナトの目の前を走り回った。
「……今って、誰が?」
ふとマナトは、誰が寝ずの番をしているのか気になり、周りを見渡した。
「ス~」
「……」
仰向けに行儀よく寝息を立てるミトと、横向きで顔があっち向いているラクトがいた。
「まさか、ケントさん、ずっと……?」
マナトは寝袋を出て、歩き出した。すると、スナネコもついてきた。
ラクダ達の休む垂れヤシの木の先、星空に照らされたケントが、石にぽつねんと座っていた。
――シュッ、シュッ。
砥石で、大剣の刃先を磨いている。
「ケントさん」
「んっ?おう、マナト。……おっ?」
――ニャッ。
マナトの後ろについてきていたスナネコに、ケントが気づいた。
「おう、そいつも起きてるのか。ミトとラクトより優秀だな、はっは!」
いつも通りの、ケントの低く落ち着いた笑い声が、静かなオアシスに響き、溶け込んだ。
「ケントさん、ずっと交代してないんじゃ……」
ケントの横に置かれてある砂時計の砂は、すでに下まで落ちきっていた。
「フフっ、まあな」
「そんな……次、ラクトですよね?起こして……」
「あぁ、いや、いいんだ、いいんだ」
ケントがマナトを制した。
「えっ?」
「なんといっても、お前ら、最初の交易だろ。何もかもが初めてだろうし、慣れてる俺より、ぜんぜん、負担も心労も大きいだろう」
「ま、まあ……」
「いいんだよ。俺だってそうだったんだ。最初から、途中からは俺が朝まで見張りやるって、決めてたから、はっは!」
「ケントさん……」
この、いざという時の、先輩の優しさ、強さ。
「僕も前にいた世界で、ケントさんのような先輩に出会っていれば……」
「んっ?なんか言ったか?」
「いえ、なんでも」
マナトは、一度引き返し、毛布を持ってケントのもとへ戻ってきた。
「……少し、お供させてください。このコも、元気いっぱいですし」
スナネコが、マナトの周りを楽しそうにぐるぐる回っている。
「ああ。でも、いつでも寝ていいからな」
再び、ケントは大剣を研ぎ始めた。
※ ※ ※
朝焼けの、赤オレンジの光がのびて、オアシスの湖に映し出され、周りを明るく照らし出した。
「すみません……ケントさん」
ミトもラクトも、起きてすぐに、状況を理解したようだ。
「構わねえよ。それより、何もなくてよかったぜ。そんじゃ、ミト、寝袋を……」
ケントがてきぱきと指示を出す。
「マナト、ラクダ達を」
「はい!」
ラクダ達は、目の前で元気よく走り回るスナネコに興味津々で、スナネコを目で追っていた。
マナトはラクダ達を誘導し、垂れヤシの自然のテントから出させた。
すると、ピョコっと、ラクダの背中の空いているところに、スナネコが飛び乗った。
――ニャッ。
どうやら、このオアシスに、スナネコは一匹しかいなかったようだ。経緯は分からないが、ここで独り生き延びてきたのだろう。
ラクダ達も、スナネコを嫌がる気配はない。
そして、準備が完了したのを判断したケントが、力強く言った。
「よし!お前ら、胸張って帰るぞ!」