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別れと旅立ち

 「お前たちの次の目的地はケントルートだったよな?」

 「はい。国の招聘を無視するわけにはいかないので」

 「なら、東にあるダマリアを通っていけ」
 
 「どうしてですか?」

 ダマリアとはベレバンの東にある国のこと
 わざわざ、ダマリアを通らなくてもケントルートには行けそうだが


 「ベレバンの中心には神の森と呼ばれる場所がある」

 「「神の森?」」

 「あぁ。ベレバンは一神教であるメシア教の影響を強く受けているが、超常的な強さを持つ生物を神と崇める風習があってな。神の森には神と崇められる生物がたくさん住んでいる。だから、神の森に立ち入るのは禁止されているんだ」

 「そんな場所があったんですね」

 「ケントルートに行くなら海路もあるんだが、お前らは冒険者だろう?冒険をしたいなら、俺は陸路で行くことを勧める」

 神の森か。入ってみたい気持ちがあるけど立ち入り禁止なら仕方ない
 でも、その周りを見ることは出来るはずだ。陸路で行って神の森とやらを拝んでみたい
 俺たちは旅をしに来てるんだ。海路で行くのは面白くない


 「陸路で行こうか」

 「結構かかると思いますよ」

 「いいじゃん。旅ってそういうもんじゃない?」

 「それもそうですね。陸路で行きましょう」

 パレードも陸路で行くことに納得してくれた
 |碧龍《へきりゅう》で飛ぶのはありだけど、空路を使うのも面白くない
 この足で歩いて色んな体験をしたい
 最初はエルサ帝国で無職の死刑を逃れるためにベレバンに来たけど気づけば、旅が目的になりテロ組織を壊滅していた。これは巡り合わせという言葉で表現していいだろうか


 「そうと決まれば準備しよう」

 「もう行くんですか?」

 「うん。旅立ちは早いほうがいいじゃん」

 「そうか。なら、俺たちも精一杯送ってやらないとな」

 「ファルマンさん。そんなことしなくていいですよ」

 「させてくれ。街を救い復興も手伝ってくれた恩人に何もしませんでした、では面目がない」

 この1ヶ月間、復興の手伝いはしたがファルマンさんが面倒を見てくれたおかげで生活出来たんだ
 金もなくなり、拠点も消えた俺たちをずっと面倒見てくれた
 俺たちこそ何も出来ていない


 「モゼさん。準備しに行きましょう」

 「うん。そうだね」

 俺たちはファルマンさんに挨拶をして部屋を出て、そのままギルドの外へ出た
 そして、今泊まっている宿屋に向かい旅を準備を整える
 お互いに準備を終えるとルースの外に向かって歩き出す
 街と平原の堺まで来ると大勢の人が立っており、俺たちが来ると黄色い歓声を上げた
 手回すの早くない?普通、短時間でこんな人集まるもんなの?
 ファルマンさんの人望を目の当たりにした気分だ


 「元気でな。いつでも戻ってこい」

 「はい。色々お世話になりました」

 「気にすんな。お前らがこの街に施した恩恵は計り知れない。改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」

 「お礼ならもうお腹いっぱいもらいましたよ。十分です」

 ファルマンさんがかしこまって礼を言うので恥ずかしくなってしまう
 俺は照れ笑いしながら言った
 

 「それと、お前ら一文無しだろ?」

 「痛いところを……」

 「ほら、これ。持ってけ」

 「これって……!!」

 ファルマンさんはそう言うと俺の手に大量のトークンを渡した
 重い……!!10万程あるだろうか
 俺たちがなくした金額だ。それよりあるかもしれない


 「街の救世主が一文無しではいけないからな。これだけでは足りない恩があるが、せめてものお返しだ」

 「ありがとうございます……!」

 「行って来い。お前らならきっと大丈夫だ」

 「「はい!!」」

 俺たちはファルマンさんに元気よく返事をして平原を歩いていく
 後ろを振り返る度、人々が小さくなっていく
 大勢の人に見送られるのはちょっぴり恥ずかしかったけれど、人々の温かい気持ちを感じた


 「どこを目指そうか?」

 「えっと……アルーラという街が良さそうです。神の森のすぐ隣にある街です」

 「じゃあそこ目指して進もう」

 「本当に歩きで行くんですか?」

 「もちろん」

 「……(これは何を言ってもダメなやつですね)」

 パレードが改めて問うがモゼの答えは変わらない
 モゼの説得は諦め、大人しくついていくことにした
 

 


