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放火の犯人になったかもしれない

 「まず、名前を聞いてもいいか?」
 
 「僕はモゼです」
 
 「私はパレード言います」

 「俺はさっきも言ったがファルマンだ。これから冒険者としてよろしくな」
 
 「よし、じゃあまずはギルドカードの発行からだ」
 
 「ギルドカード?」
 
 「ギルドカードって言うのは簡単に言えば冒険者であることを証明するためのものだ」

 聞いたことがない単語を耳にしたので聞き返した
 冒険者であることを証明するものか。冒険者にはランクがあるというのを聞いたことがある
 そういう情報が刻まれたものだろう


 「これに年齢と名前を書いてくれるか?」

 「はい」

 ファルマンさんは机の上にある書類を持つと俺たちに渡した
 年齢と名前を記入する欄があるだけだ。これが一体何になるのだろうか
 この書類ファルマンさんの机の上にあったよな。準備早すぎだろ


 「これでいいんですか?」

 「おう。ありがとうな。じゃあついて来てくれるか?」

 「分かりました」

 俺たちはファルマンさんのあとをついていく
 連れられた場所は高そうな絨毯がひかれた小部屋。真ん中には机がおいてあり、その上には水晶がおいてある


 「おい。ギルドカードを作ってくれ」

 「……えーめんどくせぇよ」

 「グズグズ言わないで作れ」

 「「水晶が喋った……」」

 ファルマンさんが水晶に話しかけるので急にどうしたんだ?と思ったが水晶が口を開けて急に喋りだしたのだ
 俺はこの状況に目を疑った。水晶が喋るなんてことはありえない。口が付いてるのもありえない
 さっきまで口なんか無かったのに急に現れた
 

 「これは水晶じゃない。魔物だ」

 「魔物?」

 「俺様は人間に捕まった悲しい魔物だよ」

 「どういうこと?」

 「知能がある魔物をテイムして水晶の中に閉じ込めてるんだ」

 「こんなの酷いよな?魔法陣のせいで動くことも出来ないんだぜ?」

 机の下に魔物が言っていた通り魔法陣がある
 これで動けないのか。可哀想だけど魔物だしな
 敵だからこの扱いになるのも仕方ないのか


 「酷い……」

 「パレード?」

 「これはあんまりですよ!」

 「いやまぁ……お前の気持ちはわからんでもないがこいつがいないとギルドカードの発行が出来ないんだ」

 「だからって!」

 「いいぞ、嬢ちゃん!もっと言え!」

 「お前は黙ってろ!」
 
 パレードに詰められるファルマンさん。パレードを扇動する魔物。それに叱咤するファルマンさん
 色々なことが起こりすぎてる。とりあえずパレードを落ち着けるか
 魔物はファルマンさんに任せておけばいいだろう


 「まぁまぁ、パレード落ち着こう。ここで揉めても何もないよ」

 「……それもそうですね」

 「邪魔すんなよ、小僧!」

 「お前はいい加減にしろ!」

 「痛っ‼拳はダメだろ!割れるぞ!いいのか!?」

 俺がパレードを止めに入ると魔物が何か言ってきたがファルマンさんに拳を食らっていた
 それほど強くは|殴《ぶ》ってはいなかった。大げさな魔物だな


 「ほら、仕事だ」

 「ちぇ、わかったよ……」

 魔物はそう言うと口を大きく開けて俺たちが名前を書いた書類を飲み込んだ
 ムシャムシャと書類を食べる様は衝撃的だった


 「小僧、俺様の前に立て」

 「こう?」

 「そのままじっとしてろ」

 魔物に言われた通りそのまま立っているとパシャ、という音が聞こえた
 何の音だ?写真でも撮ったのか?


 「じゃあ次嬢ちゃんだ」

 パシャという音が再び聞こえた
 どう考えても写真撮ってるな

 
「あとはこいつに任せれば出来上がる。もう夜も遅い。今日は休んで明日来い」

「分かりました」

 時計を見ていないけどもう随分時間が立っているだろう
 早いところ宿を見つけて休みたい。体は未だに重いままだ


「ファルマンさん、素材の換金は……」

「ああそれなら終わってる。受付でもらってくれ」

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちの方だ。振り回しちまってすまないな」

 俺たちは部屋を出て、受付に向かった
 受付でお金をもらったのだが量の多さに目を疑った
 ざっと10万トークンはある


 「本当にこんなもらっていいんですか?」

 「はい。査定通りです」

 「これだけあれば数日は持ちますね」

 「そうなの?」

 「はい。とりあえず宿を探しましょう」

 俺たちはギルドを出てルースを歩き回った
 外は暗く街灯がなければ到底歩くことなど出来ない程の暗さだ
 しばらく歩き回り宿を見つけた。二部屋借り、お互い別々の部屋に入って今日の疲れを取った

