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神の力ー②

 「ちょっと失礼しますね」

 俺はスライムの方に近づいていく。スライムは俺に気がつくと標的を変えて一直線に向かってくる
 そんなことお構いなしに近づいていくので距離が見る見る縮まっていく


 「そんなに近づいたら危ないですよ!」

 女性が心配して声を掛けてくれるが俺は耳にも留めずスライムの方へ向かっていく
 スライムが手を伸ばせば届く距離まで来た時、俺はスライムに向かって魔法を唱えた
 

 「|火華《フレアチップ》」

 手から火の粉がスライムに向かって飛んでいく。その際に出た音が女性の悲鳴をかき消した
 火の粉が当たるとスライムは蒸発して跡形もなく消え去った

 
 「すごっ……」
 女性は口を開けたまま目の前で起こった出来事を見ていた
 俺は振り返り、女性に軽く会釈した


 「怪我されてないですか?」
 女性の方に近寄り声をかける
 見た感じは怪我をしていなさそうだ


 「大丈夫です……あなたの方こそ大丈夫ですか?」

 「見ての通り、何も問題ないですよ」

 「私はパレードと言います。あなたのお名前をお聞きしてもいいですか?」

 「俺はモゼって言います」

 パレードはお互いの自己紹介を終えると深くお辞儀をする
 モゼもパレードほどではないが軽くお辞儀をした


 「助けて頂きありがとうございます」

 「いえいえ。無事で良かったです」

 「あの数のスライムを一瞬で倒すなんて何をされてるんですか?」

 「ただの旅人ですよ」

 俺は思いついた言葉をそのまま声に出した
 今の状況は旅人と大差ない。旅人がいるなんて聞いたことないけど


 「どちらに行かれるんですか?」

 「ベレバンを目指そうと思ってます」

 「私も一緒です。もし宜しければ一緒に行きませんか?」

 「いいですよ。魔物が出るかもしれませんしね。協力して行きましょう」

 俺はパレードさんと一緒にベレバンを目指すことになった
 綺麗な人と一緒に行動出来る機会があるとは思いもしなかった
 道中、魔物と接敵するなどはしたがそこまで強い敵には遭遇せずに済んだ
 身の上話に花が咲いて気づけば、ベレバンとエルサ帝国の国境まで来ていた
 パレードさんはエルサ帝国の海を挟んで西にあるゲレシアで生まれ育った
 成人したものの自分に出来ることは何かと探すため旅に出ているそうだ
 ゲレシアにはエルサ帝国と違う宗教が信仰されているため天啓などはないそう(エルサ帝国ではメシア教が主に信仰されており、ゲレシアはクライスト教)
 職業は自分で決められるし、無職だからといって死刑になることはない(やっぱり|この国《エルサ帝国》おかしい)
 旅をしてる理由が立派すぎて聞いていて心が折れそうだった。真剣に旅をしている人と出会った時の対処法を教えてくれ、アドナイ様
 立派なことをしているのに俺と同じ15歳。こうも違いが現れるものだろうか
 

 「身分証は?」

 国境にある検問所の列に並んでいると前の方でなにかあったのか列が全く進まなくなった
 最前列の方を見てみると男の人と兵士の間で何か起きてるようだ


 「は、はい……」

 「……!お前、職業欄が空欄とはどういうことだ?」

 「間違いですよ!私は無職なんかじゃありません!ちゃんと仕事についてます!」

 「何の職業に就いているんだ?」

 「そ、それは……」

 男は兵士からの問いに一瞬視線を背けた
 その一瞬を見逃さなかった兵士は持っていた槍を男に向ける


 「答えられないということは貴様無職だろう!この国で無職がどのような処罰を受けるか知っていないわけではないよな?」

 「死刑だけは!お願いします!まだ死にたくない!」

 「無駄な抵抗はやめろ。手間がかかるだけだ。大人しくするんだな」

 「嫌だ!いやだぁぁぁ!!!」

 「ったく……手間取らせやがって」

 男は発狂しながら兵士から逃げる
 兵士は呆れた様子で逃げ出した男を追う


 「ゲフッ……」

 「手間取らせんなって言っただろうが。クソ無職が」

 男がモゼの並んでいる付近まで来た時、後ろから槍で体を貫かれた
 その際に血が勢いよく吹き出し、辺りに撒き散らされる
 並んでいた他のものの中には悲鳴を上げ、逃げ出すものもいた