 ――――――


 「遠い……」

 「だから……言ったじゃないですか。ほんとに歩いて行くんですかって……!」

 「正直舐めてた。一日で辿り着けるって思ってた……」

 俺たちは歩き始めること何時間か分からないが、真上にあった太陽が西に沈みかけているくらい時間が経ったのだと分かる
 こんな遠いの?かかって10時間とかかな?って思ってけど全然違うじゃん
 何でもかんでも軽んじちゃダメだな。痛い目見るな


 「なめすぎですよ……!はぁ……そろそろをテントを立てましょう」

 「テント?キャンプするのここで?」

 「はい。今日中に着くのは無理です。それに夜遅くなれば暗くなって視界も悪いし、魔物も活動を始めます。今日はもう休んで明日の朝、行動しましょう」

 「確かに……もう疲れたぁー」

 「もう、身勝手な人ですね……」

 「それはごめんなさい」

 今思い出した。そういえば生殺与奪を握られてるんだった
 逆らったら命取られる。気をつけないと
 パレードはバッグからテントを取り出し、設置を始める
 俺そういうの持ってないや。どうしよう
 リアル野宿になっちゃうな
 

 「モゼさん、テントは?」

 「うーん。そうだ!」

 作ればいいじゃないか。テントくらい容易い
 じゃあ早速、取り掛かろう
 モゼは魔力を集中させテントを|創造《クラフト》していく
 ものの数秒でテントが出来上がった
 素材は全くの不明。パレードが見たことない素材で出来ていた


 「便利ですね……」

 「慣れたらね。慣れなかったらただの過剰な力だよ」

 「慣れても過剰だとは思いますけど……」

 「確かに。言われてみれば」

 俺たちはテントを設置し、今日のご飯を食べるため狩りに出かけた
 辺りはすっかり暗くなったが魔法でどうにかなる
 だが、あまり明る過ぎても獲物が逃げてしまうので近くなったら消して真っ暗な中狩りをした
 ただでさえ狩りに慣れていないのに、暗闇の中でという条件があるとさらに難しくなる
 俺は何とか鹿を1頭狩ることが出来たが、パレードはゼロだった
 仕方ないな。慣れてないことを格段に難しい状況で成功させるのは不可能に近い
 しょんぼりしてるパレードを慰めながらテントに戻った


 「美味しい!!」

 「結構うまい!」

 鹿を解体し(パレードは無理とのことだったので俺一人)血抜きもしっかりやって安全に食べられるようにした
 パレードが持っていた調味料で味付け(適当)して焼いてみた
 自分の想像より美味しくできた。もっとゲテモノが生まれると覚悟していたが、意外と俺って料理の才能ある?


 「あれだけの火力でやったので焦げてはいますけど……」

 「うっ……でも、あれは事故じゃん」

 パレードが言っている「あれだけの火力」とは俺が肉を焼こうと火魔法を使って火をつけようと思ったのだが、イータルのせいで火魔法の威力が上がって火炎放射器のような火が出てしまった
 その結果、バカ火力で肉を少し焼いてしまったのだ(数秒後にはちゃんと火力は収めた)
 目に見える焦げは落としたがそれでも炭のような匂いは口の中でする
 今度は魔法使わないでちゃんとした方法で火をつけよう


 「次、頑張りましょう!」

 「火をつけるのパレードの担当にしない?」

 「なんで私なんですか?モゼさんでいいじゃないですか」

 「俺、火のつけ方知らないし……」

 「私も知らないですよ」

 「「……」」

 なんだこの微妙な空気は……⁉
 お互いに火のつけ方を知らない。これって致命傷なんじゃ
 火って生活に不可欠だし、それを起こせないってなると俺たちの生活レベルが著しく低下する
 頑張って覚えるしかないのか。やっていくうちに慣れるものだろ
 というか俺の力でどうにかならないかな


 「頑張るしかないね」

 「そうですね。お互いに頑張って覚えましょう」

 「うん。それしかない」

 火の件は一段落ついたな
 パチパチと燃える火を眺めながらパレードと談笑していた

 
 「体を洗ってきます」

 「どこかにあったけ?」

 「近くに川が流れていたので、そこで洗おうと思います」

 「わかった」

 パレードは荷物を持って近くの川に向かった
 俺も体洗おうかな。今日歩き回って汗かいたし
 パレードが戻ってきたら俺も行こう(さすがに今は人道的にダメだ)
 
 
 「この皮どうしよう」

 「皮は利用できる。でも、肉がこびりついてるからそれは取った方がいい」

 「イータル詳しいね」

 「俺様は魔物だからね。サバイバル術はあるよ」
 
 鹿の皮の処理に困っているとイータルが突然喋りだした
 イータル曰く結構利用価値はあるらしい(魔物の世界だから人間に通用するかはわからないけど)
 でも、綺麗な皮なら高値で売れそうだし丁寧に処理しておこう
 皮にこびりついた肉を落とすってどうやればいいんだ?石か?


