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05.指切りの約束

 


「リレイヌー!」

 ブンブンと手を振り、駆けてくるふたりの少年。
 少女、リレイヌはそんな彼らを振り返ると、開け放たれた窓際で手を振りながらにこやかに笑った。

 あの日から、リオルと睦月はちょくちょく、というかほぼほぼ毎日、リレイヌを訪ねてこの小さな家までやって来ていた。ふたりは外に出られぬ彼女にとって、実に良き話し相手であった。

「昨日はお家のダンスパーティーが開かれてね。睦月ってば正装似合わなすぎて笑われててさ。僕も笑った」

「うるせえな! あんなカチッとしたカッコ慣れないんだから仕方ないだろ!」

「にしてもあれはねぇ」

 クスクスと笑うリオルに、憤慨したように睦月は怒る。「お前だって馬子にも衣装だろうが!」と吠える彼に、リオルは得意げに鼻を鳴らした。

「ああいうのは似合ってればいいんだよ」

「は、腹立つー!!!」

 騒ぐふたりに、リレイヌはクスリと笑う。
 楽しげなそれに、話していたふたりは自然と笑みをこぼした。

「リレイヌもいつかさ、ウチのパーティーに出るといいよ。めいっぱい着飾って、美味しいもの食べて、そして人前で踊るんだ。僕、誠心誠意エスコートするよ。だって君の楽しむ姿見たいもの」

「本音はドレス姿だろ」

「そうとも言う」

 ふたりの会話に小首を傾げたリレイヌは、不思議そうにしながらもこくりと一度頷いた。楽しそう、と雰囲気で語っている彼女に、ふたりの少年はへらりと笑う。

「もし外に出たらさ、リレイヌは何をしたい?」

「?」

「もしもの話だよ。何かやりたいことはある?」

「……」

 腕を組み、眉を寄せて考え込んだ彼女は、やがてハッとしたように立ち上がるととことこと部屋の奥へ。不思議そうにその背を見つめるふたりを後ろ、棚の上に置かれていた本を一冊手に取ると、それを持ってまた彼らの元に舞い戻る。

「なんの本?」

 問うた睦月。

「人魚姫だって」

 覗き込んだリオルは言う。

「ああ、あの有名な……それがどうかしたのか?」

「! !」

「んん? んー……あ! わかった! 海!」

 閃いたと言いたげな少年の言葉に、開いた本の中を叩いていた少女はコクコク頷いた。それで言いたいことが理解出来たようだ。睦月もリオルも「海!」と顔を見合わせ、頷き合う。

「海が見たいんだな、リレイヌは」

「ならいい所を知ってるよ。日の出も見れて最高なスポットがあるんだ。しかも貝まで掘れる!」

「貝堀り面白いよな」

「塩かけたらニュッて出てくるヤツがいいよね」

 頷き合うふたり。彼らの会話に、リレイヌは楽しそうにニコニコ笑う。

「いつか行こう。約束」

 伸ばされる手。上げられる小指。
 不思議そうに目を瞬いたリレイヌを前、リオルは笑うと、彼女の手を取り、そっと小指をたてさせた。そして、それに優しく己の小指を絡ませる。

「約束のおまじない。ね?」

「……」

 離れた小指。未だ立てられたままの己の指を視界、目を瞬いた彼女は視線を睦月へ。「俺はやんねーぞ」とよそを向く彼に、小指を突き出しにこやかに笑う。

「うっ……まあ、一回だけなら……」

 恐る恐ると絡められた小指。上下に軽く揺られたそれを見て、微笑んだリレイヌは『やくそく』と口を動かした。睦月はそれに目を瞬いてから、ふいっと顔を横に逸らす。

「照れてるの?」

 からかうように告げたリオルに、彼は無言の睨みを向けた。

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