3話 企業買収の代案
彼が同期トップで課長に昇格し、事業拡大に向けたアライアンスを検討する部署に配属となった。社長への第一歩ね。私がいるから安心して羽ばたいて。
昇格祝いを2人でした後、ベットの中で、彼から、岩井システムズという会社は、優秀なシステムエンジニアが多いので買収するというのが、最初の会社からの指示なんだけど、どうしようかなと独り言を喋っていた。私から、その会社で不祥事とかあって、倒産しそうになったら、買収しなくても、社員をごっそり引き抜けるよねと話したら、そんな都合のいいことないだろうって苦笑いしていた。そんなことないよ。私がいるじゃない。
翌日、岩井システムズという会社のサーバーに入ると、オンラインショッピングのサイトをいくつか開発していて、その利用ユーザーの生データも保有していることがわかった。名前、住所、口座番号とか、結構、秘密レベルの高い個人情報じゃない。普通は、こんなデータ、開発会社が持っていないんだけど、それだけ管理が甘いってことね。これは使えるわ。
ビルに忍び込んだりすると、見つかるんじゃないかとハラハラするけど、ハッキングで、足跡を完璧に消せば、平静な気持ちで情報を盗み出せる。スリルを味わえないけど、雨が降ってきたから、傘をさして歩くようなもので、みんなも傘さしてるから、全く違和感はない。そんな感じかな。
でも、ハッキングしてる時って、ついつい、チョコレートとか甘いもの食べながらになっちゃう。太っちゃわないように気をつけないと。彼のために頑張って、ぶくぶく太って嫌われたら本末転倒だもんね。バストが大きくなるのはいいけど、二重あごとかなったら、もう生きていけないわ。そんなおばさんいるけど、あなたはイグアナなのとか言ってあげたい。いずれにしても、明日は絶食ね。
さて、この会社の社員メールから、お客さまの競合会社に、このデータを送り、その会社から、岩井システムズ社員の口座宛に200万円を送金することにした。
社員を選ぶため、岩井システムズの社内メールを見ていったら、情報システム部のある女性社員2人が仲良しで、別の女性をいじめてるじゃない。最初は、はぶろうと連絡し合っていただけだったけど、そのうち、請求書の金額で0を一つ増やしたものと差し替えておこうと相談してる。そんないじめのために、その女性は請求書の作成をミスったと上司から厳重注意を受けていた。可哀想じゃない。それだけじゃなくて、お茶に唾入れて出そうとかメールしているし、どこでも酷い女っているのね。
データを買い取る会社は、どうやって選んだかって。先日、ネットのLoCoGooのサイトでブラ買って、つけたら、糸がほつれていることを見つけた。返品したいといったら、開封し、つけた後の下着は返品できないって。粗悪品なんだからなんで返品できないんだって文句言ったんだけど、全く聞くそぶりも見せないって、ひどくない。こんな会社、潰れちゃえばいいのよ。そこで、ターゲットはLoCoGooにした。その営業部の社員情報を見ていたら、偶然、さっきの岩井システムズの女性社員のうち1人と高校で同じクラスの女性がいて、これで決まりっていう感じ。知り合い同士で作った計画と警察から言われたら、言い訳難しいものね。
岩井システムズの2人の女性社員の個人メールから、LoCoGooの、元同じクラスの女性社員の会社メールに個人データのファイルを送り、合わせてパスワードも別メールで送ってあげた。そして、LoCoGooの会社口座から、2人の女性社員に200万円を送金して終わり。簡単だわ。
そして、警察に匿名で告発メールを。自分、岩井システムズの社員だけど、お客様の個人情報を売って、金儲けしている社員がいるって。岩井システムズで虐められていた女社員のメールアドレスから送っておいた。あなたの仇をとってあげたわ。
1週間後ぐらいに、個人情報流出ってテレビのニュースで大騒ぎになり、社員が顧客の口座番号を売ったとか、連日、コメンテーターがひどい会社だと責め立てた。岩井システムズとLoCoGoo両社の社長は責任を取り退任、両社とも多額の損害賠償を請求され、ほとんどの社員は離れていった。
もちろん、彼のスマホは私の管理下にあるので、一番初めにニュースになった時に、ネットニュースを彼がすぐ見るようにポップアップを出しておいた。彼はぴーんときて、就職エージェントとタッグを組み、1週間で約8割の岩井システムズの社員の引き抜きに成功。これは社長表彰にもなり、彼は、着任早々に大手がらを得た。あなたは優秀だけど、それだけじゃ、ここまでいかないわ。これも、私がいるおかげよ。忘れないで。気づいていないと思うけど・・・。