74 料亭の看板
宿屋に戻ってきたミトとラクトは、すでに新しい服を着用していた。
「この柄が、今のクルール地方で流行ってるのよ!」
ウテナが言った。
2人とも、植物や花をモチーフにしたエレガントな模様のついた肩掛けをつけていた。どことなく、日本でも絨毯とかで見たことがあるような模様だ。
腰から下は、ミトは濃い紫、ラクトはダークグリーンの色鮮やかな、股下ゆったりのステテコパンツのようなものをはいていて、肩掛けと絶妙なバランスを保っている。
「2人とも、似合ってるね」
「そ、そうかな?」
「へへへ」
マナトの言葉に、ミトもラクトも恥ずかしそうに、嬉しそうにしていた。
2人とも、ジンに負けてはしまったが、そこまで落ち込んでいる様子はなかった。
戦いの後に雨に打たれたということが、負けたことを忘れさせるくらいに嬉しかったらしい。
「マナトさんも、はいこれ!」
ウテナが、マナトに服を差し出した。
紺色に白の、トランプの裏面やネクタイなどで利用されている幾何学的な模様のある肩掛けに、暗色の股下ゆったりステテコだった。
マナトも新しい服に着替えた。
「うん、いいんじゃないかしら?」
「ありがとうございます、ウテナさん」
皆で話していると、ルナがトイレ……か、どうかは分からないが、戻ってきた。
「あっ」
ミトが、ルナに気づくと、マナトを見た。
「ルナさん、マナトの火傷を、寝てる間に治療してくれてたんだよ」
「ああ、大丈夫、分かってるよ。……ルナさん、ちょっと、散歩しませんか?」
「あっ、はい」
「それじゃ、ちょっと行ってきます」
「行ってきま〜す」
マナトとルナは宿屋を出た。市場へと向かって歩き始めた。
「看病してくれた、お礼させて下さい」
「そんな。全然、いいんですよ」
「いやまあ、ちょっとした食べ物というか、大したものは……あっ、そうだ。すみません、少し、寄り道してもいいですか?」
「あっ、はい」
マナトは進行方向を変えた。少し進むと、ルナにも行き場所が分かってきた。
「料亭に、食べに行くんですか?」
「あっ、そういうわけじゃないんですけど……」
「?」
「ちょっと、気になるというか、横を通り過ぎるだけなんです」
料亭の下までやって来た。外からでも、客の賑やかな声が聞こえてきていて、相変わらずの繁盛っぷりが伺える。
「んっ」
石の柱の上に立つ料亭の、入口へと続く階段の手前に、今まではなかった看板が、立て掛けられていた。
「……これは?」
「あっ、読みましょうか!『好評いただいていたカメ肉の甘辛炒めですが、現在、秘境のカメ肉が入手困難な状況となっており、大変恐縮ですが、カメ肉は当分の間、控えさせていただくこととなりました。ご了承ください』って」