第2話 買い物珍道中
久々に帰ってくるお父さんへのプレゼンを買いたい。
嫌がる燈矢の腕を、逃さないとばかりにガッチリとホールドし
半ば引きずるように、ショッピングモールまで来た彩はそう言った。
「燈矢も一応、男なんだからね、なにかいいアドバイスしてよ。」
「んあー。愛情込めた肩たたき券とかでもおじさん喜ぶだろ。」
面倒くさそうに燈矢。
娘を溺愛し、その娘が燈矢と仲良くし始めた頃、真面目に怒りの目を向けてきた
彩の父の姿を思い出していた。あの父親なら、彩の渡すものならその辺に生えている
ぺんぺん草でも大喜びするんじゃないか。おそらく額縁に飾るまでがセットで。
そう考えて、肩をすくめる。
「んー、肩たたき券はね、毎年父の日に上げてるんだけど、お父さん毎回大事に引き出しにしまい込んで、使ってくれないんだよね。」
ため息交じりに彩。
「全く想像というか、予想を裏切らないな、おじさんも。」
ウンザリという表情を浮かべて肩をすくめる。
「だからね、実用的で男性が喜ぶものを、一緒に探してほしいんだよ。」
「うあー、めんどくせぇ…。」
燈矢が答えたら、燈矢の2歩前方を歩いていた彩の足が止まる。
彩は勢いよく振り返ると、1歩燈矢に詰め寄り、下から見上げるようにして言う。
「ね、燈矢はさ、私と買い物しててもつまらない?一緒に居ても楽しくない?」
切実な声音。今まで燈矢が聞いたことがないような彩の声。
軽口で切り返そうと思っていた燈矢は、その声音に言おうとしていた言葉を飲み込む。軽口を立たける雰囲気ではないと、さすがの燈矢も理解した。
「あ、彩?」
「ね、つまらない?今すぐ帰りたい?」
いつになく真剣な表情。彩の目が潤み始めている。
「ど、どうした彩。なんかお前へんだぞ。」
「答えて!」
なんとか雰囲気を変えようと、敢えて軽く言った燈矢の言葉は、彩の言葉にかき消された。なんて答えれば良いんだ。彩は何でこんなに不機嫌になってるんだ。
「あ、いや、別に帰りたいわけじゃないし、彩と一緒に居てつまらなくは…ない。」
ボソボソと歯切れの悪い言い方で燈矢は答えた。
いつもの軽口のつもりで話していたのに、何でこうなるんだろうかと考え込んでしまう。この程度の軽口、いつもしていることじゃないか、なんで今日に限って。
「くす…ぷっ…あはは…。」
燈矢がシドロモドロに言い訳を重ねていると、いつの間にか顔を伏せていた彩から我慢できないといった笑い声が上がる。
「な、なんだよ。」
一生懸命に、言葉を探し、真面目に回答していた燈矢はすこしいらだちを覚えて強めの言葉でそう言った。
「だ、だぁって、あはは、メチャクチャ真剣な顔して言うんだもん。可笑しくて。」
顔を上げた彩は、可笑しくてたまらないと言いながら満面の笑顔で燈矢を見ていた。
「お、お前なぁ、俺は真剣に…。」
「あはは、ごめんってば。だって燈矢、いつになく真剣な顔してるんだもん。」
笑いながら再び燈矢の手を取り歩き出す彩。
燈矢は気づかなかった、その表情にほんの僅かに陰りがあったことを。
そして彩は初めて気がついた。自分の心がチクリと痛んだことを。