 「どうやって肉を落とせばいい?」

 「俺様は石で落としてた。魔法でもいいと思うけど、頑丈にこびりついてるから高威力じゃないと落とせない。でも、高威力の魔法を使うと皮が傷つくだろうからお勧めはしない」

 「うーん。石でやるか。ここら辺に落ちてる石じゃ小さいかな?」

 「大きい方がやりやすいかも」

 「大きい石。それがあるとするなら……川か。川に行こう」

 モゼは人道的に川に行くのはダメだと言っておきながら川に向かった
 モゼの頭の中からパレードが川に体を洗いにいったことは消えていた
 無論、事故は起きた(過失割合、モゼ10:パレード0。事故じゃなくて事件)
 

 ――――――
 
 
 「今日は疲れました」

 パレードが生まれたままの姿でいる
 流れる川の水の透明さに見とれながら体を洗っていた
 水の透明度が高く、パレードの体が水に反射して写っている
 
 
 「何でしょう……この臭い」

 パレードが生物の生々しい臭いに気づき、臭いのする方に視線を向けると皮にこびりついた肉を大きな石で落としているモゼを見つけた
 パレードはモゼを見つけると顔を真っ赤にして叫びそうになったがこらえた。そして怒りが湧いてきて剣の方向に向かう
 

 「モゼさん……!?私、体を洗ってると言いましたよねっ!!!」

 パレードは剣を鞘から抜きモゼに向かって思い切り投げる
 剣がモゼの持っている皮を貫いた


 「あぁぁぁ!!!皮がぁぁー!!?」

 俺が皮についた肉を落としていると突然剣が飛んできて皮を破いた
 嘘だろぉぉ!!頑張って落としてたのに……
 一体誰だ!俺の努力を水の泡にしたのは!?

 
 「どこか行ってください!!」

 「パ、パレード!?あ、え、あの……すぐに撤収しますぅぅ!!」

 あ、人として終わった。そう感じた、いや|確《・》|信《・》した瞬間だった
 川に行くのは人道的にダメだって言ったのに、パレードがいるのすっかり忘れてた
 忘れてたなんて言ったら、殺されるよね
 それに生殺与奪を握られてるんだった
 なにかもおしまいだ。
 
 
 ――――――


 川での出来事は水に流してもらえた(めちゃくちゃ怒ってたけど助かった)
 お互いに忘れられない出来事となってしまった(パレードからすればトラウマ)
 あの瞬間、パレードの方を見たけど大事なところは隠してて見えなかったからセーフ!(アウトォォ!!)
 一線は超えてないけど、人として終わった
 これでパレードに失望されただろう
 忘れてた、と言ってみたら冷たい目で見られた。その時は死がすぐ目の前にあった気がした
 命があることに感謝して日々を過ごしていくと誓った
 

 「そろそろ寝ませんか?時間も遅いですし」

 「そうしたいけど、魔物の気配がするんだよね」

 「倒しますか?」

 反省会が終わり、夜も遅くなってきたので寝ることになった
 探知スキルを使うと近くに魔物がいるとわかる。でもこちらには気づいていない様子だ
 パレードは魔物と言う言葉を聞くと置いていた剣を手に取り、真剣な表情をする
 倒してしまうのはありだけど、魔物はこちらに気づいていない
 気づいていないならわざわざ倒すことはしなくてもいいと思う
 一応気づかないか起きておくか?でも、朝から出発の予定だから魔法なしで疲れは取っておきたい
 見張りで|碧龍《へきりゅう》をおいておくか
 いやそんなことしたら魔力が寝てる間に吸われていく
 気配を消す魔法をかけるか、そっちのほうが魔力の消費は抑えられる


 「|隠密空間《シークレットパース》」

 「何したんですか?」

 「この魔法をかけてる間は魔物にこちらの存在が気づかれない。安心して寝られるよ」

 「ありがとうございます。それではおやすみなさい」

 「うん。おやすみ」

 明日の朝から出発だ。大変だけど頑張ろう
 アドナイ様、人として終わりました

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