 



 ――――――
 
 
 「あの小僧、結構やばいぞ」

 「モゼのことか?」

 「ああ。あいつからアドナイ様の力を感じた」

 「勘違いじゃねぇか?お前ポンコツだし」

 「バカにすんなよ!人間ごときが」

 「負け犬の遠吠えにしか聞こえねぇよ」

 モゼとパレードがいなくなった部屋でファルマンと魔物が話していた
 魔物はモゼの秘密に気づいているようであったが、ファルマンの相手にされなかった
 魔物はプライドが高いのか少し馬鹿にされただけで激昂する
 
 
 「明日までには終わらせろよ」

 「はぁ……わかってるよ」

 「じゃあな」

 ファルマンはそう言うと部屋から出ていった
 魔物は一人残された部屋で黙々とギルドカードを制作していた




 ――――――


 「モゼさん、起きてますか?」

 扉をノックする音が聞こえて目が覚めた
 もうそんな時間経ったのか。寝てると時間が溶けていく
 昨日の疲れは取れたな。体が軽い
 

 「うん。ちょっと待って」

 体を起こし扉の前にいるパレードに返事をする
 そして支度を整えて扉を開ける
 扉を開けるとパレードが笑って出迎えてくれた


 「おはよう」

 「おはようございます。疲れは取れましたか?」

 「寝たら吹っ飛んだよ」

 「それは良かったです」

 「朝食を食べましょう」

 「エネルギーを蓄えないとね」

 俺たちは宿屋を出て店を探した
 散策していると良さげな雰囲気のお店があったので朝食をそこで食べることにした
 扉を開けて中に入ると客の姿がチラホラとあり席は空いていた
 

 「いらっしゃいませ。ご自由にどうぞ」

 自由に座って良いとのことだったので窓側の席に座った
 窓から朝日が差し込んできていてガラス越しに温かさを感じる


 「ご注文はいかが致しますか?」

 「ケッベでお願いします」

 「私はアエージェでお願いします」
 
 「かしこまりました」
 
 メニュー表には色々な料理の名前があったがせっかくベレバンに来たんだしこの国の料理を食べたい
 ということでベレバン料理と書かれていたケッベを注文した。どんな料理かは手元に来ないとわからない
 パレードもベレバン料理を頼んでいるので俺と同じ気持ちなのだろう
 
 
 「せっかくだしこの国の料理を食べたいよね」

 「ベレバンに来るのは初めてなので、どんな料理なのか楽しみです」

 「俺も初めてだからなぁ。どんなのなんだろ」

 「来てからのお楽しみですね♪」

 これから来る料理を楽しみにしながらパレードとの話に花を咲かせていた
 パレードとは出会って1日しか経ってないけど、上手くやっていけそうな感じがしてる
 これからも仲良くやっていけたらなって思う
 

 「お待たせしました。ケッベとアエージェーでございます」

 パレードと談笑していると料理が運ばれてきた
 俺が頼んだケッベという料理はひき肉を焼いたものでクリームやザクロなどが添えられていた。店員の話ではひき割り小麦が混ぜられており、軽い食感で食べられるようになっているとのこと。朝食にはちょうどいい料理だった
 パレードが頼んだアエージェという料理はズッキーニなどの野菜にミントやパセリなどのハーブを加えたオムレツ。本来なら平たいそうだが、この店では平たくせず通常サイズで提供しているとのこと。かなりのボリュームがあるので朝食にしては多いかもしれないが栄養はありそうだ