 「どうしてそんなことを!?その人は何もしていなかったはず」

 「この国では無職ってだけで死刑になります。その男の人も無職だったんでしょう」

 「それだけで……?おかしいですよ、そんなの!」

 やはりおかしい。無職というだけで殺されるのは
 このまま列に並んでいたら俺もこの男の人の二の舞いになってしまう


 「血の汚れって落ちにくいんだよな。めんどくせぇ」

 兵士は何事もなかったかのような表情で元の場所に戻っていく
 この兵士は人を殺すことをなんとも思っていない
 |この国《エルサ帝国》はすべてがおかしい


 「許せない……!罪もない人を殺すなんて!」

 「こらえて。ここで問題起こしたら故郷に帰れなくなりますよ」

 「……」

 パレードさんが今にも兵士に飛びかかって行きそうだったので慌てて宥める
 俺もなんとかしないとな。このままだと死ぬ未来が見える
 ここはまだ慣れてない|あ《・》|の《・》|魔《・》|法《・》使ってみよう


 「パレードさんはこのまま列に並んでて下さい。用事を思い出したのでちょっと戻ります。検問所の先で待ち合わせましょう」

 「え?」

 俺はぽかんとした様子のパレードさんを見捨てて列を離れる
 ダッシュで人目のない場所に向かった
 

 「|空間転移《ワープ》」
 

 人目から離れた場所に移動し、目を閉じ一人集中を高める
 行ける、と感じた瞬間俺は目を開ける
 目の前にパレードさんが開いた口が塞がらない様子で立っていた
 出来た。高度な技術が必要とされる空間転移魔法
 完全に使いこなせているわけではないが今回は成功した
 一応練習しておいて良かった


 「何したんですか!?さっきまでいなかったのに急にいるし!」

 「手品ですよ。驚きました?」

 「手品って……どう見ても魔法じゃないですか」

 パレードは苦しい嘘をついたモゼに呆れた様子で答える
 さすがに厳しいか。手品と言って引っかかるわけないよな
 それに魔法と言ったか。察しがいい
 でもこの様子だとバレてそうだ
 

 「気づいてます?」

 「気づきますよ。こんな非現実的なことができるの空間転移魔法しかありませんから」

 パレードはよくぞ聞いてくれたといった様子で自信ありげに答えた
 空間転移魔法のことを知っているとは魔法には詳しいのか


 「空間転移魔法は高度な技術を要する上、悪用される可能性が高いことから世界中で使用が厳禁されています。禁断の魔法を使うなんて……まさかそういう感じの人ですか?なら旅人をやっている理由が分かります」

 モゼは空間転移魔法が禁断の魔法だとは知らず内心焦っている
 嘘だろ……空間転移魔法って使っちゃダメなのか知らなかった
 そのせいでなんか勘違いされてるし……
 軽はずみに使うんじゃなかった。あれくらいの検問所、突破する方法いくらでもあった
 
 
 「別に言いふらしたりはしませんよ。安心して下さい」

 「それを信じます……(マジでお願いします)」

 禁断の魔法を使うってことがバレたらどこいっても厳罰が下される
 帝国以外の国にいる間は命の危機から解放されたい

 
 「俺たち同い年なんだし気楽にいかない?普通に話そうよ」

 「……モゼさんは普通にして下さい。私はこのままで大丈夫ですので」

 それだと勘違いされそうな気もするけど……
 敬語を強要してる嫌な奴に見えないかな
 でもパレードがそう言ってるんだし彼女の意見を尊重しよう


 「パレードはどこに向かうの?」

 「ベレバンを見て回りたいと思ってます。モゼさんは?」

 「俺は……」

 そうだ。ここからどうするか決めてないんだった
 ここで生活するといってもな
 ベレバンのことは何も知らない
 エルサ帝国の北にあるということだけ


 「決まってないようでしたら、一緒にベレバンを見て回りませんか?」

 「え?」

 「嫌なら別にいいんです!もし良かったらの話です」

 パレードは顔を真っ赤にして否定する
 一緒に見て回るのはありだな
 何するか決めてないし。だったら一緒に行動した方が良さそうだ
 
 
 「行こう!」

 「いいんですか?」

 「俺は旅をしに来たんだ。一緒にいる人は多いほうが良いに決まってる」

 「ありがとうございます!行きましょう!」

 俺たちはベレバンの街に向かって歩き出した
 後先考えず出発したけど上手いこと転がった
 お母さん、何とかやれそうだよ
 アドナイ様、俺上手くやれてますよね?

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