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1話 裏アカ

 私は、親にも、友達にも、誰にも言えないことがある。私、女性なのに、好きと思うのは女性だけ。

 どうして普通になれないんだろう。周りの友達は、あの男性はカッコいい、あの男性と付き合うにはどう声をかけたらいいかとか、笑い声いっぱいで話ししている。そんななか、相槌打ちながらも、ついていけない私がいて、どうして普通になれなのかなって苦しい。私って、普通じゃない。

 中学1年になったときテニス部に入ったけど、部室から出てきた女性の先輩の顔を見れずに下を向いてしまい、自分の好きを知った。でも、こんな体の私じゃ恋愛の対象にはみてくれないだろうって、言い出せなくて、本当に苦しかった。

 男性とも付き合ってみようと思ったこともあるけど、なんか、私の領域に、私の気持ちに配慮とかせずにずけずけと入り込んでくるのが嫌だったし、近づいてくるだけで気持ち悪くて、生理的に受け入れられず、付き合うことはできなかった。そんな感じなので、男性からは、大した女じゃないのに、気位が高すぎて、つまらないやつと言われ、もっと嫌いになった。

 そのころは、クラスの女性どおしで、廊下を走って抱き合い、男女のファーストラブってこんなんだって遊んだこともあったけど、そんな時は楽しかった。それから友達は男性との時間が増えていって、女性どおしの会話って、その隙間時間を埋めるような感じになっていった。私とカフェでランチ食べている時に、彼から電話があり、誘われたのか、今暇してたからすぐに行けるよと返事して、私には、ごめん、彼の所に行くねって行っちゃうことも、よくあった。

 そんな私が、今回は両思いだって信じて告白したこともある。とっても仲良くしていた友達で、なんでも話し合えたのに、告白した途端、気持ち悪いって彼女は逃げていった。勇気を持って告白したのに、私って気持ち悪いんだって、本当に死のうかと思った。

 性転換が多いタイの人から聞いたんだけど、タイでは4人に1人は自分の性に違和感を感じてるんだって。これって、どの国でも同じで、日本がそうじゃないとすれば、言い出せてないだけと言っていた。でも、それって違うと思う。私の友達、みんな男性と楽しそうに過ごしている。私は、なんとなくぴーんとくる男性がいないって嘘ついてる。多分、コンビニのお弁当とかチーンして、容器のプラスティックが溶けて食材に入っちゃう公害とかで、私は、体が変になっちゃっていているかも。そう、人としてクズなの。

 そんな時に、男性として裏アカを作り、SNSで女性と話すことに楽しみを見つけた。女性は、最初、男性を名乗る私に警戒していたけど、根気強く、声をかけ続けていると、10人に1人ぐらいは、優しいね、ありがとうって、DMでの会話をしてくれた。女性達の日々の悩みに応えて、本当に大変だね、大丈夫だよと声をかけ続けていると、ねえ、聞いて聞いてとか、何している人なのとか、会話ができることは、本当に楽しかった。

 そんなことを続けていると、今度会おうとか、Zoomで話そうよって言ってくる女性も時々いた。でも、私が女性だとバレて昔のように嫌われるのが怖くて、色々な理由をつけて会えないと断ってきた。そうすると、連絡してこなくなる人もいたけど、もっと積極的になった方がいいよって言ってくれる人もいた。

 そんな人からメッセージが届いた。
「1週間後、学祭で私、歌を歌うの。来年卒業だから最後の学祭だし、結構、頑張って練習したんだ。聞きに来てよ。」
「いや、その日は、用事があって、行けるか分からない。」
「いつも、そうなんだから草食男子とか言われちゃうんだよ。だめだよ! なんか、見た目とか気にしている? 私、あなたのこと、そんなことで嫌いにならないからって、いつも言っているじゃん。本当に会いたいの。だって、いつも私のこと応援してくれて、私が悩んでいること、いつもわかってくれて、本当にいつもありがとう。会いたい。」
「いや、そんなんじゃなくて。凛のこと、いつも大切に思ってるけど、仕事が立て込んでいて。」
「仕事じゃ、仕方がないけど、いつもじゃないんだから、少しだけでも抜け出せない? 来るって信じて、歌の練習頑張っているから。」

 こんなに言ってくれる女性は他にいないとは思いつつ、自分が女性だとわかったら、また、気持ち悪いって逃げられると思い、綾は、行かないと返事した。でも、綾は毎日、行きたい気持ちで悩んでいて、当日、凛の顔を見たい気持ちが抑えられずに学祭に足が向かった。

 学祭では、アイドル曲が始まり、途中でメンバ紹介となった。自分がSNSで話している人の名前を呼ばれ、彼女が日々、会話をし、心の支えとなっている人だと分かった。顔を見るのは初めてだったが、SNSで会話をしているイメージとぴったりの、子供ぽさを残しつつ、でも芯はしっかりとした女性で、やっぱりこの子だったと思える女性だった。

 でも、声をかける勇気がなく、そのグループの歌が終わり、綾は、会場を出た。学校の校舎を見ながら、好きな人と会って、顔を見ながら笑い合えないことに涙がこぼれていた。その時だった。凛がステージから出てきて、綾とぶつかった。

「あら、ごめんなさい。大丈夫でした。」
「いえいえ、こちらこそ、よそ見をしていてごめんなさい。」
 え、凛じゃない、こんな形で会うなんてと、綾は立ちつくした。

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