 「美味しそうですね」

 「元気が出そうだね」

 運ばれてきた料理に見とれていたが、いつまでも見ていると食事が冷めてしまうので挨拶をして食事を始める
 食事中もパレードと談笑しながら楽しい朝食の時間を過ごした
 

 「そろそろギルドに行こうか。ファルマンさんも待ってるはずだ」

 「そうですね。ギルドに向かいましょう」

 俺たちは食事を終えると会計を済ませ店を出る
 太陽は建物に邪魔されることなく輝いている


 「急げ!間に合わないぞ!」

 「わかってる‼」
 
 ギルドへ向かう途中で冒険者らしき人たちが慌てた様子でどこかへかけていった
 何があったのだろうか?俺たちは少し気にかけながらギルドに向かった


 「どうしたんだろう?」

 「異様な雰囲気ですね……」

 俺たちがギルドに入ると色んな人が焦った表情であっちやこっちを行ったり来たりしている
 さっきの冒険者といい何が起きてるんだ?
 混乱しているギルドの中を人を掻き分けて進みファルマンさんを探した
 受付には誰もいない。勝手に奥に入るのは迷惑かと思い受付で待っていると奥からファルマンさんが出てきた
 顔は真剣そのもので威圧感が増している
 

 「おう!お前たちか!」

 「どうしたんですか?」

 「森が火事になってる。このままだとルースに火が移っちまう。冒険者たちを総動員して消火活動に当たってるんだが、時間が掛かっていてな……」

 森が火事になっているというファルマンの言葉で二人の脳内に昨日モゼが森に火をつけた光景が連想される
 あれこれ犯人、俺?でもあの後、水魔法で火を消したし……
 もしかして完璧に消えなかった?
 そうだとするなら犯人は俺だ。言い逃れできない


 「お前たちも消火活動を手伝ってくれるか?」

 「はい!身を粉にして頑張ります!!」

 「お、おう。そうか、頼む」

 「パレード行こう!」

 「え、あ、はい」

 俺はパレードの手を引いて急いで森へ向かう
 犯人の可能性があるんだ
 違ったとしても責任は取らないと。急いで森に行って消火しないと!


 「モゼさん、あなたですよね?」

 「違うんだ!パレード!それは誤解のはずなんだ!」

 「否定出来ないんですね?」

 「うっ……確かに。それは、そうだけど」

 「とにかく!まずは火を消しましょう」

 森まで来ると火が木々を焼き尽くしていた
 煙と生き物の焼ける匂いが鼻を刺激する
 思ったよりも酷い状況だ。一刻も早く消さないと
 パレードは俺が犯人だと思ってるみたいだ
 それもそうだよな。目の前で見てたもん
 

 「クソ!いつになったら消えんだよ!」

 「文句言う前に手を動かせ!!」

 「わかってるよ!!」

 この場にいる冒険者はバケツで水を運んできて火にかけている
 それでは火が収まることはない
 水魔法を使っているものもいるが水量が少ない
 これでは森が焼け落ちる


 「|水鉄砲《アクアガン》」

 「水魔法使えるの?」

 「少しは使えますよ。モゼさんほどじゃないですが」

 パレードが火に向かって水魔法を唱える
 だが、他の冒険者同様に水量が圧倒的に足りていない
 雨でも降れば収まるか。雨を降らそう


 「|天候変化《クリマシャンゼ》・|雨《プルヴォワール》」

 俺が魔法を唱えると空に暗雲が立ち込め、ポツポツと雨を降らす
 雨が次第に強くなりザーという音をたてて森全体を濡らしていく
 これでしばらくすれば火は収まるだろう
 それでも心配だからもう少しやっておくか


 「うず……」

 「モゼさん!もう大丈夫ですよ。あとは時間が解決してくれます」

 「そうだね。これ以上はやり過ぎか」
 
 魔法を唱えようとするとパレードに止められた
 森を見てみると火が若干弱くなっている
 これ以上は森に害が出る。パレードがいなかったら危なかった


 「雨だ!救いの雨だ!」

 「ふぅ。これで解決か」

 「はぁ、朝から疲れた……」

 他の冒険者たちも消火活動を辞めていた
 強くなる雨に打たれながら安心した表情を浮かべていた
 

 「戻ろうか。雨も強いし」

 「そうですね。朝から大変なことに巻き込まれましたね」

 「それ嫌味?」

 「どっちでしょうね。でも罪滅ぼしにはなったんじゃないですか?」

 「うっ……」

 パレードが体を伸ばしながら、サラッと嫌味を言ってきた
 顔にお前が悪いと書かれている気がする
 犯人は分からないがとりあえず大事にならなくてよかった
 罪滅ぼしと言われると心がえぐられる
 疑いが晴れる時はくるのだろうか
 アドナイ様、無職とは違う罪で死刑になるかもしれません

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